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【187 ネヴィス、カヴァーロ、ヴァハフント】


【187 ネヴィス、カヴァーロ、ヴァハフント】



〔本編〕

 さて、デルニエの反乱の中、王都にいながら、幸運にも逃れ得た人物もいた。

 その中で一番重要人物になるのが、ジュリス王国の王の娘であり、アグリフォージョ聖王子に嫁いだネヴィス姫であった。

 彼女は、デルニエ聖王子反乱の際、アグリフォージョ聖王子の寝所に共にいたが、アグリフォージョ聖王子が半ば強引にネヴィス姫だけを王都から脱出させたのであった。

 当然、アグリフォージョ聖王子と生死を共にしたかったネヴィス姫は、聖王子のその申し出を頑なに拒んだが、聖王子の必死の説得と家臣たちの強引な手引きにより、泣く泣くアグリフォージョ聖王子の寝所から脱出した。

 そして、アグリフォージョ聖王子自身は最初にいた寝所から一切移動していなかったため、デルニエ聖王子側は、その寝所を包囲し、アグリフォージョ聖王子が脱失するのを阻止することだけに全神経を注ぎ、結果、それ以外の人物がその場から逃げていくのに、あまり神経を注いでいなかった。

 アグリフォージョ聖王子同様に、ジュラーグレース聖王も最初にいた寝所から一切動かなかったからではあったが、もう一つの理由として、王都内にいた者、全てに対処できるほど反乱兵の数も充実はしていなかったのは事実であった。

 二万の兵数は、マルシャース・グールの規模から考えると対象者全員に目を向けるには少なすぎる数ではあったし、デルニエ聖王子と二人の将軍を除いた末端の兵士達からすれば聖王子の命令とはいえ、自国の王都を襲撃し、また自分たちの王に刃を向けるということに、それほど積極的にはなれなかったのが本当の気持ちではなかったのであろうか。


 さて、ネヴィス姫と同様に王都から脱出した人物で重要人物が後二人いた。一人が時の宰相ヴァハフント、そしてもう一人が外交官の一人カヴァーロであった。

 ネヴィス姫もさることながら、この二人をこの反乱で逃してしまったことが、デルニエ聖王子の反乱の致命的な失敗とも言えた。

 確かにデルニエ聖王子は、王都を制圧後のことを考え、王族を極力除いていくという聖王子の方針について、それはある意味正解であった。しかし、王族の殲滅を最優先としたことにより、ジュラーグレース聖王時の優秀な家臣たちが除く対象の二の次となったことは否めない。

 むろん政権は基本王族が踏襲していくこの当時の政治体制において、王族あっての家臣団ではあった。そういう意味ではデルニエ聖王子の対抗馬となり得る王族を第一に除く方針は方向的には間違いではなかった。

 しかし優秀な家臣が生き残り、その上王族が一人でも生き残れば、そこに家臣たちが集い、一大反攻勢力となる。王族が大樹の苗木とすれば、優秀な家臣は、その苗木を大樹に育てるのに必要な水であり、栄養分であり、日の光であった。

 そして、デルニエ聖王子にとって最も運が無かったことが、王位継承権第四位ではありながら聖王子の中で最も優秀で、かつ『闘王』の異名で聖王国民から絶大な人気を誇っているブーリフォン聖王子が、王都から遠く離れた聖王国西部エーレ地方にこの時滞在しており、今回の王都軍事クーデターの犠牲者とならなかったことであった。



 マデギリーク将軍が、エーレ城に緊急招集された指揮官たちに、ここまでのデルニエ聖王子の軍事クーデターの顛末をかいつまんで説明した日の翌日、ある人物がこのエーレ地方に到着した。

 モールという名の人物で、ヴァハフント宰相の部下であり、王都のクーデターからヴァハフント宰相と共に脱出した者であった。モールは、すぐにブーリフォン聖王子とマデギリーク将軍の元に通された。

「宰相ヴァハフントも、急ぎこちらに向かっております! 私は高位の魔兵であるため、瞬間移動の術を駆使し、先にここまで参りました! 宰相閣下におかれましては、聖王子様にすぐに行動を起こされ、王都を奪還されますよう促しておられます!」

「むろんそのつもりである!」ブーリフォン聖王子が力強くそう答える。

「周辺地域から緊急招集させた指揮官たちも、今時点で六割から七割はここに到着している! 明日の一三日か、遅くとも明後日の一四日には、われが直接軍を率いて、王都に向かう!!」

「さすがはブーリフォン聖王子様! 宰相閣下の申された通りのお方でありました。……ならば、ヴァハフント宰相とも進軍途中で合流できることでありましょう」七十歳にあと一つで手が届こうという老臣モールは、安堵した様子であった。

「モールも高齢を押してこんなに早くここまで来てくれたこと、われも嬉しく感謝に堪えない。術の行使で疲れているとは思うが、今の様子を詳しく聞かせてもらえるか?」

「むろんであります、聖王子様! わしはそのためにここまで宰相に先立って訪れたわけでありますので……」

 そう言うと、この老臣は滔々とうとうと語り出した。この後、この老臣から五時間にも及ぶ現況報告が語られたが、それについても要点をかいつまんで記す。



 デルニエ聖王子による軍事クーデター勃発の九月九日の夕刻、王都マルシャース・グールから西十五キロメートル程度離れたある村落に、三人の重要人物が集まっていた。

 デルニエ聖王子の軍事クーデターで命を落としたアグリフォージョ聖王子の妻で、ジュリス王国王の娘であるネヴィス姫、ジュラーグレース聖王の宰相であったヴァハフント、そして一外交官ではあるが、その手腕を有望視され、いずれは外交大臣からゆくゆくは将来の宰相を嘱望しょくぼうされているカヴァーロの三人である。

 それぞれが数名の家臣と共に王都を別々に脱出し、高位の魔兵にしか行使できず、また他兵には決して傍受されない高位の伝達魔術により、この村落に三人が集まることが出来たのであった。

 集まってすぐにヴァハフント宰相が口を開く。

「時間もない故、今後の方針を端的にご説明する! ネヴィス姫におかれましては疲労が蓄積なされていらっしゃるとは思いますが、すぐにジュリス王国王都に向かっていただきたい!」

「むろんです!」

 ネヴィス姫は毅然とした声で応じる。実際に疲労の極致であるとは思われるが、それを感じさせない気丈さであった。

「すぐにでもジュリス王国王都ヤ・ムゥに戻り、ジュリスの軍を率いて戻ります! 私の最愛の夫であるアグリフォージョ聖王子様と、敬愛していた義父ちちジュラーグレース聖王陛下の仇を絶対にとります!!」

 ヴァハフント宰相は、ネヴィス姫の言葉に大きく頷き、続いてカヴァーロに命じる。

「カヴァーロ! お前もネヴィス姫と同道し、事の顛末をジュリス王にお伝えしろ!」




〔参考 用語集〕

(人名)

 アグリフォージョ聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第二位王位継承者)

 ヴァハフント(ソルトルムンク聖王国の宰相)

 カヴァーロ(ソルトルムンク聖王国の外交官)

 ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王)

 デルニエ聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第一位王位継承者)

 ネヴィス姫(ジュリス王国の王女)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 モール(宰相ヴァハフントの家臣)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ジュリス王国(ヴェルト八國の一つ。西の国。聖王国と同盟を結ぶ)


(地名)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ヤ・ムゥ(ジュリス王国の首都であり王城)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

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