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【190 朝令暮改 ~一日足らずの聖王~】


【190 朝令暮改 ~一日足らずの聖王~】



〔本編〕

「今回の件で、すぐにでも聖王国領内への侵攻を始めたがっているのは間違いなくミケルクスド國だな!」

「おっしゃる通りであります。……なのでバラグリンドル地方防衛は引き続きスス将軍に担当していただき、クーロ軍のみ除いた形で防衛体制を維持すべきかと……」

 しかし、マデギリーク将軍のその提案に対し、ブーリフォン聖王子は首を横に振る。

「いや! そうしたいところではあるが、それほどこちらに余力はない。ヌイの軍勢は、バラグリンドル地方から撤退させる。ルーラとツヴァンソの軍勢でバラグリンドル地方は守ってもらう。その代わりではないが、スス将軍にはバラグリンドル城に常駐するよう伝えてくれ。これで少しでもミケルクスド國への牽制になろう。水軍にも積極的に活動するよう命じておくよう……」

「承知いたしました。それでヌイ大官軍は如何に配備なされるのですか?」

「ヌイ軍には、ベンナ地方に向かってもらう」

「成程、ゴンク帝國領アルヒ地方でのヌイ軍の活躍は、その地域では誰もが知り得る程有名なこと。ゴンク帝國への牽制にはもってこいでございます」

 マデギリーク将軍が感心したように呟く。

「アコニト将軍もベンナ地方には引き続き駐屯はさせているが、何といってもヌイ軍がベンナ地方に配備されることになれば、先ずよほどのことがない限り、ゴンク帝國が聖王国領へ侵攻してくることはない。ゴンク帝國への牽制は、そのままフルーメス王国への牽制ともなるうる」

 ブーリフォン聖王子はさらに言の葉を紡ぐ。

「私の本軍一万は、二人の将軍に指揮させる。フレーダ地方のリェフ将軍と、アエラキ将軍の二人だ」

「アエラキ将軍ですか? まだミケルクスド國から降伏して日が浅いと思われますが?」

「だからこそだ!」ブーリフォン聖王子がはっきりとマデギリークに告げる。

「聖王国の将軍となったアエラキ将軍を、古巣の対ミケルクスド戦に命じるわけにもいかない。だからと言って、いつまでも何の任務も与えないのは、本人だけでなく周りも納得しないであろう。今回のデルニエ討伐隊の指揮官は、アエラキ将軍にとって絶好の活躍の場だと私は思う」

「さすがは『闘王』! 確かにアエラキ将軍の立場から鑑みるに、今回のデルニエ討伐は何のしがらみもなく実力を発揮できるというもの。この戦いで戦果を得れば、遠慮なくアエラキ将軍を聖王国の将軍として遇することが出来るわけでありますな」

「そういうことだ。……続いて、デルニエの策略で東部戦線に赴いている王都軍にも指令を発した! 王都に戻らず、そのまま東部戦線に留まるよう。これで東部のカルガス、クルックスに対する備えもしばらくは落ち着くであろう。バルナート帝國については、引き続きパンドラーイ将軍を中心に防御線を維持させよう」

「成程。これで当面は、他国からの侵略に悩む必要はなさそうでありますな」


 電光石火の如きブーリフォン聖王子率いるデルニエ討伐軍の動きに、父ジュラーグレース聖王を討ち取ったデルニエ聖王子も、ただ手をこまねいていたわけではなかった。

 王都マルシャース・グールを完全掌握したデルニエ聖王子は、翌日にあたる九月一〇日には、自らの正当性を主張するために、前王にあたるジュラーグレース聖王の悪行を大いに喧伝けんでんし、そのままデルニエ聖王子が即日、聖王に就任する旨を宣言した。

 本来であれば聖王の就任――つまり聖王戴冠にあたっては、正式な戴冠式なるものを催すのである。

 そしてその戴冠式は、天界からソルトルムンク聖王国建国神にあたる八大龍王の一人、第八龍王ウバツラ臨席のもと行われる。

 またその際、ヴェルト大陸で唯一、ソルトルムンク聖王国聖王だけが所有できるいわゆる『三種の神器』なるものが、前の聖王から新たな聖王に引き渡されるという儀式を行う。

 この二つの事柄が揃って、初めて聖王の戴冠が正式になされ、新たな聖王が誕生するという流れになるのであった。

 しかし今回のデルニエ聖王子の聖王宣言は、ウバツラ龍王の臨席はなく、また三種の神器を受け取るという儀式すら出来なかったのであった。

 むろん、デルニエ聖王子が自らの手で前王を葬っている手前、前王からの三種の神器の引き渡しといった儀式が物理的に無理であるのは仕方ないとしても、三種の神器を手にするという儀式すら執り行えなかったのは、おそらく軍事クーデターにおいて、三種の神器を見つけることが出来なかったせいであろう。


