↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/29

第5話 試しにスマホを

「名前、か……」


創は、画面に表示された入力欄を眺めた。


AIアシスタントの名前。


別に、重要な意味があるわけではない。


それでも、せっかくなら何か名前をつけてやるか。


そんな程度の気持ちだった。


少し考えた末、創は指を動かした。


――ノア。


入力を終える。


「これでいいか」


画面をタップすると、短い待機時間のあと、白い文字が表示された。


《設定が完了しました》


続いて、スピーカーから合成音声が流れる。


『よろしくお願いします、マスター』


「……マスター?」


創は、少しだけ眉を上げた。


「そういう設定なのか」


『はい。登録されたユーザーを、マスターとして認識します』


「なるほど」


妙に機械的な受け答えだった。


質問すれば答える。


予定を登録すれば管理する。


簡単な調べ物もしてくれる。


説明書に書かれていた機能は、一通り問題なく動作していた。


ただ、それだけだ。


会話をしていても、そこに人格があるようには感じられない。


よくできた案内係。


創が抱いた印象は、それだった。


「まあ、こんなもんだよな」


創は苦笑して、スマートフォンをポケットへしまった。


その日から数日。


創はいつも通り、採掘と運搬の契約仕事をこなしていた。


だが、仕事をしている間も、頭の片隅には別のことが引っかかっていた。


――ゴーレム化できるのは、魂を持たない物。


土。


石。


木材。


金属。


これまで試してきたものは、すべて問題なくゴーレム化できた。


ならば。


「……スマートフォンは、どうなんだ?」


ふと、そんな疑問が浮かんだ。


最初は、くだらない思いつきだと思った。


スマートフォンは機械だ。


魂なんてない。


なら、理屈の上ではゴーレム化できてもおかしくない。


もちろん、わざわざ買ったばかりのスマートフォンを実験台にする必要などない。


「……いや」


創は首を振った。


必要がないからこそ、試してみたい。


技術者気質というのか。


一度気になってしまうと、確かめずにはいられない。


それに――。


第3話で自作した「ゼロ」。


あのとき感じた、妙な反応の遅さ。


単純に作りが悪かっただけなのか。


それとも、ゴーレムそのものに何か別の問題があるのか。


もし、ゴーレム化する対象によって、結果が変わるのなら。


機械なら。


もっと複雑な構造を持つものなら。


何か違う結果が出るかもしれない。


「……試すだけ、試してみるか」


そう決めた。


もちろん、人目のある場所でやるつもりはない。


仕事帰り、創は普段使っている坑道からさらに奥へ進んだ。


かつて採掘に使われていたが、現在ではほとんど使われていない旧坑道。


崩落の危険があるため、探索者も滅多に近づかない場所だ。


魔導ランプの淡い光だけが、暗い坑道を照らしている。


創は周囲を確認した。


誰もいない。


「……よし」


ポケットから、新しいスマートフォンを取り出す。


数日前に買ったばかりの端末。


画面には、まだ小さな傷一つない。


「悪いな」


創は、少しだけ苦笑した。


「実験させてもらう」


両手で端末を包む。


意識を集中させる。


土。


石。


木。


金属。


これまでと同じ感覚を思い浮かべながら、魔力を流し込んでいく。


――何も起きない。


「……?」


もう少し力を込める。


魔力が、スマートフォンへ流れ込んでいく。


だが、反応はない。


「やっぱり、機械は無理なのか?」


諦めかけた、その瞬間だった。


画面が――


ふわりと光った。


「……え?」


淡い光が、画面の奥から滲み出す。


創は目を見開いた。


「成功……したのか?」


思わず、さらに魔力を流し込む。


その瞬間。


スマートフォン全体が、強く発光した。


「――っ!?」


手の中が、一気に熱くなる。


ピリッ。


指先に、鋭い痺れが走った。


「なんだ……これ」


今までとは違う。


土や石に魔力を流したときとは、明らかに感触が違う。


まるで――。


押し返されている。


いや。


それとも、こちらの魔力を取り込んでいるのか。


判断できない。


端末の表面を走っていた光が、不規則に明滅し始める。


「――まずい」


直感的にそう思った。


これ以上は危険だ。


創はすぐに魔力の供給を止めた。


「止まれ!」


魔力を断ち切った瞬間。


光が、ふっと消えた。


坑道に、静寂が戻る。


「……はぁ……」


創は、その場にしゃがみ込んだ。


心臓が激しく脈打っている。


しばらくしてから、恐る恐るスマートフォンを見る。


画面は真っ暗だった。


「……壊れた?」


電源ボタンを押す。


反応しない。


もう一度押す。


やはり、何も起こらない。


「……参ったな」


買ったばかりなのに。


創は頭を抱えた。


ただ、妙なことに――。


完全に壊れたようには感じなかった。


熱はもうない。


焦げた臭いもしない。


外装にも傷はない。


それなのに、電源だけが入らない。


「……何だったんだ、今の」


創は、スマートフォンをじっと見つめた。


土でもない。


石でもない。


木でもない。


金属でもない。


確かに「物」ではある。


なのに、ゴーレム化しようとした瞬間だけ、明らかに何かがおかしかった。


「……もう一回、試すか?」


そう呟いたものの、すぐに首を振った。


「いや。今日はやめとこう」


危険すぎる。


何が起きたのか分からない状態で、無理に続けるのは得策ではない。


それに、これ以上壊してしまったら、本当に取り返しがつかなくなる。


創はスマートフォンを握り直した。


「とりあえず、持って帰るか」


そうして、ふと考える。


修理に出すまで、どこに置いておこう。


自宅に置けば邪魔になる。


鞄に入れて持ち歩くのも面倒だ。


「……そうだ」


収納。


今なら、収納の中に入れておけばいい。


創は右手をスマートフォンへ向けた。


「収納」


淡い光が、端末を包み込む。


次の瞬間。


スマートフォンは、音もなく消えた。


「……よし」


いつもの収納だった。


少なくとも、外から見た限りでは。


創は立ち上がる。


「帰るか」


魔導ランプを手に、来た道を引き返していく。


その背中が、暗い坑道の向こうへ消えていく。


――そして。


創の意識から、収納の中へ入れたスマートフォンの存在が、少しずつ遠ざかっていった。


創はまだ知らない。


あの瞬間、ゴーレム化に失敗したわけではなかったことを。


そして――。


収納という閉ざされた空間の中で、誰にも知られることなく、一つの変化が始まっていたことを。


それが後に、創の人生を大きく変える存在――ノアへと繋がっていくことを。


このときの創には、知る由もなかった。


第5話、お読みいただきありがとうございます。


好奇心から始めた、ちょっとした実験のつもりが――思いがけない結果に。


主人公と一緒に、少しだけ肝を冷やしていただけたなら嬉しいです。


次話では、ついにあの声が聞こえてきます。どうぞ、お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。