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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第48話 美咲、加入

事故から一週間。


創の事業は、かつてない苦境に立たされていた。


キャンセルは止まらず、収支はさらに悪化している。


それでも創は、一人でなんとか事態を収拾しようと、朝から工房で対応に追われていた。


そんなある日。


工房の入口に、一人の女性が姿を見せた。


きっちりとしたスーツに身を包み、落ち着いた雰囲気の女性だった。


「――白瀬創さん、で合ってますか?」


「――はい。そうですが」


「遠野美咲と申します。少し、お話をさせていただけますか?」


「……どういったご用件で?」


「単刀直入に言います」


美咲は、創をまっすぐ見つめた。


「あなたの事業、このままでは近いうちに立ち行かなくなります」


「――え?」


あまりにも率直な言葉に、創は思わず目を瞬いた。


「収支の状況、価格設定、事故後の対応。どれも、経営という面から見ると問題があります」


「――失礼ですが、どうしてそこまで」


「探索者協会関連の伝手から、噂を耳にしました」


美咲は淡々と答えた。


「技術は本物なのに、経営が追いついていない。もったいないと思ったので」


「……」


創は、返す言葉に迷った。


図星だった。


「私は以前、法人営業とマーケティングを担当していました。現在はフリーで仕事をしています」


美咲は、鞄から数枚の資料を取り出した。


「よければ、経営面のサポートをさせていただけませんか?」


「――正直に言うと」


創は、資料を受け取りながら苦笑した。


「今の状態を見られるのは、かなり恥ずかしいんですが」


「恥ずかしがっている場合ではないと思います」


即答だった。


「……ですよね」


「まず、値下げの経緯を聞かせてもらえますか?」


創は、競合の登場から、焦って値下げを決めたこと。その結果、依頼数は増えたものの利益が減り、最終的に赤字へ転落したことまで、包み隠さず話した。


美咲は、途中で口を挟まず、黙って聞いていた。


そして、一通り話を聞き終えると、資料に目を落とした。


「――典型的な価格競争ですね」


「……やっぱり、そうなりますか」


「価格競争は、体力のある側が有利です」


美咲は、淡々と続けた。


「相手が業界最大手なら、なおさらです。資金力で張り合おうとしても、勝ち目はありません」


創は、何も言い返せなかった。


「ですが」


美咲が顔を上げる。


「まだ、手遅れではありません」


「――本当ですか?」


「ええ」


美咲は、資料を一枚、創の前に置いた。


「まず、料金を適正な水準に戻します。そのうえで、サービスの価値を明確にする。安さではなく、ゴーレムを使うことで何ができるのかを売るんです」


「……価値を売る」


「はい」


美咲は頷いた。


「値段だけを見ている顧客は、値段が上がれば離れます。でも、性能や安全性、使いやすさを評価している顧客は、そう簡単には離れません」


創は、資料を見つめた。


今まで自分は、目の前の競合に勝つことばかり考えていた。


「――なるほど」


「それから、事故の件です」


美咲の表情が少し厳しくなる。


「隠さず、正直に説明してください。何が起きたのか。ゴーレムはどう動いたのか。利用者がどの命令に従わなかったのか」


「――事実を、そのまま出すんですか?」


「はい」


美咲は迷わなかった。


「都合の悪い部分まで含めて説明する。それが、長期的な信頼につながります」


「……分かりました」


創が頷いた、そのときだった。


『その方針には、私も賛成です』


突然、工房の中に声が響いた。


美咲の肩が、わずかに跳ねる。


「……今の声は?」


「ああ」


創は、作業台の上に置かれたスマートフォンへ視線を向けた。


「ノアです」


「ノア?」


「俺のスマートフォンにゴーレム化したAIです」


美咲は、作業台のスマートフォンをじっと見つめた。


『遠野美咲様、初めまして』


「……初めまして」


少し間を置いて、美咲が尋ねる。


「このスマートフォンが……ノアなんですか?」


「はい」


創は頷いた。


「こいつが、俺のゴーレムを全部制御しています。事業を始められたのも、ノアがいたからです」


『正確には、マスターの技術と判断があってこその事業です』


「そういうところだよ」


創が苦笑すると、美咲も思わず口元を緩めた。


「なるほど……」


美咲は、もう一度スマートフォンを見る。


『遠野様』


「はい?」


『先ほど提示された経営改善案について、いくつか確認したい点があります』


「……AIと経営の相談をすることになるとは思いませんでした」


『私も、経営専門家の方とお話しするのは初めてです』


美咲は、少しだけ笑った。


「では、三人で話しましょうか」


創は、思わず目を丸くした。


「――三人?」


「私と白瀬さんと……ノアさんです」


美咲は、当然のように答えた。


「あなた一人に全部背負わせるつもりはありません」


その言葉に、創は少しだけ驚いた。


これまで、自分が決めて、自分が責任を取ればいいと思っていた。


だが、今は違う。


技術は自分とノア。


現場には凛。


そして、経営には美咲。


一人では足りなかった部分を、少しずつ埋めていく。


「……お願いします」


創は、深く頭を下げた。


「これから、かなり細かく口を出しますよ」


「望むところです」


「それと、もう一つ」


美咲が資料を閉じた。


「私が加入する以上、経営判断については遠慮なく意見を言います。白瀬さんが間違っていると思ったら、止めます」


創は苦笑した。


「――それは、助かります」


『私も同意します』


「ノアまで……」


工房に、わずかな笑いが広がった。


事故の炎上も、赤字も、何一つ解決してはいない。


それでもこの日、創の事業には、新しい力が加わった。


一人で抱え込む経営から、仲間と支える経営へ。


立て直しへの最初の一歩が、ようやく始まった。


第48話、お読みいただきありがとうございます。


一人で抱え込む経営から、仲間と支える経営へ。


新しい力が加わった、大切な転換点でした。


次話では、この新しい仲間の過去に迫ります。

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