第68話 凛回(2巡目)
ダンジョンから戻って、三日が過ぎた。
工房では、傷ついた三体のゴーレムの修復作業が、梓の手で進められていた。
「――結構な損傷だね、これ」
梓は、破損した腕を見ながら、感心したように呟いた。
「よく、ここまで持ちこたえたもんだ」
「――守ってくれたので」
創は、静かにそう答えた。
修復作業を見守りながら、創は、あの日のことを、何度も思い返していた。
一方、凛は、依頼をこなしながらも、時折、どこか上の空になる瞬間があった。
「――凛さん、大丈夫ですか」
その日の午後、荷物運搬の依頼をこなしながら、創が声をかけた。
「――ああ、悪い」
凛は、我に返ったように答えた。
「少し、考え事をしてた」
「――深層のこと、ですか」
凛は、少し黙ってから、頷いた。
「……あのゴーレムたち、な」
「はい」
「何度も、私の代わりに攻撃を受けてた」
凛は、遠くを見るような目をした。
「正直、まだ、上手く消化できてない」
創は、黙って耳を傾けた。
「三年前――」
凛は、ゆっくりと切り出した。
「パーティの仲間が、ゴーレムの誤作動で大怪我をした話、覚えてるか」
「――はい」
「あのとき、私は、何もできなかった。ただ、目の前で、仲間が傷つくのを見てるしかなかった」
凛は、拳を握りしめた。
「それ以来、ゴーレムを見るたびに、あの光景が頭をよぎってた」
「……」
「でも」
凛は、創を見た。
「今回は、逆だった」
創は、静かに、その言葉の続きを待った。
「ゴーレムが、私を守るために、傷ついていった」
凛の声には、複雑な感情が滲んでいた。
「あの日、失われたものを、あのゴーレムたちが、埋め合わせてくれたのかもしれない」
創は、しばらく、何も言えなかった。
「――凛さん」
「何だ」
「あの三体、必ず、元通りに直します」
凛は、創を見て、小さく笑った。
「――ああ、頼む」
その日の夕方、作業を終えた創は、凛を工房の隅へと呼び出した。
「――話しておかないといけないことが、あります」
「――ようやくか」
凛は、腕を組んだ。
「あの日から、ずっと待ってたぞ」
創は、深く息を吸い込んだ。
「――あのとき使った力、自己ゴーレム化っていうんです」
創は、これまでの経緯を、順を追って話し始めた。
ノアとの出会い。禁じ手とされてきた理論。そして、自ら実験台となって、その力を確立してきた過程。
凛は、黙って、最後まで聞いていた。
「――正気か、あんた」
話を聞き終えた凛が、開口一番、そう言った。
「自分の身体で、そんな危険な実験を」
「――はい」
創は、素直に頷いた。
「今思えば、無茶だったと思います」
「今思えば、じゃない」
凛は、呆れたように、しかしどこか心配そうな表情を浮かべた。
「絶対に、無理はするなよ」
「――気をつけます」
「それと」
凛は、少し声を落とした。
「この話、他には?」
「――ノアと、ごく一部の人間だけです」
「そうか」
凛は、小さく頷いた。
「なら、私も、大事にする」
創は、その言葉に、静かに頭を下げた。
「――ありがとうございます」
「礼はいい」
凛は、いつものように、そっけなく答えた。
だが、その表情には、これまでとは違う、確かな信頼の色が浮かんでいた。
工房の窓から、夕暮れの光が差し込んでいた。
「――なあ」
凛が、ふと呟いた。
「あのゴーレムたち、直ったら、また一緒に組みたい」
「――もちろんです」
創は、頷いた。
「三体とも、必ず元気にします」
凛は、その言葉に、静かに微笑んだ。
三年前に負った傷は、簡単には消えない。それでも、この深層での経験は、凛の中に、新しい何かを、確かに芽生えさせていた。
ゴーレムを恐れていた凛が、今は、その修復を心待ちにしている。
その変化こそが、これまで積み重ねてきたものの、何よりの証だった。
第68話、お読みいただきありがとうございます。
かつてゴーレムを恐れていた凛さんが、今はその修復を心待ちにしている。
その変化にこそ、これまで積み重ねてきたものの意味が詰まっていると思います。
次話では、新しい技術開発が本格的に始まります。




