EP 18
証拠確保と逃走経路封鎖
信長に見下ろされ、跡部剛蔵はガチガチと歯を鳴らして震えていた。
「さあ、吐け。てめぇの汚職の証拠……『裏帳簿』はどこに隠してある」
「ひ、ひぃぃ……し、知らぬ! そのような物は……!」
跡部は首を横に振るが、その視線が一瞬だけ、部屋の奥に飾られた立派な水墨画の『掛け軸』へと泳いだ。
尋問において、対象の無意識の視線誘導を見逃す信長ではない。
「……なるほど。あそこか」
「なッ……!?」
信長が掛け軸へ向かって歩き出そうとした瞬間、窮鼠猫を噛むとばかりに、跡部が狂ったような悲鳴を上げて床を蹴った。
「ど、どけェェェッ!」
脱臼した腕を引きずりながら、信長を突き飛ばして掛け軸へ突進する。
そして、無事な左手で掛け軸を強引に引き剥がし、その裏に隠されていた『隠し扉』の仕掛けを押し込んだ。
ゴゴゴ……と壁の一部が回転し、人一人が通れるほどの暗い抜け道と、金庫のような小さな空間が姿を現す。
「ふははは! 抜け道だ! ここを通れば屋敷の裏門へ出られる! 貴様らなどに捕まるものかァ!」
跡部は狂喜の声を上げ、抜け道へと飛び込もうとした。
――だが。
「……だから言ったろ。逃げ道(退路)はゼロだって」
信長の太い腕が、抜け道へ飛び込もうとした跡部の襟首をガシッと掴み、後方へ乱暴に引き戻した。
「ぎゃあッ!?」
「それに、その先にある裏門はパラコードでガチガチにロックしてある。仮に抜けられたとしても、てめぇは門の前で絶望するだけだ」
信長は冷酷に言い放ち、跡部を再び床に放り投げた。
事前のブリーフィング通り、逃走経路の封鎖は完璧に機能していた。
「な、ならば……! これをやる! 千両、いや二千両あるぞ!!」
跡部は半狂乱になりながら、隠し金庫の中から黄金の小判が詰まった箱を引きずり出し、床にぶちまけた。
チャリン、チャリンと小気味よい音を立てて、莫大な富が散らばる。
「金だ! 金が欲しいのだろう!? 全てくれてやる、だから私を見逃せッ! 上様の名を騙った罪も不問にしてやるから!」
金で命と保身を買おうとする、腐りきった役人の末路。
だが、信長は散らばる小判には目もくれず、金庫の奥にひっそりと置かれていた『分厚い和紙の束』を鷲掴みにした。
「金のために、命張って地獄歩いてるわけじゃねぇんだよ」
信長はその和紙の束――『裏帳簿』をパラパラと捲った。
数字の羅列と、複数の大名や役人の名前、そして遊郭やヤクザ者との黒い取引の記録。
「政治や経済の小難しい計算は、俺には分からねぇ。俺の仕事は『証拠の保全』までだ」
信長は振り返り、その裏帳簿を家光へと放り投げた。
「竹千代! こいつで間違いないか?」
帳簿を受け取った家光の顔つきが、一瞬にして『天下の将軍』のそれに切り替わる。
パラパラと数ページに目を通しただけで、政治・経済パラメーター『5』の家光の頭脳は、その帳簿が持つ爆発的な破壊力を完全に読み解いていた。
「……間違いない。江戸の米の横流し、吉原の裏金、そして大名家からの賄賂……。跡部剛蔵、お主一人でできる規模ではないな。奉行所の何名が関わっておる?」
「あ、あ、ああ……」
家光の怒気を孕んだ声に、跡部はついに白目を剥きそうになるほど絶望した。
「素晴らしいぞ、信長。これさえあれば、跡部のみならず、背後にいる腐った幕閣の連中まで一網打尽にできる。文字通り、江戸の病巣を抉り出す『決定的な証拠』だ」
「上様。それでは……」
十兵衛が、隻眼を光らせて家光を見る。
「うむ。作戦目標は完遂された」
家光は帳簿を懐に収めると、再び『葵紋入りの刀』をチャキッと鳴らして鞘に収め、一歩、また一歩と跡部剛蔵に詰め寄った。
「証拠は揃った。あとは余の仕事(事後処理)だ。……跡部剛蔵。貴様の罪、ここで裁いてくれよう」
逃げ場なし。
武力なし。
証拠は完全に確保された。
時代を超えた最強の悪友トリオによる、圧倒的なカタルシスを伴う『お裁き』の瞬間が、ついに訪れようとしていた。




