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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第70話 ラスボス登場

自己修復機構の試作に成功してから、数日が過ぎた。


工房では、深層で損傷した三体のストーンゴーレムの再構築作業が進められていた。


「……これで、三体目も動けるな」


創が最後の魔力回路を確認すると、ストーンゴーレムがゆっくりと腕を持ち上げた。


まだ完全な修復ではない。


外殻には継ぎ目が残り、魔力の流れにも僅かな乱れがある。


それでも、自分の力で動けるところまで戻った。


「自己修復機構も、もう少し調整すれば実戦投入できそうだね」


梓が満足そうに頷く。


「はい。これなら、次の探索では――」


そのときだった。


工房の入口から、声が響いた。


「――白瀬さん。少し、よろしいでしょうか」


創が振り返る。


入口に立っていたのは、見覚えのない若い男だった。


服装からして、探索者協会の職員らしい。


「協会の方ですか?」


「はい」


男は一礼した。


「突然の訪問で申し訳ありません。柚木さんの元同僚から、こちらの工房を紹介していただきました」


創の隣にいた柚木が、わずかに眉を動かす。


「……私の元同僚?」


「はい。少し確認したいことがありまして」


男は手にしていた書類へ目を落とした。


「先日の高難度ダンジョンでの一件についてです」


工房の空気が、一瞬で変わった。


「――何かありましたか」


創が尋ねる。


男は言いにくそうに口を開いた。


「深層で凛さんが孤立した件。それから、同行していた三体のゴーレムが大破に近い損傷を負った件について、協会への活動報告に記録が残っています」


「……そうですか」


「協会本部から、白瀬さんに正式な出頭要請が出ています」


そう言って、男は一通の書状を差し出した。


「至急、協会本部までお越しいただきたいとのことです」


創は封筒を受け取った。


嫌な予感がした。


「……分かりました」


その日の午後。


創は柚木を伴い、探索者協会本部を訪れていた。


案内された部屋には、一人の男が待っていた。


初老。


白髪交じりの髪。


鋭い目。


そして――見覚えのある顔。


「……黒田さん」


以前、創たちの申請を却下した協会幹部。


黒田だった。


「お久しぶりです、白瀬さん」


黒田は立ち上がることなく、静かに頭を下げた。


「わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」


「……こちらこそ」


創が席につく。


柚木も、その隣に座った。


黒田は机の上の資料を一冊、ゆっくりと開いた。


「先日の高難度ダンジョンでの活動報告を拝見しました」


「はい」


「凛さんが深層で孤立した」


黒田の指が、資料の一行をなぞる。


「その後、あなた方は独自判断で救援に入り、ゴーレム三体が大破。白瀬さん自身も、かなり危険な状況に陥った」


「……結果的には、全員無事です」


「結果的には」


黒田が顔を上げた。


その目は、以前よりも厳しかった。


「白瀬さん。その言葉で済ませていい問題だと思いますか?」


「……」


「もし、凛さんが帰ってこなかったら?」


創は答えられなかった。


「もし、あなたが深層で命を落としていたら?」


「……それは」


「そして、もし三体のゴーレムが、あと少しだけ早く限界を迎えていたら?」


黒田の言葉が、一つずつ胸に刺さってくる。


「あなたは、運が良かっただけかもしれない」


「……」


「違いますか?」


創は拳を握った。


反論できない。


あの日、自分たちが無事に戻れたのは事実だ。


だが、それは最初から安全だったという意味ではない。


むしろ――紙一重だった。


黒田は資料を閉じた。


「私は、以前からあなた方の技術を評価していました」


「……意外ですね」


創が思わず口にすると、黒田は僅かに眉を上げた。


「以前、申請を却下したことを根に持っていますか?」


「……少しは」


「でしょうね」


黒田は苦笑した。


「ですが、あの判断は技術を否定したものではありません。実績が不足していた。それだけです」


「……」


「そして今は違う」


黒田は机の上に別の資料を置いた。


物流。


建設。


探索支援。


ゴーレムの貸与。


そこには、創の事業が関わっている分野が並んでいた。


「あなた方のゴーレム技術は、既に一企業の新技術という段階を越えています」


創は黙って資料を見つめた。


「多くの人間が、あなた方の技術を前提として仕事を始めている」


「……はい」


「つまり」


黒田が静かに続ける。


「白瀬創という一人の人間が倒れれば、その影響はあなた一人では済まない」


その言葉に、創は息を呑んだ。


「あなたの会社が止まる」


「……」


「契約している企業が止まる」


「……」


「ゴーレムを使っている探索者たちも影響を受ける」


黒田の声は淡々としていた。


「それだけではありません」


机の上に、最後の資料が置かれる。


「あなた方が独自に開発している技術が、何らかの事故を起こした場合、その責任を誰が負うのですか?」


