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【183 聖王殺害】


【183 聖王殺害】



〔本編〕

「クーロ!」エーレ城獅子の間には先に到着したルーラがおり、クーロに声をかける。

「ああ、ルーラ。久しぶり!」

 クーロは、ルーラにそう応えたが、実はルーラとは二日前に会ったばかりであった。

「クーロ、久しぶりだな! 元気だったか?」しかし、ルーラの方はというと、そのようなことはおくびにも出さず、白々しく挨拶を交わす。

「うん、まあまあかな。……ところでルーラ! 今回の緊急招集は少し異例のように思えるが、何かあったのかな?」

 クーロとルーラの二人にとっては茶番というべき挨拶ではあるが、クーロは他の者がいる以上、久しぶりに会う二人が普通の挨拶を交わしているように演じ、そのまま本筋へと話を始めた。

「異例どころではない! これは前代未聞だ! 我が國の虎の子といえる飛竜ワイヴァーンを駆使して、バラグリンドル地方の最前線から我ら四人の司令官全てを召集させたのだから……。そしてそれどころか、エーレ地方周辺地域に駐屯する司令官クラスの者、さらに周辺地域の地方領主全てを、ここに召集させているらしい」

 ルーラの言葉に、クーロが獅子の間にいる者を見回すと、確かに見知った者も含め、そのような面々が集まっており、またクーロの後からも続々とそのような者たちが、獅子の間へと集まってきている。

「確かエーレ城の獅子の間と言えば、最高位クラスの者をお迎えする場所だと聞いている。つまりこれから現れる人物は、王族かそれに準ずる者ということになるな!」

「ああ、ルーラ。その通りだ。獅子の間とは、そういう部屋だ」エーレ地方で子供の頃過ごしたクーロが大きく頷く。

 二人がそこまで話した時、獅子の間の一番奥まった巨大な扉が重々しく開かれた。そこに集まっている皆が、その奥まった巨大な扉の方に目をやると、そこから二人の人物が現れる。

 一人がエーレ地方の領主で、クーロの養父にあたるマデギリーク将軍。そしてもう一人が、ブーリフォン聖王子であった。

 クーロにとって、個人的にエーレ城やドクサ地方攻略の際、何度も尊顔を拝している『闘王』の異名を持つブーリフォン聖王子であったが、この広間に集まっている大半の者にとっては初見であり、マデギリーク将軍がブーリフォン聖王子を紹介すると、皆、驚き混じった表情でその場に慌ててひれ伏した。


「まだ招集したうちの半数程度しか集まっていないが、時間がない! この場にブーリフォン聖王子様をお迎えいたしたのでこのまま緊急の会議に入る! 後から来た者には、わしが改めて説明する!」

 エーレ地方の地方領主であり、ソルトルムンク聖王国筆頭将軍のマデギリークが、会議が始まることを皆にそう言って伝えた。

“招集者が半数しか集まっていないのに、会議を開く! これは確かに前代未聞だ!”クーロはそう感じた。

 しかしこれは、ここに集う全ての者がそう感じているであろう。

一昨日おとといにあたる九月九日、ソルトルムンク聖王国第五代聖王陛下であられるジュラーグレース聖王陛下がお隠れになられた!」マデギリーク将軍は一息で、そう皆に伝えた。

 これほど衝撃的で重々しい一言、しかしその後に続くこれ以上に衝撃的な内容を、この中に居る者のうち果たして何人が今後聞くことがあるであろうか。

「はっきり言おう! 一昨日いっさくじつ、父、聖王陛下は殺害されたのだ!!」ブーリフォン聖王子が続いて述べる。

 これは衝撃的な内容であり、耳にした者が一瞬言われた意味を理解できず、次の瞬間、理解できた時には、今度はその耳の入ってきた言葉そのものを疑うぐらいの内容であった。

 そして聖王子の直接言葉――王族の発する言葉は、“言のことのは”と表現するが――、その言の葉が発せられること自体非常に珍しいことではあるが、その珍しさが吹き飛ぶぐらい内容が衝撃的であった。

