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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第50話 協会の壁

美咲の指導のもと、事業の立て直しは、少しずつ進んでいた。


料金体系を適正な水準に戻し、既存の依頼者には、値下げの経緯と今後の料金について丁寧に説明した。


事故についても、隠すことなく経緯を公表し、負傷した探索者への対応を最優先に進めている。


失った依頼者すべてが戻ってきたわけではない。


それでも、少しずつ問い合わせが戻り始めていた。


「――どうにか、持ち直してきましたね」


美咲が、収支の資料を見ながら呟いた。


「――美咲さんのおかげです」


「まだ油断はできません。ですが、最悪の状態からは抜け出しつつあります」


創は頷いた。


事業そのものは、まだ厳しい。


それでも、ようやく前を向けるところまで戻ってきた。


だからこそ、創は次の一手を考えていた。


「――美咲さん。協会への申請、本当にやるんですよね」


「ええ」


美咲は、手元の資料を確認しながら答えた。


「今回の事故で、私たちの事業が抱えている問題が、はっきりしました」


「安全性を、ちゃんと公的に認めてもらう」


「正確には、協会の管轄下で事業を行うための正式な許可を得ることです」


美咲は、資料を閉じた。


「少なくとも、協会のお墨付きがあれば、今後の信頼回復には大きな意味があります」


「――分かりました」


その日の午後。


創と美咲は、探索者協会を訪れていた。


受付を通され、二人は応接室へ案内される。


しばらくすると、初老の男性が入ってきた。


協会の幹部だという。


「――白瀬創さんですね」


「はい」


「申請書類は拝見しました。これまでの実績についても、確認しています」


男は書類を机の上に置いた。


「そのうえで、いくつか確認させていただきたい」


「――お願いします」


男は、創をまっすぐ見た。


「まず確認しておきますが、ゴーレムの貸与そのものが問題になっているわけではありません」


創は、わずかに眉を上げた。


「――そうなんですか?」


「ええ。従来型の作業用ゴーレムを、ギルドや事業者が探索者へ貸し出すこと自体は、以前から行われています」


創は黙って頷いた。


これまで、自分自身も何度も利用してきた。


それは当然のことだった。


「では、何が問題なんでしょうか」


美咲が尋ねた。


男は、手元の資料を一枚めくった。


「あなた方が貸し出しているゴーレムは、従来型とは大きく異なります」


「――AIゴーレム、ですか」


「そうです」


男の視線が、資料の写真へ落ちる。


「AIによる高度な自律制御。複数体の同時運用。そして、状況に応じた独自判断」


「――それが、危険だと?」


創の声に、少しだけ力が入った。


「危険だと断定しているわけではありません」


男は、首を横に振った。


「問題は――安全だと保証するための基準が存在しないことです」


創は、言葉を失った。


「……基準が、ない?」


「はい」


男は淡々と続ける。


「従来型のゴーレムは、基本的に決められた命令を実行するだけです。構造も制御方式も、長年の運用によって一定の基準が形成されています」


「ですが、あなた方のゴーレムは違う」


「AIが判断する」


美咲が呟いた。


「その通りです」


男は頷いた。


「では、AIが誤った判断をした場合、誰が責任を負うのか」


創は答えようとした。


「それは――」


「製造者ですか。所有者ですか。管理者ですか。それとも、貸与を受けた探索者本人ですか」


言葉が続かなかった。


男はさらに続ける。


「今回の事故でも、ゴーレム自体に明確な故障は確認されていません。利用者が制止命令を無視したことも、こちらでは把握しています」


「――では」


創は身を乗り出した。


「だったら、安全性に問題はないと判断してもらえるんじゃないですか?」


「そう簡単にはいきません」


男は静かに答えた。


「今回、たまたまゴーレムが正常に動作していたとしても、それだけでは今後すべての状況で安全だとは証明できません」


創は拳を握った。


「――でも、これまで何度も実戦で使ってきました。事故だって、今回が初めてです」


「実績は評価しています」


男は、はっきりと言った。


「ですが、実績と制度上の安全保証は別の話です」


部屋に沈黙が落ちた。


美咲が口を開く。


