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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第78話 バズる動画

正式認可から、二週間が過ぎた。


依頼は着実に増えていた。


新しいゴーレムの製作。


既存機体の整備。


試験導入先との打ち合わせ。


創たちの工房は、以前とは比べものにならないほど忙しくなっていた。


そんなある日の朝。


「――創! ちょっと来て!」


工房に入るなり、梓が大きな声を上げた。


「え?」


作業台の前にいた創が顔を上げる。


「どうしたんですか」


「いいから、これ見て」


梓は端末を差し出した。


画面に表示されていたのは、ダイブTubeの管理画面だった。


「……動画?」


「そう。大規模ダンジョン攻略のダイジェスト」


「ああ」


創は頷いた。


攻略成功後、梓が編集して投稿した動画だ。


自己修復するゴーレム。


凛との連携。


そして、最後のボス戦。


配信の中から見どころを抜き出し、短くまとめたものだった。


「それが、どうしたんですか」


「再生回数」


「再生回数?」


創が数字を見る。


一瞬、意味が分からなかった。


「……え?」


もう一度見る。


桁を数える。


「……ちょっと待ってください」


「気付いた?」


「これ、表示バグじゃなくて?」


「残念ながら本物」


梓がにやりと笑った。


「昨日の夜から急に伸び始めた」


画面には、すでに数百万回を超える再生回数が表示されていた。


しかも、数字は今も増え続けている。


「……数百万?」


創は、思わず端末を二度見した。


「何で?」


「それは私も知りたい」


梓が肩をすくめる。


『解析した結果、一部の場面が特に拡散されています』


ノアが補足した。


「どの場面?」


『自己修復機構です』


創の目の前に、動画の一部が表示される。


大型の魔物に叩き飛ばされたゴーレム。


腕部の外装が砕け、動きを止めたように見えた。


――次の瞬間。


破損した部分が、ゆっくりと元の形へ戻っていく。


そして何事もなかったかのように、再び前へ進んでいく。


「……ここか」


『はい。この映像だけを切り抜いた短い動画が、複数の動画共有サイトで拡散されています』


「なるほどな」


梓が頷いた。


「ダンジョンとか探索者とか、そういうのを知らない人が見ても分かりやすいんだと思う」


「壊れたのに、直って動き出す」


創も画面を見ながら呟いた。


「確かに……分かりやすいですね」


『加えて、凛様との連携場面も高い評価を受けています』


「そっちは、まあ……」


梓が少し得意げに笑った。


「編集した私の腕もある」


「自分で言います?」


「言う」


そのときだった。


工房の電話が鳴った。


柚木が受話器を取る。


「はい、白瀬ゴーレム工房です」


少しして。


「……はい?」


柚木の表情が変わった。


「少々、お待ちください」


電話を切る。


「創さん」


「何ですか」


「テレビ局からです」


「テレビ?」


「取材をしたいそうです」


「……ああ」


創は頷いた。


数百万回も再生されれば、そういうこともあるのかもしれない。


だが。


電話は、それで終わらなかった。


再び鳴る。


そして、また鳴る。


「はい。白瀬ゴーレム工房です」


今度は美咲が対応する。


「……海外?」


創が顔を上げた。


美咲は受話器を押さえ、小さく頷いた。


「海外のメディアからです」


「……何が起きてるんですか」


創が呟く。


『マスター』


ノアが静かに答えた。


『バズった、という状況です』


「それは分かってる」


「いや、本当に分かってない顔してるよ」


梓が笑った。


創は再び端末を見る。


そこには、見慣れない言語のコメントが大量に並んでいた。


ゴーレムという存在を初めて知った人。


自己修復技術に驚く人。


実際に使ってみたいと書き込む企業関係者。


そして。


「……すごいな」


創は、ぽつりと呟いた。


以前は違った。


ゴーレム使い。


それだけで、微妙な顔をされた。


ハズレ職。


戦闘では使いにくい。


事業にしても続かない。


そんな言葉を、何度も聞いてきた。


それが今。


自分たちが作ったゴーレムを、世界中の人間が見ている。


「創さん」


美咲が、いつの間にか隣に立っていた。


「これから、かなり忙しくなりますよ」


「……ですね」


「取材だけではありません」


美咲は、端末を確認する。


「企業からの問い合わせも増えています。建設、物流、災害支援……それ以外の分野からも」


「認可されたばかりなのに」


「だからこそ、でしょうね」


美咲は笑った。


「正式に事業として認められた。そして、その実力を大規模ダンジョンで証明した」


「そこに、この動画」


柚木も続ける。


「今までゴーレムに興味がなかった人たちにも、伝わったんだと思います」


創は、ゆっくりと頷いた。


だが。


「……浮かれてばかりもいられませんね」


「そうですね」


美咲の表情が少し引き締まる。


「注目されるということは、期待されるということでもあります」


『そして、失敗すれば、それもまた広く知られることになります』


ノアが付け加えた。


「お前、こういうとき冷静だよな」


『マスターが浮かれていないため、私が過度に警戒する必要もありません』


「褒めてる?」


『はい』


「今のは褒めてると思うよ」


梓が笑った。


創も、つられて笑う。


そして、工房に集まった仲間たちを見渡した。


美咲。


柚木。


梓。


そして、ノア。


「……じゃあ、やることは変わらないですね」


「はい」


美咲が頷く。


「今まで通りです」


「ゴーレムを作る」


「依頼をこなす」


「安全に使ってもらえるようにする」


創は、一つずつ口にした。


「急に有名になったからって、俺たちまで急に変わる必要はない」


「それでいいと思う」


梓が言った。


「その方が、創らしいし」


そのとき。


また電話が鳴った。


全員が、一瞬だけそちらを見る。


そして。


「……忙しくなりそうですね」


柚木が苦笑した。


「望むところです」


梓が腕をまくる。


「創」


「はい」


「社長さん」


「……やめてください」


工房に笑い声が広がった。


電話は、まだ鳴り続けている。


世界が、自分たちのゴーレムに注目し始めていた。


だが創は、作業台の上に置かれた小さな工具を手に取る。


どれだけ大きな話になっても。


自分がやることは変わらない。


壊れたものを直す。


新しいものを作る。


そして。


誰かの役に立つゴーレムを、一体ずつ送り出していく。


「――よし」


創は、いつもの作業台に向き直った。


その背後で、電話が鳴る。


今までとは比べものにならないほど大きな世界が、白瀬ゴーレム工房の扉を叩き始めていた。


第78話、お読みいただきありがとうございます。


ダイジェスト動画が、思いがけない規模で拡散してしまいました。


「壊れたのに、直って動き出す」――専門知識がなくても伝わる、その分かりやすさが、大きな反響を呼んだのかもしれません。


それでも、「自分がやることは変わらない」という創さんの姿勢は、ここでも揺らぎません。


次話では、この注目が、具体的な依頼という形で押し寄せてきます。

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