第27話 初テスト
数日後、創がギルドの受付で書類を整理していると、背後から声がかかった。
「――あんた」
振り返ると、そこにいたのは、あの日の女性探索者――黒瀬凛だった。
「あ、この間の」
「話がある」
前置きもなく、凛はそう切り出した。
「今度の依頼で荷物持ちが足りなくなった。受付で、あんたの名前を勧められた」
「――それは、うちに頼んでいただけるってことですか」
「勘違いするな」
凛は、鋭い視線を向けた。
「頼みたいわけじゃない。ただ、他に選択肢がないだけ」
素っ気ない言い方だったが、創にとっては、まぎれもない好機だった。
「それでも、機会をいただけるのは、ありがたいです」
「――ただし」
凛は、腕を組んだ。
「一つ、条件がある」
「条件、ですか」
「私が指定する状況で、あんたのゴーレムがちゃんと使い物になるか、試させてもらう。それに合格しなかったら、話はなし」
創は、少し身構えた。凛の口ぶりから、生半可な内容ではなさそうだと察しがついた。
「――具体的には、どういう」
「明日、浅層の外れにある廃坑エリアに来て」
凛は、地図の写しを一枚、創に押し付けるように渡した。
「――ここが、入り口。ここから、この瓦礫地帯を抜ける」
凛は地図の一点を指でなぞり、続けて別の場所を示した。
「そこで、実戦に近い状況を再現する。荷物を担がせたまま、不整地を通らせる。急な指示変更にも対応させる。それと――」
一拍、間が空いた。
「わざと、モンスターに近い距離まで接近させる。パニックを起こさず、指示通り動けるかどうかを見る」
「――かなり、厳しい条件ですね」
「当然。現場じゃ、綺麗な道ばかりじゃない」
凛の声には、揺るぎない確信があった。
「私は、ゴーレムを信用していない。だから、自分の目で確かめる」
創は、その言葉の奥に、何か個人的な重みがあるように感じた。だが、今この場で踏み込むべきではないと、直感的に理解していた。
「――分かりました。受けます」
「後悔しても知らない」
凛は、それだけ言うと、背を向けて歩き去っていった。
創は、渡された地図を見つめた。
『マスター、これは――かなり手厳しい内容ですね』
ノアの声にも、珍しく緊張が滲んでいた。
「だよな。荷物運び、不整地、急な指示変更、モンスターとの接近……よくもまあ、これだけ詰め込んだもんだ」
『恐らく、彼女自身の過去の経験に基づいた内容だと思われます。パーティ運用中に起こり得る、あらゆる悪条件を想定しているようです』
「――逆に言えば」
創は、地図を握りしめた。
「これを乗り越えられれば、証明になる」
『はい。ですが、油断はできません。私も、今日中にできる限りの準備を整えます』
その夜、創は工房に籠もり、テストに向けたゴーレムの調整を続けた。
足裏の接地面を見直し、不整地でも滑りにくいよう凹凸をつけ直す。重心の取り方も、傾斜地を想定して微調整した。
「――歩け」
指示を出すと、ゴーレムがゆっくりと足場の悪い瓦礫の上を進んでいく。バランスを崩しかけたところで、すかさず補正を加える。
「止まれ。……よし、もう一回」
不整地への対応、急な指示への反応速度、そして——モンスターへの接近時、パニックを起こさず冷静に動作を続けられるかどうか。
一つ一つ、丁寧に確認していく。
「――必ず、証明してみせる」
呟きながら、創は夜が更けるまで作業を続けた。
明日の結果が、ゴーレムの未来を左右する。
黒瀬凛の心を動かせるかどうか。その答えは、明日明らかになる。
第27話、お読みいただきありがとうございます。
厳しい条件を課された、初めてのテスト回。
「必ず、証明してみせる」という一言に込めた覚悟を、感じ取っていただけたら嬉しいです。
次話、その結果はいかに――どうぞお楽しみに。