創は言葉を失った。


黒田は怒っているわけではなかった。


むしろ、冷静だった。


だからこそ怖かった。


「私は、あなた方を潰したいわけではありません」


黒田は、はっきりと言った。


「むしろ逆です」


「……逆?」


「このままでは、あなた方自身が潰れます」


創は顔を上げた。


「だから、協会として介入します」


「――介入?」


「今後、高難度ダンジョンへの挑戦については、事前申請を義務付けます」


黒田は淡々と続けた。


「危険度の高い探索については、協会による計画確認を受けてもらいます」


「……分かりました」


「それから、もう一つ」


黒田は創をまっすぐ見た。


「あなた個人に依存した事業運営についても、改善を求めます」


創の眉が動く。


「具体的には?」


「あなたが不在でも事業を継続できる体制を作ってください」


「……」


「技術の共有。管理権限の分散。代替要員の確保。緊急時の事業継続計画」


黒田は指を一本ずつ折った。


「最低でも、それくらいは必要です」


「そんなことを協会が――」


創が言いかける。


だが、黒田は遮らなかった。


ただ、静かに問い返した。


「では、白瀬さん」


「もし明日、あなたがダンジョンで帰らぬ人になったら?」


「……」


「工房は、誰が動かしますか?」


「……梓さんが」


創が答えかけて、言葉を止めた。


梓だけでは足りない。


ノアの存在を知る人間も限られている。


ゴーレムの特殊な構造を理解している人間も、ほとんどいない。


そして何より――。


「……俺がいなくなったら、止まる」


創は、小さく呟いた。


黒田は何も言わなかった。


その沈黙が、答えだった。


「白瀬さん」


黒田が、静かに口を開く。


「あなたは、技術を作ることには非常に優れている」


「……」


「ですが、技術を持つ一人の人間が倒れた瞬間に、すべてが止まる組織は、強い組織とは言えません」


創は、拳を握った。


悔しかった。


言い返したかった。


だが――反論できない。


黒田の言っていることは、正しかった。


「私は、あなたの邪魔をしたいわけではありません」


黒田は最後に、静かに告げた。


「あなたが作ったものを、あなたが死んだだけで失わせたくないのです」


創は、しばらく何も言えなかった。


やがて、立ち上がる。


「……分かりました」


黒田を見る。


「考えます」


「それで結構です」


黒田も立ち上がった。


「ただし、もう一つだけ」


「……何ですか?」


黒田の目が、鋭く細められた。


「次に高難度ダンジョンへ挑む際は、必ず事前に協会へ届け出てください」


「……分かりました」


「約束できますか?」


「はい」


黒田は、ようやく頷いた。


「それなら、私から言うことはありません」


協会本部を出た頃には、空は夕暮れに染まっていた。


創と柚木は、しばらく無言で歩いた。


やがて柚木が口を開く。


「……厳しいですね」


「うん」


「でも、黒田さんの言っていることも、間違ってはいません」


「分かってる」


創は夕暮れの空を見上げた。


「むしろ、正しいから厄介なんだ」


「創さん……」


「今まで俺は、強くなれば何とかなると思ってた」


創は、自分の手を見つめた。


ゴーレム化。


自己修復。


新しい技術。


力は確実に増えている。


だが――。


「強くなるだけじゃ、駄目なんだな」


そのとき、頭の中にノアの声が響いた。


『はい、マスター』


「……聞いてたのか」


『はい』


「どう思う?」


少しの沈黙。


『黒田様の指摘には、合理性があります』


「だよな」


『そして――』


ノアの声が、静かに続いた。


『先日開発した自己修復機構も、まさにその問題への一つの回答になる可能性があります』


創は足を止めた。


「……自己修復が?」


『はい。ゴーレムが自律的に損傷を修復できれば、マスターが現場にいなくても、一定の戦力を維持できます』


「……なるほど」


創の頭の中で、何かが繋がり始めた。


技術を強くする。


ゴーレムを強くする。


そして――自分がいなくても回る仕組みを作る。


「ノア」


『はい、マスター』


「俺たち、次の段階に進まないとな」


『はい』


創は、拳を握った。


「俺一人が強くなるんじゃない」


夕暮れの街を見つめる。


「俺がいなくても、動き続ける工房を作る」


『それが、これからの課題ですね』


「ああ」


創は歩き出した。


黒田は、敵ではなかった。


だからこそ厄介だった。


これまでなら、力で突破すればよかった。


魔物なら倒せばいい。


技術的な問題なら、研究して解決すればいい。


だが――。


組織そのものの弱点は、拳では壊せない。


その日。


創の前に、これまでとはまったく違う種類の「敵」が現れた。


それは――


自分一人に依存してしまっている、自分たち自身だった。


第70話、お読みいただきありがとうございます。


これまでとは違う種類の「敵」が姿を現しました。


拳では壊せない、組織そのものの弱点。


その正体に、次話、じっくりと向き合っていきます。

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