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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第74話 内部証言

大規模ダンジョン攻略の成功は、翌日には探索者業界全体へ広がっていた。


「――創さん、これを見てください」


朝一番。


工房に入ってきた美咲が、端末を差し出した。


画面には、探索関連のニュースが並んでいる。


『大規模ダンジョン攻略に成功――ゴーレムを駆使した異例の戦術』


『自己修復機構を搭載したゴーレム、実戦で高い性能を発揮』


『ダイブTube生配信、過去最高クラスの視聴数を記録』


「……思った以上ですね」


創は、次々と流れていく記事を眺めた。


「はい」


美咲は頷いた。


「これまで私たちを知らなかった人たちにも、名前が知られるようになりました」


「それは……ありがたいな」


「でも」


美咲の表情が、少しだけ真剣になる。


「注目が集まった分、協会の対応も変わる可能性があります」


「……そうですよね」


創は、端末を返した。


以前、黒田と話したときのことを思い出す。


協会は、まだ自分たちを全面的に認めたわけではない。


今回の攻略成功が、その状況を変えるきっかけになる可能性はある。


だが――。


「――創さん」


その日の午後。


柚木が、いつになく真剣な顔で創の前に立った。


「少し、お話があります」


「はい」


柚木は、一度だけ深く息を吸った。


「私に、取材を受けさせてもらえませんか」


「……取材?」


「はい」


創は、思わず柚木の顔を見つめた。


「協会にいた頃のことを、話したいんです」


「それは……」


創は言葉を選んだ。


「協会の内部事情ですよね」


「ええ」


柚木は頷いた。


「だからこそ、簡単に決めていいことではないと思っています」


一瞬、工房が静かになった。


「私は、協会を辞めました。でも、今でも以前の同僚とは繋がっています」


柚木は、静かに続けた。


「証言すれば、協会から良く思われないでしょう。場合によっては、これまでの人間関係も壊れるかもしれません」


「……それでも?」


「はい」


柚木は、創をまっすぐ見た。


「私が協会にいた五年間で、実際に見てきたことがあります」


「それを、話したい?」


「正確には――」


柚木は、一度言葉を切った。


「知っていることを、知っているままにしておきたくないんです」


創は、しばらく黙っていた。


「……無理をする必要はありません」


「分かっています」


「それでも、やるんですね」


「はい」


柚木は、はっきりと頷いた。


「これは、創さんたちのためだけじゃありません」


その声には、これまでにない強さがあった。


「私自身が、協会にいた頃から感じていた違和感に、きちんと向き合うためです」


創は、その言葉を聞いて、静かに頷いた。


「……分かりました」


「ありがとうございます」


「ただし、一つだけ」


「はい」


「話せないことは、無理に話さないでください」


柚木が、少し驚いたように目を見開いた。


「創さん?」


「俺たちのために、柚木さんが全部を背負う必要はありません」


しばらくして、柚木は小さく笑った。


「……分かりました」


数日後。


柚木は、大手メディアの取材を受けていた。


「――以前、探索者協会に勤務されていたそうですね」


「はい。五年間ほどです」


「今回話題になっているゴーレム事業について、協会が以前、認可を見送った経緯をご存じですか?」


柚木は、少しだけ間を置いた。


「はい」


「差し支えなければ、教えてください」


「表向きの理由は、前例がないこと。そして、事故が起きた場合の責任の所在が明確ではないことでした」


「それは、合理的な判断だったのでは?」


「そうだと思います」


意外な答えに、インタビュアーが少し目を見開く。


「ですが――」


柚木は続けた。


「問題は、その先です」


「その先?」


「新しい技術を認めるために必要な検証をする前に、『前例がない』という理由だけで話を止めてしまうことがありました」


「つまり?」


「安全性を確認するための議論ではなく、責任を負わないための議論になってしまうことがあったんです」


柚木の声は、終始穏やかだった。


誰かを攻撃するような口調ではない。


だからこそ、その言葉には重みがあった。


「――それは、協会全体の問題だったと?」


「全員がそうだった、とは言いません」


柚木は、はっきりと否定した。


「現場で真剣に探索者を支えようとしている職員も、大勢いました」