「父王、ジュラーグレース聖王陛下を殺害したのは、デルニエだ!」

 ブーリフォン聖王子がさらに言の葉を重ねた。

「デルニエ?」

「……あっ!!」

 数人が聖王子の前でありながら、聖王を殺害した下手人の名である“デルニエ”という単語を口に発し、誰のことであったかを思い出そうとし、思い当たった瞬間、その者はやはり心の中だけにそのことをとどめておけず、そのまま感嘆語として発していた。

「そうだ! デルニエだ! 以前の聖王国第一位王位継承者であったデルニエ聖王子だ!!」

 ブーリフォン聖王子がはっきりとそう述べる。

 実の兄であるデルニエ聖王子を、『聖王子』と呼び捨てにしたのみならず、王位継承については聖王国第一位王位継承者と表しながらも、『以前の』という単語をわざわざ頭につけ、そこを強調した表現であった。

 ブーリフォン聖王子の言の葉は、怒りが前面に押し出された激しいものであった。

「……いや! 既に聖王子という呼称も無用!! デルニエで良い!!」

 ブーリフォン聖王子がさらに激しい憤りを、言の葉に込める。もはや、王族の発する言葉である『言の葉』などという高貴なイメージのものではなかった。

「……本来であれば、すぐにでもここを発し、デルニエを討ち取るために王城マルシャース・グールまで攻め上がりたいところではあるが、まだその軍容を整えるのにまる一日はどうしても必要であろう。それに参集した皆々からすれば、全てが寝耳に水の驚愕的な事実ばかりなのは承知している。討伐軍としての士気高揚も必要不可欠な要素であるので、緊急ではあるが、父ジュラーグレース聖王陛下殺害までの事の顛末を、ここに集う者達には正確に話しておきたい! マデギリーク将軍、詳細について皆に語り聞かせてくれ!」

「ハッ!」マデギリーク将軍が聖王子の言の葉にそう応じる。

 ブーリフォン聖王子は大きく頷き、獅子の間を退室した。


「聖王陛下殺害という大事件の発端は、一月ひとつき前の八月に遡る!」ブーリフォン聖王子退室後、マデギリーク将軍がこの場にいる皆々に語り始める。

 さて、ここに表記する事の顛末は全てマデギリーク将軍の口から説明されたものであるが、かなりの分量になるため、要点のみを整理して、ここに記す。



 ジュラーグレース聖王陛下殺害の当日にあたる龍王暦二〇九年九月九日から、ほぼ一月ひとつき前にあたる同年八月八日、一人の聖王子が身罷みまかられる。

 ユエグァン聖王子という御方で、ブーリフォン聖王子のすぐ上の兄にあたり、王位継承権としてはブーリフォン聖王子の第四位の一つ上の第三位であった。

 年齢は、ブーリフォン聖王子より二つ上で龍王暦二〇九年時に二九歳。

 ユエグァン聖王子が身罷った原因は戦死である。ブーリフォン聖王子がヴェルト大陸西部でミケルクスド國と戦っているのと同じように、ユエグァン聖王子はヴェルト大陸東部でカルガス國やクルックス王国と戦っていたのであった。

 龍王暦二〇九年八月八日、ユエグァン聖王子はカルガス國の『カルガスの三位さんみ』と言われる謎の集団の奇襲を受け、命を落とす。

 東部戦線の総司令官であったユエグァン聖王子が戦死したことにより、王城におわすジュラーグレース聖王は、東部戦線の新総司令官としてデルニエ聖王子を任命し、東部戦線に赴くよう命じた。

 このことが、猜疑心が強い性格のデルニエ聖王子の心に、一つの疑念を抱かせたのであった。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。中官)

 ジュラーグレース聖王(ソルトルムンク聖王国第五代聖王)

 デルニエ聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第一位王位継承者)

 ブーリフォン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第四位王位継承者)

 ユェグァン聖王子(ソルトルムンク聖王国の聖王子。第三位王位継承者)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ルーラ(クーロ、ツヴァンソと同世代の指揮官。大官)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 カルガス國(ヴェルト八國の一つ。北の強国)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)

 クルックス王国(ヴェルト八國の一つ。東の国)


(地名)

 エーレ城(エーレ地方の主城)

 エーレ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 バラグリンドル地方(ソルトルムンク聖王国の一地方。元ミケルクスド國領)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)


(竜名)

 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

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