第16話 ノアの提案
「――お待たせしました、マスター」
ダンジョンから戻った翌日の夜、ノアがそう切り出したのは、創がちょうど夕食を終えた頃だった。
「例の、提案ってやつか」
「はい。整理がつきました」
創は居住まいを正した。あの日の戦いっぷりを思い出すと、今でも苦笑いが漏れる。力はあっても、経験と技術が伴っていない。あの現実を、これ以上ないほど思い知らされた一日だった。
「まず一つ目です。――私が、ゴーレムの制御を担当します」
「制御を、お前が?」
「はい。マスターが普段使われている、業務用の貸与ゴーレムを含め、複数のゴーレムを、私が直接操作します」
創は眉をひそめた。
「でも、ゴーレムマスターとしての権限は、俺にしかないはずじゃ」
「正確には、マスターの魔力・意志を経由して、私が操作の細部を代行する、という形になります。マスターが大まかな方針を示し、実際の細かい制御――角度、力加減、タイミング――は、私が担当する」
創は、思わず身を乗り出した。
初めてゴーレムを使っていた頃の、あの光景が脳裏をよぎる。ゴーレムに指示を出すたび、三度も四度もやり直す羽目になっていた、あの不便さ。同時に操れるのは、精々三体が限界だった、あの現実。
「――それができたら」
「はい。理論上、同時に制御できる数は、大幅に増えるはずです」
創は、居ても立っても居られなくなった。
「試してみよう。今すぐに」
「承知しました」
翌朝、創は収納から、契約先の許可を得て一時的に借り受けていた予備のゴーレムを二体、それに自作の「ゼロ」を加えた三体を取り出した。
「いくぞ、ノア」
「はい。制御を開始します」
これまでなら、一体ずつ「右腕を上げろ」「そのまま前進」と、いちいち声に出して指示を飛ばす必要があった。だが今は違う。
創が意識の中で「動け」と念じただけで、三体のゴーレムが、まるで示し合わせたかのように、同時に動き出した。
「――は、速い……!」
一体目が右へ、二体目が左へ、三体目が中央を進む。指示の遅れも、命令の言い直しも、一切ない。
「マスター、次は動作の連携を試してみます」
ノアの声とともに、三体のゴーレムが息の合った動きで、積まれた資材を協力して運び始めた。持ち上げるタイミング、支える角度、すべてが精密に噛み合っている。
創は、しばらく言葉を失っていた。
「――これが、ゴーレムマスターの本当の姿、なのか」
「いえ」
ノアの声には、静かな確信があった。
「これは、私という補助があって初めて成り立つ形です。マスターお一人の力だけでは、ここまでには至りませんでした」
「……そうだとしても」
創は、三体が息を合わせて働く様を見つめながら、込み上げてくるものを抑えられなかった。
ハズレ職と笑われ続けた、あの日々。同時操作数の限界、細かすぎる命令、修理の手間。その全てが、今この瞬間、確かに乗り越えられようとしていた。
「――ありがとな、ノア」
「お礼には及びません。私にとっても、興味深い検証でした」
創は満足げに頷き、それから、ふと思い出したように尋ねた。
「そういえば、提案は一つじゃなかったよな」
「はい。もう一つ、お伝えしたいことがあります」
ノアの声が、わずかに弾んだ。
「収納スキルについてです」
「収納が、どうかしたのか」
「先日、マスターの収納の内部構造を、詳しく解析させていただきました」
「――いつの間に」
「隙間時間を使いました。それで――マスターのレベルの成長と連動して、収納空間の容量が拡張される仕組みへ、改造できる可能性があります」
創は目を見開いた。
「あの、狭っ苦しい空間が、大きくなるのか」
「あくまで理論上ですが、はい。マスターの成長そのものが、収納の拡張に直結する形にできます」
創の脳裏に、収納を手に入れたばかりの頃、埒もなく思い描いたあの想像が蘇った。
――この容量が、もっと大きくなったら、工房くらいは持てたりするのかもな。
まさか、あの馬鹿げた思いつきが、こんなにも早く現実味を帯びてくるとは。
「――やってくれ、ノア」
「承知しました。少し、お時間をいただきます」
窓の外には、いつもと変わらない朝の光が差し込んでいた。それでも創の中では、これまでとは比べ物にならない未来への手応えが、確かに広がり始めていた。
三体のゴーレムが、変わらぬ精度で資材を運び続けている。その光景を眺めながら、創は静かに、けれど深く息を吐いた。
――ここから、何かが本格的に動き出す。
そんな予感だけが、胸の奥で確かな熱を持ち始めていた。
第16話、お読みいただきありがとうございます。
一人で戦うのではなく、二人で戦う。
その具体的な形が、少しずつ見えてきました。
これまで積み重ねてきたものが、思いがけないところで繋がっていく感覚を、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
次話では、この提案が、いよいよ形になっていきます。