「責任体制については、こちらで明文化する準備を進めています。事故時の対応や、貸与条件についても見直しています」


「それは理解しています」


男は頷いた。


「ですが、それだけでは足りません」


「――何が必要なんですか」


創が尋ねた。


「AIゴーレムを第三者へ貸与することを前提とした安全基準。性能評価の基準。事故時の責任範囲。そして、それらを公的に確認するための制度です」


男は一つ一つ、言葉を選ぶように告げた。


「現状、それらが整備されていません」


創は、ゆっくりと背もたれに身体を預けた。


「……つまり」


「はい」


男は、静かに書類を閉じた。


「現時点では、あなた方の事業を協会が正式に認めるための制度そのものが存在しないのです」


「――そんな」


創は、呆然とした。


自分たちは、何度も実績を積み重ねてきた。


安全に使えることも、役に立つことも、身をもって証明してきた。


それでも――。


制度という壁の前では、その実績だけでは足りない。


「――結論を、お聞かせください」


美咲が静かに尋ねた。


男は、しばらく二人を見たあと、口を開いた。


「申し訳ありません」


そして、はっきりと告げた。


「今回の認可申請は、却下とさせていただきます」


その一言が、静かに部屋へ落ちた。


創は、しばらく何も言えなかった。


やがて、顔を上げる。


「――では、今後、認可を得るには?」


男は少し考えた。


「制度が整備されるのを待つ。それが一つです」


「……」


「もう一つは――」


男は、創を見た。


「社会に必要だと認めてもらうことです」


「――社会に?」


「ええ」


男は続けた。


「制度は、前例のないものを簡単には受け入れません。ですが、必要とされる実績が積み上がり、社会的な信頼が形成されれば、制度そのものが変わる可能性はあります」


創は、その言葉を黙って聞いていた。


「……分かりました」


それ以上、言葉は出なかった。


---


協会を出ると、夕方の街が広がっていた。


「――駄目でしたね」


美咲が呟く。


「……はい」


創は空を見上げた。


事業の立て直しは、少しずつ進んでいた。


だが、事故の炎上は消えていない。


経営の傷も、完全には癒えていない。


そして今度は、制度という新たな壁まで現れた。


「――でも」


創は、拳を握った。


「ここで、諦めるわけにはいかない」


美咲が隣を見る。


「何をするつもりですか?」


創は、しばらく考えた。


そして、ゆっくりと答えた。


「……認めてもらえないなら、認めてもらえるだけの実績を作る」


「制度が変わるくらいの?」


「――そうです」


創の目に、わずかに光が戻った。


「俺たちのゴーレムが、本当に必要だって、誰もが認めるくらいに」


美咲は、しばらく創を見つめた。


そして、小さく頷いた。


「……分かりました」


「――帰りましょう」


二人は、工房へ向かって歩き始めた。


---


工房へ戻ると、凛とノアが二人を待っていた。


「――どうだった?」


凛が尋ねる。


創は、静かに首を振った。


「――却下だった」


「……そうか」


凛は、それ以上何も言わなかった。


ノアも、しばらく沈黙している。


やがて、創が口を開いた。


「でも、理由は分かった」


美咲が隣で頷く。


「私たちのゴーレムが危険だから、という単純な話ではありません」


「制度そのものが、追いついていない」


「――だったら」


創は、工房の中を見渡した。


そこには、これまで作ってきたゴーレムたちが並んでいる。


「俺たちが、先に進むしかない」


凛が、小さく笑った。


「相変わらず、無茶を言うな」


「――そうかもしれません」


創も苦笑した。


だが、今度は一人ではなかった。


凛がいる。


美咲がいる。


そして、ノアがいる。


経営危機。


事故の炎上。


制度の壁。


三重の苦難を抱えながらも、創たちは再び歩き始める。


協会に認められなかった。


だからこそ――。


ここからが、本当の再出発だった。


第50話まで、お読みいただきありがとうございます。



経営危機、事故の炎上、そして協会の却下。三重の苦難を抱えながらも、創たちの歩みは止まりません。


「ここからが、本当の再出発だった」


その言葉通り、新しい形での挑戦が始まります。どうぞ、引き続きお楽しみください。

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