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【189 討伐軍進軍開始】


【189 討伐軍進軍開始】



〔本編〕

 ブーリフォン聖王子が、ヴァハフント宰相の使いである老臣モールと対面した翌日、龍王暦二〇九年九月一三日。ブーリフォン聖王子の討伐軍が、ソルトルムンク聖王国王都マルシャース・グールに向けて進軍を始めた。

 ただこの日は討伐軍の先発部隊のみの進軍であり、ブーリフォン聖王子自身はまだエーレ城からは動いておらず、彼の率いる本軍が進軍を始めるのは、二日後の九月一五日であった。

 いずれにせよ、九月九日に王都がデルニエ聖王子の襲撃によって陥落してから、わずか四日後で討伐軍の先発部隊、そしてそれから二日後の七日目には聖王子軍の本軍がデルニエ聖王子討伐軍として進軍を始めているのであるから、奇跡ともいえる速さであるのは間違いなかった。

 おそらくデルニエ聖王子としては、ブーリフォン聖王子を王都襲撃で除けなかったことは失敗だとしながらも、ブーリフォン聖王子が実際に軍を編成して動かすのに、一月ひとつきから二月ふたつきはかかるであろうと考えていたはずである。

 その大いなる誤算が、その後のデルニエ聖王子の対策を全て後手とさせてしまう。そういう意味でブーリフォン聖王子が王都におらず、彼を仕留めそこなったことは、致命的な失敗であったといえるであろう。


 さて、九月一三日にブーリフォン聖王子軍の先発部隊としてエーレ城から進軍を始めたのは、クーロ率いる中官軍のうちの一千あまりであった。

 クーロ軍については、クーロ本人が九月一一日にエーレ城に到着し、その日の昼過ぎには全軍エーレ城に向かうよう命を発したところであった。結局、その命による強行軍でクーロ軍三千のうちの一千余りが翌々日にあたる一三日の明け方にエーレ城に辿り着き、そのまま同日午後二時にはエーレ城から進軍を始めているのであった。

 強行に継ぐ強行で、先発したクーロ軍は、エーレ城を出発する際、既に皆が疲労困憊の状況であった。それでも一千とはいえ、一三日にブーリフォン聖王子軍が進軍を開始したという公式的な事実がここに成立した。

 この事実が、これより十日後の九月二三日、ジュリス王国軍がマルシャース・グールへ向けての進軍を始めるという状況を実現させたのであった。それもジュリス王国一の猛将、アッティモ将軍が率いる一万の精鋭部隊による進軍をである。


 さて、九月一三日にエーレ城を出発したクーロ軍一千は、翌日、エーレ地方に隣接するタシターン地方で、クーロ中官軍三千が集まるまで、一旦駐留した。

 遅れている二千を待つためのタシターン地方での駐留ではあったが、先発した一千の兵も実際にはバラグリンドル地方からの強行軍で、既に疲労困憊であったため、この駐留はそれらの兵へのしばしの休息期間でもあった。

 とりもなおさずクーロ軍一千がエーレ城の民衆が見守る中、九月一三日に王都マルシャース・グールに向けて進軍を始めたため、これが賊軍討伐軍進軍の公式記録として後の史書にも記録されることとなるし、各國並びに各地域の人々もそう受け取ったわけであった。

 ある意味それさえ果たしてしまえば、当初の目的は達したわけであるため、実際に賊軍と戦う軍とするために、クーロ軍は早々にタシターン地方に駐留することで、休息をとる必要があった。

 また、タシターン地方は養父マデギリーク将軍の所領であるため、クーロにとって久しぶりの滞在とはいえ、自分の故郷にいる気安さで駐留することが出来、それは兵たちも一緒であった。

 クーロ軍が全軍の三千となり、再び進軍を開始したのは五日後の九月一八日。クーロの先発部隊がエーレ城から出発した二日後にブーリフォン聖王子率いる本軍が出発しているところから、これらの公式な記録とは別に、ほぼ討伐軍全軍がしばらくタシターン地方に駐留していたことになる。

 さらに言うと、本軍のうちのマデギリーク将軍が率いる軍の一部隊に至っては、タシターン地方に二日ほど滞在した後、王都に向けて進軍を始めており、その日が九月一七日。つまりクーロの先発部隊より一日早くマデギリーク軍の一部隊がタシターン地方から進軍しているのであった。

 むろん、途中でクーロ軍三千がその一部隊を追い越したため、結局、クーロ軍が先発部隊で間違いはなかったが、一瞬とはいえ先発部隊より先に本軍の一部が先行するという、不可思議な現象が起こったのも事実であった。



 さて、デルニエ聖王子討伐軍として編成されたブーリフォン聖王子の全軍は二万三千。内訳はクーロ軍三千、マデギリーク軍一万、そして各地方領主の軍を含めたブーリフォン聖王子の本軍が一万であった。

 つまりこの二万三千の軍の中に、ヌイ、ルーラ、ツヴァンソの軍は含まれていない。

 クーロ軍、マデギリーク軍、そして本軍以外の軍や部隊が、一切討伐軍に編成されていないが、それはこの内戦のごたごたに便乗して、他国がソルトルムンク聖王国領に攻め込んでくるのを、それ以外の軍で牽制するためであった。


 本軍進軍の一日前、クーロ軍一千が進軍した翌九月一四日の夕刻、エーレ城内の一室でブーリフォン聖王子とマデギリーク将軍が最後の打ち合わせをした。

「明日、将軍と私の軍がエーレ城を後にするとして、可及的速やかにデルニエを討たなければ、国内だけの騒動で済まず、他国の侵攻や介入を許してしまうという、最悪の場合、亡国の危機にも発展してしまう。他国からすれば、デルニエと私の戦いが長期化するのを心待ちにしていることであろう。他国にとって聖王国に攻め込む絶好の機会となるわけであるから……。最初は静観しているかもしれないが、少しでも我らがデルニエ征伐に手こずれば、他国としてそこは遠慮しないであろう!」

「おっしゃる通りであります! しかし、デルニエも他国もこの異例の早さの討伐軍進軍には驚愕することでありましょう。実際に昨日のクーロ軍の先発は、今日あたり既に国内外に驚愕の事実として伝わっているはずでありましょう」

 ブーリフォン聖王子の言の葉に、マデギリーク将軍がそう返した。

「それでも、いくつかの軍や部隊を他国との国境付近に駐屯させなければ、他国は国境付近で積極的な動きを早くも始めるやもしれぬ。そのため討伐軍は、先発のクーロ軍、将軍の軍、そして私の軍の三軍のみで編成した! 残りの軍や部隊は、各國の国境付近に配備させ、他国への牽制とさせよう」




〔参考 用語集〕

(人名)

 アッティモ(ジュリス王国の将軍)

 ヴァハフント(ソルトルムンク聖王国の宰相)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹。中官)

 デルニエ聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第一位王位継承者)

 ヌイ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 モール(宰相ヴァハフントの家臣)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 タシターン地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国の一地方。元ミケルクスド國領)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)


(その他)

 中官軍(三千人規模の軍)

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