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父に勝てないレンジャー隊長、江戸で柳生十兵衛と将軍家光の悪友になり悪を斬る!  作者: 月神世一


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7/10

EP 7

お忍びの将軍様

十兵衛に案内されたのは、神田川沿いにある大衆居酒屋(当時は煮売屋と呼ばれる飯屋)だった。

狭い店内は、仕事を終えた職人や町人たちの熱気と、醤油が焦げる匂いで充満している。

「……で、肉はねぇのかよ。牛か豚」

「牛や馬は農耕の役に立つ獣だ。食うわけがなかろう。……ほら、大根の煮付けと焼き魚だ。食え」

「マジか……。タンパク質が足りねぇ……」

出された焼き魚を骨ごとバリバリと噛み砕きながら、信長は深く溜息をついた。

栄養素としては悪くないが、レンジャーの過酷なカロリー消費を補うには、やはり『肉』の脂とガツンとした食べ応えが必要だ。

そんな文句を垂れる信長を見て、十兵衛は可笑しそうに酒盃を傾けていた。その時である。

「——ほう。ここにおったか、十兵衛」

騒がしい店内の喧騒を切り裂くように、よく通る声が響いた。

入口に立っていたのは、身なりこそ町人のように崩しているが、隠しきれない気品と威圧感を纏った男だった。年齢は信長や十兵衛と同じ、二十代後半といったところか。

その男の顔を見た瞬間、十兵衛の隻眼が驚愕に見開かれ、手に持っていた盃の酒がピシャリとこぼれた。

「た、竹……っ!?」

「静かにしろ。お忍びだ。今は旗本の三男坊、『竹千代たけちよ』と名乗っておる」

十兵衛の慌てぶりは尋常ではなかった。あの柳生の天才剣士が、冷や汗を流して直立不動になりかけている。

だが、信長は全く空気を読まなかった。人間観察パラメーター『1』の平常運転である。

「なんだ、十兵衛のツレか? 竹千代っていうにゃ、随分と老け顔じゃねぇか」

焼き魚を咀嚼しながら、信長は面倒くさそうに男——竹千代を見上げた。

十兵衛が「ヒッ」と短い悲鳴を上げる。

「き、貴様、言葉を慎め信長! このお方は——」

「よい、十兵衛。今日は無礼講だ」

竹千代は扇子で十兵衛を制すると、興味深そうに信長の対面の席にどっかりと腰を下ろした。

(この男……徳川家光とくがわいえみつ。現・日本国の最高権力者である三代将軍、その人である)

家光は、剣術をこよなく愛する武断派の将軍だ。

「柳生新陰流の門弟三人をごろ寝させ、十兵衛と互角に打ち合った異装の男」。そんな噂を聞きつけ、城の窮屈な執務から逃げ出して、自らお忍びでやってきたのだ。

「お主が『信長』か。親父殿(宗矩)の門弟をコケにし、我が剣の師である十兵衛と引き分けたと聞いた。……どうだ、余——いや、俺の召し抱えにならんか?」

「はぁ?」

高圧的、かつ絶対的な自信に満ちたスカウト。

だが、信長は手元の茶碗に無造作に酒を注ぐと、ドンッと家光の前に置いた。

「俺はダチのツレなら身分は気にしねぇ。が、いきなり上司面ヅラする奴の下で働く趣味はねぇよ。……将軍様だろうが何だろうが、同じ席に座ったなら、とりあえず飲めや」

空気が、完全に凍りついた。

十兵衛の顔面は蒼白になり、家光の背後に密かに控えていた護衛の御庭番たちが、殺気を放って柄に手をかける。

「打ち首」という言葉が、十兵衛の脳裏をよぎった。

だが——。

「……ふっ」

家光の口から漏れたのは、怒りではなく、押し殺したような笑いだった。

「はははっ! ガァッハッハッハ!!」

やがて、家光は腹を抱えて大爆笑し始めた。

生まれながらの「将軍」として、常に周囲から畏怖と阿諛追従あゆついしょうを受けてきた家光。誰も自分に対して対等に口を利かない孤独な頂点。

そこに、身分も肩書きも一切気にせず、「とりあえず飲め」と安酒を突きつけてくる男が現れたのだ。

「面白い! 実に面白い男だ! まるで本当に上総介(信長)公の再来ではないか!」

家光は、出された安酒を一気に飲み干した。

「気に入ったぞ、信長! 俺は竹千代、お前の『悪友』としてこの席に加わろう!」

「おう。俺は坂上信長だ。よろしくな、竹千代」

完全に意気投合して盃をぶつけ合う二人を前に、十兵衛は深い、深い溜息をついた。

(……この男、自分の『政治音痴』が結果的に上様トップの心を一番掴んでいることに、全く気づいていない……!)

「だが、メシが物足りねぇな。魚ばっかりだ」

「ほう。ならば何が食いたい?」

「肉だよ、肉。……よし、明日時間あるか? お前らに、戦士の『本物の肉料理(野戦食)』ってやつを食わせてやる」

こうして、現代のレンジャー、柳生の天才剣士、そして天下の将軍様という、江戸時代最強にして最凶の『悪友トリオ』が誕生したのである。

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