第41話 ライバル企業
ギルドの入り口には、人だかりができていた。
「――何だ、これ」
創は、人混みをかき分けるように中を覗き込んだ。
正面の掲示板には、これまで見たこともない、大きく立派な広告が貼り出されていた。
**「ダンジョンガード株式会社――あなたの探索を、確かな"人の力"で支えます」**
洗練されたデザインの広告には、屈強な護衛や、頼もしげな支援スタッフの写真が並んでいる。その下には、こう続いていた。
**「ゴーレムに、あなたの命を預けられますか? 誤作動のリスクを負わない、真のプロフェッショナルによる支援を」**
創は、思わず言葉を失った。
「――これ」
『ダンジョンガード株式会社。国内最大手の探索支援企業です』
ノアの声には、これまでにない硬さがあった。
『傭兵派遣、護衛派遣を中心に、長年にわたって業界を牽引してきた企業のようです』
「――うちのこと、名指しじゃないよな、これ」
『直接的な名指しはありません。ですが――』
一拍、間があった。
『内容から見て、明らかにゴーレム貸与事業を意識した広告です』
創は、掲示板を見つめたまま、しばらく動けなかった。
「――誤作動のリスク、か」
その一言が、これまでの妨害の数々と、静かに重なった。
魔石の買い占め。作業着の紛失。虚偽のキャンセル届け。根も葉もない噂。
すべてが、一本の線で繋がっていくような感覚があった。
「――ノア。この会社、今までの一連の件と、関係あると思うか」
『断定はできません。ですが、可能性は高いと考えられます』
創は、拳を握りしめた。
その日の午後、ギルドの食堂で、創は再びあの噂を耳にした。
「――なあ、見たか、あの広告」
「ああ。ダンジョンガードが、ゴーレム批判を始めたって話だろ」
「時期的に、あの評判のゴーレムマスターを狙い撃ちにしてるって噂もあるぞ」
「――さすがに、大手が個人相手にそこまでするか?」
「分からんが、業界最大手が本気で潰しにかかったら、ひとたまりもないだろうな」
創は、その会話を、複雑な思いで聞いていた。
夕方、凛と合流すると、彼女もまた、あの広告を目にしていた。
「――厄介なのが出てきたな」
「凛さん、この会社のこと、知ってるんですか」
「知らない探索者はいない。業界最大手だ」
凛の表情は、これまでになく険しかった。
「――正直に言う。あそこは、敵に回すと厄介だ」
「――どのくらい、厄介なんですか」
「資金力も、人脈も、桁が違う。個人事業主なんて、簡単に潰せるくらいには」
創は、思わず息を呑んだ。
「――でも」
凛は、続けた。
「だからって、逃げる理由にはならないだろ」
「――凛さん」
「あんたのゴーレム、実際に役に立ってる。それは、私が一番よく知ってる」
凛の声には、揺るぎない確信があった。
「向こうがどう出るにしても、こっちがやることは変わらない。良いものを、ちゃんと作り続けるだけだ」
創は、その言葉に、じんわりと勇気づけられるのを感じた。
「――そうですね」
「怖気づくのは、まだ早い」
創は、大きく息を吸い込んだ。
「――ノア。これから、どうする」
『まずは、状況を注視しましょう。相手の出方が分からない以上、迂闊に動くのは危険です』
「――慎重だな」
『慎重すぎるくらいで、ちょうどいいと思います』
創は、掲示板に貼られた、あの立派な広告を、もう一度見上げた。
これまでの、地道な積み重ねだけでは、太刀打ちできない相手が、姿を現し始めている。
それでも、創の中に、恐れよりも強い感情が、静かに芽生えていた。
「――受けて立つしかない、か」
その呟きは、誰に届くこともなく、夕暮れのギルドの喧騒に溶けていった。
第41話、お読みいただきありがとうございます。
これまでの地道な積み重ねだけでは太刀打ちできない、大きな相手が姿を現しました。
それでも、「受けて立つしかない」という一言に、これからの創の覚悟を感じていただけたら嬉しいです。
次話をどうぞお楽しみに。