そして、一拍置く。


「ただ、組織として、新しいものを受け入れることに慎重になりすぎていた。私は、そう感じる場面を何度も見てきました」


「今回のゴーレム事業については?」


「私は、実際に現場を見ました」


柚木の表情が、少しだけ変わる。


「ゴーレムが探索者を守り、負傷者を運び、危険な場所で人間の代わりに動いていました」


「……」


「だからこそ思ったんです」


柚木は、静かに言った。


「最初から否定するのではなく、どうすれば安全に使えるのかを考えるべきだったのではないか、と」


取材が終わったのは、それから一時間ほど後だった。


その日の夕方。


記事が公開される。


『元協会職員が証言――「前例がない」で止まる組織』


『ゴーレム事業の認可見送り、その背景にあったもの』


記事は、瞬く間に拡散された。


工房でも、その反響を確認していた。


「……すごいな」


創が呟く。


「かなり広がっています」


美咲が端末を見ながら答えた。


「協会への批判も出ていますが……」


「それだけじゃないですね」


柚木が画面を覗き込む。


「『安全性を検証した上で認めるべき』という意見も多いです」


「それなら……」


創が言いかけたところで、柚木が首を振った。


「まだ、喜ぶのは早いと思います」


「え?」


「協会にいたから分かります」


柚木は、少し複雑な表情を浮かべた。


「こういう話が表に出ると、組織は簡単には動きません」


その言葉の意味を、創は理解できなかった。


だが――。


同じ頃。


探索者協会本部では、幹部たちが集まっていた。


「元職員の証言について、どう対応しますか?」


一人が尋ねる。


「否定声明を出すべきでは?」


「いや、下手に反論すれば、さらに注目を集めます」


「では、静観ですか?」


複数の意見が飛び交う。


その中心で、黒田は黙って資料を読んでいた。


そこには、柚木の証言内容だけではなく、大規模ダンジョン攻略の報告書も並んでいる。


そして、もう一つ。


ノアの解析でも正体を特定できなかった、あの異常な魔力反応の記録。


「……」


黒田は、ゆっくりと資料を閉じた。


「ゴーレム事業については、感情で判断するべきではありません」


周囲の視線が集まる。


「世論がどう動こうと、安全性の確認は必要です」


「では、認可を進めるのですか?」


「まだ分かりません」


黒田は答えた。


「だが――」


その目が、大規模ダンジョンの報告書へ向けられる。


「今回の攻略で、別の問題が出ている」


「別の問題?」


「攻略中に確認された、異常な魔力反応です」


部屋の空気が変わった。


「報告によれば、ゴーレム側の解析でも正体が掴めていない」


「……それが何か問題なのですか?」


黒田は、すぐには答えなかった。


「ダンジョンで未知の現象が起きること自体は、珍しくない」


そして、静かに続ける。


「だが、今回の反応は――」


黒田は、資料の一枚を指で叩いた。


「攻略が終わった後、完全に消えている」


誰も口を開かなかった。


黒田は、しばらく沈黙した後、立ち上がった。


「ゴーレム事業の扱いと、これは分けて考える」


「はい」


「だが、調査は必要だ」


黒田は窓の外を見た。


「大規模ダンジョンで、何が起きていたのか」


その頃、工房では。


「――柚木さん」


創が声をかけた。


「今日は、本当にありがとうございました」


「いえ」


柚木は首を振る。


「私が話したのは、私が見たことだけです」


「それでもです」


創は、まっすぐに柚木を見る。


「協会にいた頃の経験を、こうして俺たちのために使ってくれたこと。感謝しています」


柚木は、少しだけ笑った。


「創さん」


「はい」


「これからが、本当の勝負かもしれませんよ」


「……そうですね」


創は頷いた。


世論は動き始めた。


協会も、無視できなくなってきている。


だが、認可が決まったわけではない。


そして――。


大規模ダンジョンで確認された、あの謎の魔力反応。


それぞれの問題が、まだ別々に存在しているように見える。


創たちは、まだ知らなかった。


やがてその二つが、一本の線で繋がることを。


その先に待っているものが、単なる協会との交渉ではないことを。


第74話、お読みいただきありがとうございます。


一人の女性が、自分の意志で、これまでの経験と向き合った回でした。


その勇気ある一歩が、大きな流れを作り始めています。


次話、いよいよその流れの行方が見えてきます。

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