第33話 ゴーレム改良
翌朝から、創は工房に籠もりきりになった。
課題は三つ。
重心補正の閾値対応。
魔力残量に応じた制御最適化。
複数体連携の精度向上。
優先順位は決まっている。
あとは、一つずつ潰していくだけだった。
「――まずは、重心補正からだな」
『はい。傾斜二十度を超えた地点で補正能力を高めつつ、平地での無駄な魔力消費を抑える。この両立が課題です』
創は、ゴーレムの脚部を分解し、内部の魔力流路を確認していく。
「――ここか」
脚部へ魔力を伝える結び目。
普段は安定性を優先して固定している部分だ。
「傾斜を感知した時だけ、ここの魔力密度を変化させるのはどうだ」
『……なるほど』
ノアが短く反応する。
『常時強化するのではなく、地形条件に応じて魔力流路を可変化させる。必要な時だけ補正能力を高めるわけですね』
「ああ。平地で無駄に力を使わず、必要な場所だけ強くする」
試作には、その日いっぱいを費やした。
魔力の流れが不安定になったり、補正が過剰に働いたりと、何度も調整を繰り返す。
そして夕方。
傾斜を再現した訓練場で、ゴーレムは安定して歩き続けた。
「――よし」
『傾斜二十五度まで、安定稼働を確認しました』
「一つ目、クリアだな」
翌日は、魔力残量に応じた制御調整に取り掛かった。
こちらは単純な強化では解決できなかった。
「魔力が減って制御精度が落ちるなら、落ちる前提で動きを変えればいい」
『つまり、残量に応じて動作性能を制限するということですね』
「ああ。最後まで無理に全力を出すから、制御が乱れるんだ」
『合理的です。ただし、制限開始の基準が重要になります』
創とノアは、何度も検証を繰り返した。
結果、魔力残量三割を境に、わずかに動作速度を落とし、安定性を優先する制御へ変更することになった。
「これなら、力不足になる前に余裕を持って対応できる」
『旋回時のブレ発生率は、大幅に低下すると予測されます』
三日目。
最後の課題――複数体連携。
これが最も難しかった。
「前の個体に、後ろが少し遅れる」
『はい。現在の命令伝達方式では、一体ずつ処理しているため、最大でコンマ三秒程度の遅延が発生します』
「たったそれだけか」
『一体なら問題ありません。しかし複数体が連続して動く場合、その差が積み重なります』
創は、二体のゴーレムを見比べた。
「一体ずつ命令するんじゃなくて、全体に同時に命令を送れないか」
『――可能性はあります』
ノアの声が少し変化する。
『ただし、複数体へ同時に情報を送る場合、魔力ネットワークへの負荷が増大します』
「……できるか?」
『検証します』
その日の午後。
創とノアは、何度も同時制御の試験を繰り返した。
最初は動きにわずかなズレが出た。
だが、命令伝達経路を調整し、魔力同期の精度を高めていくことで、少しずつ動きが揃っていく。
夕方。
階段状の模擬地形を、二体のゴーレムがほぼ同時に進んでいた。
「――できた」
創は額の汗を拭い、その場に座り込む。
『三項目の改善を確認しました』
ノアの声には、普段よりわずかな感情変化が感じられた。
「三日がかりだったな」
『地道な作業でした』
少し間を置いて、ノアが続ける。
『ですが、この積み重ねが、信頼されるゴーレムを作る要素になると思います』
創は、工房に並ぶゴーレムを見渡した。
外見は以前と大きく変わっていない。
しかし、その内部には、現場で拾った失敗や違和感、そして改善の積み重ねが詰まっている。
「――次は、凛さんに見てもらおう」
『はい』
創は小さく笑った。
これは、ただ性能を上げるための改良ではない。
誰が使っても安心できるゴーレムへ近づけるための改良だ。
そしてそれこそが、創が目指す貸与事業の土台になる。
工房の中で、改良されたゴーレムたちは静かに佇んでいた。
第33話、お読みいただきありがとうございます。
データを元にした、地道な改良の日々でした。
「ただ性能を上げるための改良ではない」――その一言に、この事業が目指す本当の意味を込めています。
次話では、この改良の成果が、いよいよ試される時が来ます。




