37話 妨害の兆し②
噂の一件から、三日が過ぎた。
創は、今まで通り依頼をこなしていた。
表面上は、何も変わっていない。
だが――
胸の奥に残った違和感だけは、消えなかった。
そんな中、新しい依頼が入った。
まだ正式契約前の探索者パーティ。
ゴーレム貸与を試してみたいという話だった。
創にとっては、実績を広げる大切な機会だった。
「――よし」
待ち合わせ場所へ向かい、時間通りに到着する。
しかし。
「……来ないな」
『約束の時間から十五分経過しています』
ノアの声が響く。
「連絡は?」
『ありません』
さらに十数分待った。
だが、相手は現れなかった。
嫌な予感がした。
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夕方。
ギルドを通じて確認を取ると、意外な返答が返ってきた。
「――すみません。昨日、キャンセルの連絡をいただいたので」
「キャンセル……?」
創は眉をひそめた。
「俺は、そんな連絡をしていません」
受付職員と依頼者が顔を見合わせる。
「え……」
「確かに、創さんのお名前で届いています」
背中に冷たいものが走った。
「内容は?」
「『都合により、今回の依頼を辞退させていただきます』という簡単な書面でした」
創は黙り込んだ。
噂なら、まだ分かる。
誰かの勘違い。
悪意のない伝言違い。
だが――
これは違う。
誰かが、自分の名前を使った。
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ギルドで記録を確認すると、確かに自分名義の辞退届が残っていた。
「……俺ではありません」
職員は困った表情で書類を見る。
「筆跡や提出経路を確認します。ただ……」
「ただ?」
「代理提出の場合、特定が難しい可能性があります」
創は拳を握った。
怒りが湧いた。
だが、それ以上に苦しかった。
自分が困るだけならいい。
でも。
このことで、依頼者はどう思うだろう。
「……信用を失うって、こういうことか」
小さく呟いた。
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夜。
工房へ戻った創は、ノアへ状況を伝えた。
『分析します』
しばらく沈黙した後、ノアが答える。
『噂の拡散。そして今回の虚偽連絡』
「偶然じゃないよな」
『可能性は低いと思われます』
「……やっぱりか」
『ただし、実行者については情報不足です』
創は椅子に座ったまま、工房を見渡した。
「俺、何か間違えたのかな」
『マスター』
「ゴーレムを作って、便利だって言ってもらえて。それで終わりだと思ってた」
創は苦笑した。
「でも、商売って、それだけじゃないんだな」
『はい』
ノアは静かに答えた。
『信頼を作ること。そして、守ることも必要です』
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翌日。
創は凛に相談した。
「――偽装キャンセル?」
凛の表情が険しくなる。
「悪質だな」
「誰がやったのか、分かりません」
「……」
凛は少し考え込んだ。
「一つだけ言える」
「はい」
「便利なものが広まる時、必ず歓迎する奴だけじゃない」
凛は創を見る。
「今まで使っていたものが不要になる奴もいる」
創は、その意味を理解した。
「既存の業者……」
「可能性の話だ」
凛はすぐに釘を刺した。
「証拠がないうちは、誰かを疑うな」
「分かっています」
「ただ」
凛は少し声を落とした。
「気を抜くな」
その言葉には、経験者だからこその重みがあった。
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帰宅途中。
創は考え続けていた。
これまでは、
良いものを作れば認められる。
努力すれば報われる。
そう信じていた。
それは間違いではない。
だが――
世の中には、正しい努力だけでは解決できない問題もある。
「ノア」
『はい』
「記録を残す」
『賛成です』
「依頼内容、契約、やり取り。全部だ」
『経営者として、必要な判断です』
創は頷いた。
戦うためではない。
守るためだ。
自分のゴーレムを。
利用してくれる探索者たちを。
そして、これまで積み上げてきた信頼を。
夜の工房。
並んだゴーレムたちは、いつもと変わらず静かに佇んでいる。
だが創には、その姿が以前より少しだけ頼もしく見えた。
第37話、お読みいただきありがとうございます。
噂だけでは済まない、具体的な妨害が姿を現し始めた回でした。
それでも、工房に並ぶゴーレムたちを見る創の目には、以前とは違う頼もしさが宿っています。
次話をどうぞお楽しみに。




