表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/289

【193 クーロ遊撃隊(前)】


【193 クーロ遊撃隊(前)】



〔本編〕

 マデギリーク将軍に遊撃隊の進言した翌日の未明、クーロは二百の兵と共に討伐軍の中から姿を消した。

 むろんクーロと二百以外の残りのクーロ中官軍は、そのまま王都目指して進軍しているので、マデギリーク将軍といった事前にこのことを知らされていた一部の者を除き、誰もそれに気付かない。

 クーロ中官軍三千は二百が離脱したので二千八百になったが、元々三千もいる軍の二百が離れたぐらいでは、ほとんど目に見える変化はないし、各地方で討伐軍の志願兵を加えながらの進軍であったため、正確な数字は分からないが、おそらくこの時点でクーロ軍は五千ぐらいには膨れ上がっていたであろう。

 それであれば、ますますクーロの離脱が誰にも気付かれないのは当然であろう。

 今、クーロ軍本体の指揮に当たっているのは、クーロの付き人ヨグルと、クーロの小隊長時代にエーレ地方で共に活躍した四人の弓兵の小隊長のうちの、バクラ地方で亡くなった二人を除く、リアンファとソキウスであった。

 つまり、クーロの師パインロを始めとするクーロ軍の主だった者は、クーロと共に本体から密かに離脱していたのであった。目的は、昨日マデギリーク将軍にクーロが進言したとおり、敵将アルナブを討ち取るための遊撃行動である。


 龍王暦二〇九年一〇月一三日、クーロ軍がデルニエ討伐軍の先鋒としてエーレ城を発してちょうど一月後、クーロ中官軍の本隊から密かに離脱した遊撃隊二百は、敵デルニエ王の軍勢の後ろ、距離にして二百メートルも離れていない位置におり、そのまま追尾していた。

 通常、進軍している軍の後ろとはいえ、二百メートルなどという近距離に敵方の部隊――それも二百というそこそこの規模の部隊が近接しながら追尾することは起こり得ない現象なのであるが、このブーリフォン聖王子迎撃軍に関していえば、それが可能であった。

 なぜなら二万五千規模の軍でありながら、まだ敵と一戦も交えていないにも関わらず兵の逃亡が相次ぎ、一〇月一三日現在、二万を下回る数にまで激減しており、とても軍の周辺に偵察兵を出すような余力がなかったためである。

 場合によっては、偵察に出た兵がそのまま逃亡するなどの現象も頻繁ひんぱんに起こっていたぐらいだからであったため、追尾が可能であったのであろう。


 クーロには、師パインロの友人であり、ニンジャという諜報兵として最終段階の兵種であるジャオチュウが中心となった諜報部隊の働きにより、敵将アルナブの本陣の位置はほぼ把握出来ていた。

 ジャオチュウは龍王暦二〇九年のこの年、六十九歳という高齢であったが、諜報能力に全くの衰えが見られず、むしろ年を経る度にその能力スキルが上昇しているように見受けられる人物であった。

 しかし、いくらアルナブ将軍の本陣の位置を特定できているからといって、敵陣深く忍び込むなりして、アルナブ将軍の首を直接狙うといった大博打はするつもりはなかった。

 クーロは敵軍から後方二百メートルの距離を保ちつつ、アルナブ軍に追随する。あくまでも敵将を狙うのは、敵に隙が出来たどさくさにである。

 クーロ遊撃隊が決死隊となって、敵将の首を狙う任務ではない。クーロとクーロ遊撃隊にはほぼ被害を出さずにアルナブ将軍を除くことが最重要課題であった。

 そのためにも、クーロ軍が二百メートル後ろを追随していることを敵に絶対に悟られてはいけない。その秘匿がアルナブ将軍の首を取る以上の必須事項であった。


 さて、クーロ遊撃隊がアルナブ将軍の軍の後方にはりついてから三日後の一〇月一六日、ついにアルナブ軍が敵デルニエ討伐軍の先鋒を確認できる位置にまで距離が近づいた。

 アルナブ軍はクーロ軍が追随した三日間で、さらに兵を減らし、ついに一万六千程度になっていた。

 対するブーリフォン聖王子率いるデルニエ討伐軍の先鋒部隊は、クーロの付き人ヨグルたちが率いるクーロ軍五千に、マデギリーク将軍の一万の軍のうちの先発隊にあたる五千の計一万。