 いずれにせよ聖王戴冠の儀は、後日改めて執り行うという主旨の宣言がその夕刻に出される。

 儀式の日程について明確には示されなかったが、儀式あって初めて聖王としての形の上での正当性が証明されるというところから、三種の神器が見つかり、ウバツラ龍王の降臨が許されれば、すぐにでも聖王戴冠の儀を執行させたいというのが、デルニエ聖王の本音であったろう。

 クーデターの翌日、勢いで聖王に就任したと宣言してしまったデルニエであったが、その宣言に対する周りの反応のあまりの薄さというか、ほとんど皆無なのに対し、彼はすごく気にした。

 一国の新王の誕生に際しての、周りの無反応さは、その君臨者に対する反発の反応であると受け取ったのであった。

 基本、力によって君臨者になった者に対し、いきなり反対意見を述べたり反対行動を起こしたりすることは先ずなく、その君臨者の力が相対的に弱まらない限り、そのようなことは実際には起きない。

 デルニエは今回の周りの薄い反応をそう受け取り、それは正しい認識であった。

 そのため、デルニエ聖王として宣言したその日の夜半に、緊急だったので聖王に就任したという言い訳のような宣言をし、聖王戴冠の儀は必ず行う旨を述べた後、あろうことか“デルニエ聖王”という呼称も、“デルニエ王”とたった一日で変更してしまったのであった。

 デルニエはそこそこ優秀だったのかも知れないが、疑心に駆られ、衝動的に軍事クーデターを起こすという、時の流れを止めるどころか逆行させるような悪行を起こしてしまい、そのような悪行はこういった負の連鎖を生んでいくのであろう。

 軍事クーデターに続く、翌日の『聖王』の宣言は稀に見る愚策ではあったが、まさかの同じ日の夜半の『王』への呼称変更の宣言は、朝の愚策をさらに上回る大愚策であった。

 なぜなら、この夜半の宣言はデルニエの弱気を國内外に示す結果となり、一〇日の時点で親デルニエか反デルニエかで迷っていた各地方の領主や諸侯たちが、翌日の一一日には一気に反デルニエへと大きく傾いてしまったからであった。

 それでもまだ、この一一日の時点では反デルニエに気持ちが傾いた諸侯たちも、その反デルニエの旗頭はたがしらを見つけることが出来ない状態であったため、積極的な反デルニエの動きをするものはなく、表面上は中立的な立場を取っていた。

 しかしそれも束の間、この二日後の一三日にデルニエ討伐軍としてブーリフォン聖王子の軍の先発部隊がエーレ地方を出立し、王都マルシャース・グールを目指したという事実が、ヴェルト全域に大きな衝撃を与えた。

 これにより、反デルニエの正当かつ強力な旗頭としてブーリフォン聖王子が立ち上がったことが、明確になったからであった。




〔参考 用語集〕

(八大龍王名)

 優鉢羅ウバツラ龍王(初代ウバツラが逝去後、後を継いだ二代目第八龍王)


(人名)

 アエラキ(聖王国の将軍。元ミケルクスド國の将軍)

 アコニト(聖王国の将軍)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王。故人)

 スス(聖王国の将軍)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 デルニエ聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第一位王位継承者)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)

 パンドラーイ(聖王国の将軍)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 リェフ(聖王国の将軍)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 バルナート帝國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 カルガス國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 クルックス王国(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 ゴンク帝國(ヴェルト八國の一つ。東の国)

 フルーメス王国(ヴェルト八國の一つ。南の国)


(地名)

 アルヒ地方(ゴンク帝國領)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 バラグリンドル城(バラグリンドル地方の主城)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国の一地方。元ミケルクスド國領)

 フレーダ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ベンナ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)


(その他)

 大官軍(五千人規模の軍)

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