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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第81話 拡大する評判

翌朝。


創が工房へ入ると、作業台の端末がすでに通知を鳴らしていた。


一度や二度ではない。


短い電子音が、間を置かずに重なっている。


「……朝から元気だな」


創は鞄を置き、集まってきた柚木たちを見回した。


「昨日の続きだ。今後の工房のやり方について――」


『マスター、発言を遮ってもよろしいでしょうか』


端末からノアの声がした。


創は眉をひそめる。


「緊急か?」


『現時点で業務停止に至る問題はありません。ただし、本日の協議内容に直結します』


「分かった。出してくれ」


壁面モニターに、日本地図が映し出された。


これまで関東近郊に集中していた印が、今日は違っていた。


北海道、東北、北陸、四国、九州。


赤い印が、日本全国に散らばっている。


空白を探す方が難しいほどだった。


「……全部、問い合わせか?」


『はい。本日午前八時までに受信した分です。四十七都道府県すべてから確認されています』


誰も、すぐには口を開かなかった。


美咲がモニターへ近づく。


「地方局でも報道が始まっていますね。地元の施設や自治体に導入できないか、という問い合わせが多いです」


「テレビに出た影響か?」


「それだけではありません」


柚木が手元のタブレットを操作する。


「問い合わせ文に、別の地域の記事や動画への言及があります。話題が別の話題を呼んでいる状態ですね」


「なるほど……」


創は日本地図を見つめた。


昨日までとは、明らかに状況が違う。


梓が地図を睨んだまま口を開いた。


「で、うちは何台作れるの?」


「今の体制なら、月に――」


「待って」


美咲が創の言葉を止めた。


「数を増やす話を先にすると危ないです」


「……」


「人を増やすにも、場所を借りるにも資金がいる。受注だけ増やして、あとで回らなくなったら、それこそ信用を失います」


「それは分かってる」


「分かっているなら、なおさらです」


美咲の声は穏やかだった。


だが、そこだけは一歩も引かなかった。


柚木が別の画面を開く。


「一件、少し特殊な問い合わせがあります」


「特殊?」


「離島の診療所からです」


「診療所?」


「高齢者の見守り用途を想定しているそうです。できれば早く話を聞きたい、と」


工房の空気が変わった。


単に商品が売れそうだ、という話ではない。


実際に困っていて、待っている相手がいる。


凛が腕を組んだ。


「急ぐのはいい。でも、現場を潰すやり方なら私は反対だ」


「凛さん」


「今でも整備と試作で手一杯だろ」


凛は創を見る。


「注文が増えたからって、寝ないで作れなんて話には乗らん」


梓も短く息を吐いた。


「私も同意。増産するなら、品質を落とさずに作れる仕組みが先」


創は、もう一度モニターを見た。


日本中に散った赤い印。


その一つ一つに、期待がある。


けれど、それを今の工房だけで抱え込めば――その期待は、すぐに不満へ変わる。


「昨日までは、今の規模をどう支えるかって話だった」


創は椅子を引き、机の中央を空けた。


「でも、もう違う」


全員の視線が創に集まる。


「工房を大きくするか。協力先を探すか。受ける案件を選ぶか」


創は一つずつ言葉にした。


「その前提から決める」


「ようやく、そこまで来ましたね」


梓が少しだけ笑った。


創は頷く。


「柚木さん。地域別に件数と内容を分けてください。緊急性が高い依頼も分かるように」


「承知しました」


「梓は、品質を落とさずに増やせる台数を出してくれ。無理な数字はいらない」


「その言い方なら任せて」


「美咲さんは資金と選択肢を。借入、出資、提携――使える手を全部」


「分かりました」


美咲は頷いた。


「ただし、都合のいい案だけは出しません」


「お願いします」


創は凛へ向いた。


「凛さんには、現場の条件を決めてほしい。これを守れない案は採用しない」


凛は一度だけ頷いた。


「いいだろう」


それぞれの役割が決まっていく。


以前なら、創一人で考えていたことだった。


今は違う。


工房には、それぞれの立場から考え、意見を出してくれる仲間がいる。


『マスター』


ノアが告げた。


『問い合わせがさらに三件到着しました』


梓がモニターを見上げる。


「会議中にも増えるんだ」


「待ってくれないらしい」


創は苦笑した。


だが、視線は逸らさなかった。


「ノア。新規問い合わせは一覧に追加。返信は、今日中に方針を決めてから出す」


『了解しました』


机の上に、次々と資料が広がっていく。


工房はもう、目の前の依頼だけをこなしていればいい場所ではない。


日本各地から寄せられる期待に、どう応えるのか。


その答えを決める段階に入っていた。


創は広がっていく資料を見渡した。


――工房を、次の段階へ進める。


それはもう、選択ではなくなりつつあった。

第81話をお読みいただき、ありがとうございます。


地図が赤い印で埋まっていく場面は、書いていて少しだけ背筋が寒くなりました。期待が大きくなるほど、応えられなかったときの重さも増していきます。


創たちは、まず「どう応えるか」を決めるところから始めます。次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。


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