第54話 積み重ねた信頼
実地検証の配信は、朝早くから始まった。
「――今日は、実際のダンジョンで、荷物運搬と採掘補助の様子を見ていただきます」
創は、カメラに向かって話しかけた。
以前の配信では、緊張で声が上ずっていた。
だが、今回は違う。
まだ多少の緊張はあるものの、落ち着いて話せるようになっていた。
「まずは、現場に入る前の点検からです」
創は、収納から一体のゴーレムを呼び出した。
外観を確認し、関節を動かす。
魔力回路の状態を確認し、各部の負荷を測定する。
「関節の可動域、魔力回路、各部の損耗、それから荷重のバランス。毎回、ここを確認してから現場に入ります」
『点検項目は全部で十二項目です』
ノアが補足する。
『一項目でも基準値を下回った場合、そのゴーレムは稼働させません』
「――今日は?」
『全機、問題ありません』
「よし」
創は、頷いた。
その様子を、カメラが映し続ける。
派手な演出はない。
ただ、ゴーレムを一体ずつ確認していくだけだ。
しかし、コメント欄には、次々と反応が流れていた。
**「こういうの見せてくれるのいいな」**
**「事故の後だからこそ、点検手順を公開するのは分かりやすい」**
**「十二項目って結構多いな」**
創は、それらを横目で確認しながら、ダンジョンの奥へ進んでいった。
やがて、採掘現場に到着する。
「――では、作業を開始します」
創が指示を出す。
「採掘、開始」
ゴーレムが動き出した。
岩盤を削り、採掘された鉱石を運搬用の箱へ積み込んでいく。
別のゴーレムは、その横で瓦礫を運び出していた。
さらにもう一体が、通路の安全を確認している。
「――三体で役割を分担させています」
創が説明する。
「一体だけで全部やらせるより、作業効率も安全性も上げられます」
『現在の作業効率は、従来比で約一・七倍です』
「ノア、そういう数字は先に言ってくれ」
『申し訳ありません。今後は適切なタイミングで提示します』
コメント欄が一気に流れた。
**「ノアとの掛け合い好き」**
**「一・七倍って普通に凄くない?」**
**「これ、採掘業者からしたらかなり欲しいだろ」**
創は、思わず苦笑した。
「――まあ、こういうところが、うちの強みです」
そのときだった。
『マスター』
ノアの声が変わった。
『前方の岩盤に、亀裂を確認しました』
創の表情が変わる。
「――作業停止」
ゴーレムが、ぴたりと動きを止めた。
「全機、停止位置を維持」
創はカメラに向き直った。
「今、ノアが危険箇所を検知しました。安全確認が終わるまで作業を中断します」
同行していた美咲が尋ねる。
「作業を続けた方が、配信としては盛り上がるんじゃないですか?」
「――だからこそ、止めます」
創は、はっきり答えた。
「配信のために安全を犠牲にしたら、今までやってきたことが全部無駄になります」
美咲は、小さく頷いた。
「その通りですね」
ノアが解析を続ける。
『岩盤内部に空洞が存在する可能性があります。現状では、作業継続は推奨できません』
「――じゃあ、今日はここまでだ」
創は、ゴーレムを停止させた。
「安全が確認できるまで、この場所では作業しません」
コメント欄には、先ほどとは違う反応が並び始めた。
**「ちゃんと止めるんだな」**
**「事故があった後だから、この判断は信用できる」**
**「利益より安全を優先してるのが分かる」**
配信を終えたのは、それからしばらくしてからだった。
工房へ戻る途中、美咲が口を開いた。
「――さっきの判断、良かったと思います」
「そうですか?」
「ええ。あそこで無理に作業を続けていたら、再生数は稼げても、信用を失っていたでしょう」
創は、少し考えてから頷いた。
「――昔の俺なら、続けていたかもしれません」
「昔?」
「結果を出すことに焦ってましたから」
創は、苦笑した。
「値下げしたときも、そうでした」
美咲は、何も言わずに創を見る。
「今は、違うんです」
創は、前を向いた。
「一回の結果より、次も同じように仕事ができることの方が大事だと思えるようになりました」
その日の夜。
創は、配信のコメント欄を確認していた。
以前のような厳しい声も、まだ残っている。
だが、その数は確実に減っていた。
そして――。
『マスター、新規問い合わせが届いています』
「――どんな依頼?」
『採掘補助が三件。重量物運搬が二件。さらに、企業からの問い合わせが一件あります』
創は、画面を見つめた。
「――企業?」
『はい。ゴーレムによる倉庫内作業について、詳細を聞きたいとのことです』
創は、思わず美咲を見る。
「――これって」
「ええ」
美咲が資料を閉じた。
「配信を見て、興味を持った企業が出てきたということです」
「探索者だけじゃなく?」
「そうです」
美咲は、少しだけ笑った。
「創さん。もしかすると、私たちは今まで、ゴーレムの使い道を狭く考えすぎていたのかもしれません」
創は、しばらく黙っていた。
これまで、ゴーレムと言えばダンジョン。
探索者のための戦闘補助や、荷物運搬。
それが当たり前だと思っていた。
だが――。
「――ゴーレムを、ダンジョンの外でも使う?」
「その可能性は、十分あります」
美咲は頷いた。
「ただし、まだ何も決まっていません。まずは話を聞いてみましょう」
「――そうですね」
創は、届いた問い合わせを開いた。
そこには、これまでとは違う世界からの依頼が記されていた。
ダンジョンの外。
そこには、創がまだ知らない、ゴーレムの新しい可能性が広がっている。
その夜、工房の明かりは、いつもより遅くまで消えなかった。
経営危機。
事故。
協会からの却下。
そこから始めた、小さな再出発。
一件一件の仕事と、一度ずつの誠実な対応。
その積み重ねが、ようやく新しい扉を開こうとしていた。
第54話まで、お読みいただきありがとうございます。
経営危機、事故、協会からの却下。三重の苦難から始めた再出発が、ようやく新しい扉を開こうとしています。
そしてラストには、思いがけない新しい可能性の芽生えも。
次章では、この芽生えが、大きく育っていきます。




