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【191 忠臣の献策(前)】


【191 忠臣の献策(前)】



〔本編〕

 デルニエ王失脚のシナリオが走り出す。それでも、デルニエ王は足掻あがきは、さらに続く。

 この足掻きが、彼の運命を好転させるような要素はほとんど無いが、全く無意味でなかったことが実は問題であった。

 デルニエは、王と僭称せんしょうした四日後の九月一四日、ヴェルト七國に使者を送る。

 一四日は、ブーリフォン聖王子のデルニエ討伐軍先鋒部隊クーロ軍千が、エーレ地方を発った一三日の翌日に当たるため、おそらくこの日にはデルニエ王の耳にも、クーロ軍の情報が入っていたことであろう。

 進退窮まり焦ったデルニエ王が、慌てて他国に使者を送ったと言える。そしてその内容は、デルニエ王の混迷こんめいぶりを他国に広く知らしめる内容であった。

 いわく、“朕(デルニエ王)を害そうとする賊軍――ブーリフォン聖王子の軍を打倒するに当たり援軍を請う。ブーリフォン聖王子の軍を撃退した暁には、貴国が派遣された軍勢の規模に応じ、我が國(聖王国)の領土を割譲する用意がある”

 具体的なことは一切明記されていないが、デルニエ王は七國に聖王国領を割譲する条件で援軍を要請したのであった。とにかく同盟国でもない国々に具体的なことがほとんど触れられていない形での援軍要請であったため、他国からすれば、ブーリフォン聖王子の軍勢を打倒する援軍と称して、聖王国領内に堂々と軍勢を送り込むことが出来るようになった。

 デルニエ王の書簡にほとんど権限はないが、聖王国領を侵攻する大義名分を他国に与えてしまったのは、致命的ともいえるデルニエ王の失策であった。

 デルニエ王としては起死回生の逆転劇を狙ったのかも知れないが、この失策はデルニエ王側のみに不利に働くものでないのが大きな問題で、ブーリフォン聖王子側もデルニエ王を打倒するに当たって、一時いっときも時間を無駄に出来ない状況に追い込まれてしまったのであった。デルニエ王のこの失策は、聖王国の行く末に大きな影を落とした。

 それでもブーリフォン聖王子は、これを危機ピンチとは受け取らなかった。むしろ、これを好機チャンスと捉え、積極的に我が(王)道を突き進み始めたのであった。

 まさに稀代の名君として、後世に燦然さんぜんと名を轟かす『闘王』こと、ブーリフォン聖王子。

 この時を初年として、聖王国最盛期のいわゆる『六将大戦役』時代の始まりと捉える後世の歴史家が数多くいるほど重要な年となったのである。



 聖王国の聖王の総称は一日足らずで、その後聖王国の王と名乗ったデルニエ王。そのデルニエ王に付き従った二人の将軍がアルナブとラタハトである。二人は精力的にマルシャース・グール周辺の地域から兵をかき集め、曲がりなりにも四万という大軍勢を揃えることに成功した。

 マルシャース・グール周辺の地域からすれば、ブーリフォン聖王子の生存も、その軍が王都に向けて進軍を始めている事実も、徴兵の時にはまだ届いていなかったため、デルニエ王の命に従わなければ、その場で即粛清されるという恐怖から、地方領主はデルニエ王の徴兵に進んで協力した。そのため短期間とはいえ、四万の兵が集まったのであった。

 デルニエ王は、この軍勢で王都に上洛を始めたブーリフォン聖王子の軍と相対するつもりでいた。

敵方にはマデギリーク将軍という聖王国一の将軍がいるが、それでも倍の兵を揃えたのであるから、一気に雌雄しゆうを決すれば、勝算は大いにある。

 こちらはマデギリーク将軍ほどの将ではないにしても、歴戦の将軍アルナブとラタハトの二将がいる。

 四万の軍勢が集まり、すっかり気を良くしたデルニエ王であったが、その彼の気を根底から挫く事柄が王都西部からもたらされた。

 九月二三日のジュリス王国軍の聖王国内侵攻がそれである。

 ジュリス王国は、先ずデルニエ王の援軍要請の使者の首を、口上を述べているその場で落とし、前聖王ジュラーグレースと締結した軍事同盟を尊重し、ブーリフォン聖王子と協力して、デルニエ王討伐の軍を起こすことをヴェルト全土に宣言したのであった。

 そしてその姿勢を積極性に表す意として、ジュリス王国一の猛将アッティモ将軍に、ジュリス王国が選りすぐった精鋭一万を率いさせ、一路、王都マルシャース・グールを目指させたのであった。

 これでデルニエ王は、ジュリス王国軍とブーリフォン聖王子軍の二正面に軍を派遣させなければいけない事態に陥ってしまい、デルニエの二将軍と四万の軍勢を全てブーリフォン聖王子軍に向かわせることが出来なくなったのであった。


「デルニエ王陛下! ジュリス軍出撃は、確かにこちらの想定外の事態ではあります。それでも、まだ勝算はございます!」

 デルニエ王に付き従った二将軍のうちの一人、アルナブが顔を真っ赤にして、デルニエ王に意見具申をした。

「とにかく、この短期間に四万の軍勢を揃えることが出来ました。この全軍を当初の予定通り、北上してくるブーリフォン聖王子軍にぶつけ、一気に雌雄を決しましょう!」

「アルナブ将軍! 何を馬鹿な! 全軍でブーリフォン聖王子軍に向かえば、この王城はどうなる?! ジュリスの精鋭軍の前にひと支えも出来ずに陥落してしまうぞ!」

「構いません!」

「何!」デルニエ王は、アルナブ将軍を睨みつけた。

「このような守りに適さない王都なぞ、気になさることはございません。確かに、ブーリフォン聖王子軍に王都を奪われれば、一気に陛下は賊軍の汚名と共に流浪の王となってしまうでありましょう。しかしジュリス王国軍であれば、陛下の存在が何ら揺らぐことはございません。他国が王都に迫ったので、陛下が王都から一時いっとき退避したに過ぎないからであります。改めて、軍勢を編成して王都を取り戻す、あるいは別の場所に王都を遷都すれば良いだけの話なのであります。陛下がブーリフォン聖王子軍を打ち破り、ブーリフォン聖王子さえ討ち取れば、ソルトルムンク聖王国の正式な王位継承者は陛下だけになります。今はその一点のみをお考えください!」




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 アルナブ(デルニエ王麾下の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王。故人)

 デルニエ王(父王を殺害した聖王子。殺害後、王を僭称する)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ラタハト(デルニエ王麾下の将軍)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

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