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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第65話 深層の孤立

ダンジョンへ入って、三日目。


中層を抜けた二人は、深層へ続く巨大な裂け目の前に立っていた。


「――ここからか」


創が、暗闇の奥を見つめる。


そこには、これまでのダンジョンとは明らかに違う空気が漂っていた。


静かすぎる。


魔物の気配すら、ほとんど感じられない。


それなのに、肌にまとわりつくような魔力だけが、異様な濃さで満ちていた。


凛が、腰の剣に手を添える。


「――嫌な感じだな」


「やっぱり、そう思いますか」


「探索者の勘ってやつだ」


凛は、深層への入口を見据えた。


「こういう場所は、大抵ろくなことが起きない」


創は苦笑した。


「それ、入る前に言わないでくださいよ」


「今さらだろ」


二人は顔を見合わせ、それから同時に奥へ進んだ。


数歩進んだところで、ノアの声が響いた。


『マスター』


「どうした?」


『通信中継設備の整備範囲を外れました』


創の足が止まる。


『ここから先は、通常通信だけでなく、思考通信にも大きな遅延が発生する可能性があります』


「――分かった」


『さらに、周囲の魔力濃度が急激に上昇しています』


ノアの声が、わずかに途切れた。


『ゴーレムの制御にも――』


「ノア?」


一瞬、沈黙があった。


『……失礼しました。制御精度に、わずかな低下を確認しました』


凛が眉をひそめる。


「もう影響が出てるのか」


『はい』


創は、呼び出していたゴーレムを一体動かした。


「――右手を上げろ」


ゴーレムが動く。


だが、いつもなら寸分違わず動くはずの腕が、ほんのわずかに遅れた。


「……確かに」


創は、表情を引き締めた。


「ここでは、いつも通りにはいかないな」


「なら、いつも以上に慎重に行く」


凛が答えた。


「何かあったら、声を掛けろ。通信が切れてからじゃ遅い」


「分かりました」


二人は距離を詰め、互いの姿が常に見える位置を保ちながら進んだ。


しばらくは、何も起こらなかった。


だからこそ、油断が生まれた。


――轟音。


「――っ!」


凛が顔を上げた。


「上!」


次の瞬間、天井が崩れた。


巨大な岩塊が、二人の間へと落下する。


「凛さん!」


創は反射的にゴーレムを前へ出した。


岩塊がゴーレムの肩を直撃し、鈍い音を響かせる。


同時に、足元まで激しく揺れた。


「――くっ!」


創は、その場から飛び退いた。


土煙が視界を埋め尽くす。


「凛さん!」


返事がない。


創は、咳き込みながら前へ進もうとした。


だが――


目の前には、巨大な瓦礫の壁ができていた。


「……嘘だろ」


「創!」


向こう側から、凛の声が聞こえた。


「凛さん!」


「私は無事だ!」


創は、思わず息を吐いた。


「怪我は?」


「ない。ゴーレムも三体いる」


「今、そっちへ――」


「待て!」


凛の声が鋭く響いた。


「動くな!」


創の足が止まる。


「この瓦礫、まだ動いてる」


「……え?」


耳を澄ます。


――ゴゴゴ……。


微かな振動。


崩れた天井の奥で、まだ何かが軋んでいた。


「無理に掘ったら、全部落ちてくる」


凛が続ける。


「こっちは大丈夫だ。別の道を探せ」


「でも――」


「創」


凛の声が、今度は落ち着いていた。


「焦るな」


その一言に、創は黙った。


「お前まで巻き込まれたら、それこそ終わりだ」


「……分かりました」


「よし」


創は、瓦礫を見つめた。


「迂回路を探します。必ず、そっちへ行く」


「頼む」


創が振り返った。


その瞬間だった。


『――マスター』


ノアの声が途切れた。


「ノア?」


返事がない。


「ノア?」


数秒後、ようやく声が戻った。


『……申し訳ありません』


「どうした?」


『通信状態が急激に悪化しています』


ノアの声が、今までになく不安定だった。


『凛様との接続を維持できません』


創の表情が変わる。


「――凛さん!」


「どうした?」


瓦礫の向こうから声が返ってくる。


「ノアとの通信が――」


「……聞こえてる」


凛の声が、少し遠い。


「こっちも、かなり聞き取りづらくなってきた」


『凛様の反応を確認――』


ノアの声が、また途切れる。


『――確認――』


「ノア?」


『……』


「ノア!」


完全な沈黙。


創の背筋に、冷たいものが走った。


「……通信が切れた?」


返事はない。


創は、すぐに瓦礫へ駆け寄った。


「凛さん!」


「……」


返事がない。


「凛さん!」


何度呼んでも、聞こえてこない。


創は拳を握りしめた。


「……そんな」


さっきまで、確かに聞こえていた。


だが今は――何もない。


ノアも、凛も。


「……落ち着け」


創は、自分自身に言い聞かせた。


通信が切れただけだ。


そうに決まっている。


「まず、迂回路を探す」


そう呟き、周囲を見回した。


だが、創はまだ知らなかった。


この深層では、通信だけではなく――


ノアの探知能力そのものが、何かによって阻害されていることを。


---


その頃。


瓦礫の向こう側。


凛は、暗闇の中で一人立っていた。


「……切れたか」


手元の端末を確認する。


反応はない。


創との通信も。


ノアからの通信も。


完全に途絶えていた。


「まいったな」


凛は小さく息を吐いた。


だが、不思議と慌ててはいなかった。


周囲には、三体のゴーレム。


そして、自分の剣がある。


「――まあ、いい」


凛は剣を抜いた。


暗闇の中で、刃が微かに光を反射する。


そのとき。


――ガリッ。


どこかで、何かを引っ掻く音がした。


凛の表情が変わる。


「……いるな」


ゴーレム三体が、同時に振り向いた。


闇の奥。


何かが、動いた。


凛は剣を構える。


「創が来るまで、持たせればいい」


一歩、前へ出る。


「――だったら、十分だ」


深層の闇の中。


孤立した凛の、戦いが始まった。


第65話、お読みいただきありがとうございます。


これまでで、最も緊迫した回だったかもしれません。


「創が来るまで、持たせればいい」――その静かな覚悟に、手に汗握っていただけたなら嬉しいです。


次話をどうぞお楽しみに。

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