 既に兵の士気なども鑑みて、アルナブ軍はこの一戦で勝利しない限り、次は無かった。

 それでもアルナブ将軍は敵兵の方が少ないことから、ここで一気に攻撃を仕掛け、半ば強引にでも勝ちを拾おうと考えた。

 確かにここでアルナブ将軍側が勝利できれば、あるいは情勢は好転するかもしれない。デルニエ王側のアルナブ軍一万六千は、即日ブーリフォン聖王子側の先鋒部隊一万に全軍で攻勢に出た。それも総攻撃を仕掛けたのであった。

 アルナブからすれば、軍を一日ここで待機させれば、二千は逃亡兵が出る。そのため、これがこの場における最善手であったと思われる。

 さすがに全軍で攻め寄せるタイミングで兵は逃亡を図ることは出来ず、さらに敵が迎撃してくるため、必然的に相手と戦わざるを得ず、戦う以上、敵を倒さなければ生き残ることが出来ない。

 しかし、このアルナブ将軍のこの思惑をクーロ遊撃隊が根底から突き崩す。敵総司令官アルナブ将軍一人を、後背から狙撃したからであった。



 さて話を一度さかのぼらせる。

 今から三年前の龍王暦二〇六年六月。まだソルトルムンク聖王国がバラグリンドル地方を攻略している最中の頃、クーロがバラグリンドル地方の主城バラグリンドル城に籠り、ミケルクスド國三将軍の一人バッサート将軍の攻めを必死に凌いでいる時の話である。

 当時、バッサート将軍はミケルクスド國の最新鋭兵器巨大投石車を二台、この城攻めに投入し一気にバラグリンドル城陥落を狙ったのであったが、クーロ軍の上位弓兵パインロとズグラの射かけた矢によって、巨大投石車は破壊され、バッサート将軍の作戦そのものが頓挫したのであった。

 この時、パインロとズグラが巨大投石車に射かけた矢は、矢のお尻に当たる矢筈やはずに火薬を仕込み、射抜く瞬間、魔兵が矢筈に火球をぶつけるといった高等連携技により、矢の飛距離を二倍、並びに矢の速度を飛躍的に上げたが故の結果であったが、あれから三年、それに関する研究をクーロ軍は独自に進め、矢そのものに魔兵の術式をあらかじめ組み込むことに成功したのであった。


 それについて先に結論から述べると、矢筈に火薬を仕込み、弓兵が矢を射る瞬間に魔兵の術で火球を作り出し、その火球を矢筈にぶつけるという、荒業でありながら弓兵と魔兵の両者に高度な連携技を求めるこの手法は早々に断念した。

 弓兵、魔兵両者への負担の大きさ、失敗する危険度リスクの高さ、それも場合によっては弓兵の生命線ともいえる弓のつるを引く利き手の指を、損傷もしくは失うといったリスクの大きさが、矢の飛距離を二倍にする程度の実利リターンに対し、そのバランスが伴っていなかったからであった。

 従って、これから考察するのは、高等連携技によってもたらされる矢の飛距離と速度を二倍以上にするのと同じ効果をいかに、安全かつ高確率で成功させるかといったところのことであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 アルナブ(デルニエ王麾下の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 ジャオチュウ(パインロの友人。クーロ隊の諜報部門を担う)

 ズグラ(パインロの直弟子、クーロ隊の一員)

 ソキウス(クーロ隊の一員。弓兵)

 デルニエ王(父王を殺害した聖王子。殺害後、王を僭称する)

 パインロ(クーロの弓の師であり、クーロの隊の一員)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ヨグル(クーロの付き人。クーロ隊の一員)

 リアンファ(クーロ隊の一員。弓兵)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 バクラ地方(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある地方。北側がバルナート帝國領、南側がソルトルムンク聖王国領である)

 バラグリンドル城(バラグリンドル地方の主城)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国の一地方。元ミケルクスド國領)


(兵種名)

 最終段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番上のランク。トップランクとも言う)

 ニンジャ(最終段階の剣兵。諜報活動に優れている。いわゆる『忍者』)


(その他)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 中官軍(三千人規模の軍)

 投石車(巨大な岩石を主に飛ばす攻城用の車)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