第22話 口コミ
それから十日ほどの間に、創は五件の依頼をこなした。
荷物運搬が三件、資材の仕分けが一件、そして農地の整地作業が一件。どれも、収納とゴーレムネットワークがあれば、造作もない仕事だった。
「――ノア、今日の分の報酬、まとめといてくれ」
『はい。累計の収支も、後ほどお伝えします』
工房の隅には、稼働を終えた十体のゴーレムが静かに並んでいた。今では動きにも無駄がなくなっている。
ある日の昼、創はギルドの食堂で遅い昼食を取っていた。
隣のテーブルから、聞き覚えのない探索者たちの会話が漏れ聞こえてくる。
「――なあ、聞いたか。最近、荷物運びで妙に評判のいい奴がいるらしいぞ」
「ああ、噂の。ゴーレムマスターだろ? 何体も同時に操って、あっという間に仕事終わらせるとかいう」
「俺の知り合いも頼んだらしいんだが、値段は普通のゴーレムマスターと変わらないのに、仕事の速さが段違いだったって話してたぞ」
創は、思わず食べる手を止めた。
自分のことだと、すぐには気づかなかった。それくらい、他人事のような響き方だった。
「――名前、知ってるか?」
「いや、そこまでは。ただ、ギルドの依頼掲示板でも、あいつ宛の指名依頼が増えてるらしい」
創はしばらく、黙って話に耳を傾けていた。
やがて席を立った探索者たちとすれ違いざま、片方が創の顔をちらりと見た。
「――あ、もしかして」
「……はい、その、噂の本人です」
気恥ずかしさを覚えながら、創は小さく頭を下げた。
探索者たちは目を丸くし、それから顔を見合わせて笑った。
「本物か! いや、噂通りだな、こんな若さで」
「今度、うちのパーティも頼んでいいか? 荷物持ちに毎回苦労しててさ」
こうした会話が、その後も何度か続いた。ギルドに顔を出すたび、見覚えのない探索者から声をかけられる。受付の職員も、いつの間にか創の顔と名前を覚えていて、「今日もお仕事ですか」と気さくに話しかけてくるようになった。
「――ノア。何だか、急に世界が変わった気がする」
『依頼の問い合わせ件数は、当初の四倍まで増えています』
「四倍って……」
『このままでは、一人では対応しきれなくなります』
「――さすがに、気が早いだろ」
『備えあれば憂いなし、と申します』
創は苦笑した。相変わらず、ノアの心配性は健在だった。
そんなある日、ギルドの受付前で、一人の若い探索者に呼び止められた。まだ駆け出しらしい、緊張した面持ちの青年だった。
「あの……すみません、あなたが噂のゴーレムマスターの方ですか」
「はい、そうですけど」
「実は、その、お願いがあって……」
青年は、少し言いにくそうに言葉を選んだ。
「僕、まだ駆け出しで、荷物持ちのゴーレムを雇う余裕もなくて。でも、一体でいいので、貸してもらうことってできませんか。運搬の仕事は自分でやるので、ゴーレムだけ借りられたら、って」
創は、一瞬言葉を失った。
今まで考えたこともない依頼だった。求められたのは、自分ではなく、ゴーレムそのものだった。
「――貸す、か」
口の中で、その言葉を繰り返す。
『マスター』
ノアの声が、頭の中で静かに響いた。
『これは、恐らく――試してみる価値があります』
創は、青年の顔をまじまじと見つめた。
これまでとは違う、新しい種類の可能性が、そこにあるような気がした。
「――少し、考えさせてもらっていいですか」
「あ、はい、もちろんです!」
青年を見送った創は、その場で腕を組んだ。
自分が働くのではなく、ゴーレムが働く。その発想は、今までになかった。
「――ノア」
「はい」
「試してみるか。一回、貸してみよう」
『承知しました。ただし――初めての試みです。上手くいくとは限りません』
「分かってる。それでも、やってみないと分からないこともある」
夕暮れのギルド前で、創はしばらく空を見上げていた。
その日、創は「ゴーレムを貸す」という、新しい可能性を初めて意識した。
第22話、お読みいただきありがとうございます。
「自分が働くのではなく、ゴーレムが働く」
これまでになかった発想が、思いがけないところから芽生えた回でした。
次話では、この新しい可能性が、実際に試されることになります。




