EP 12
いざ、成敗の刻
吹き飛んだ門扉が中庭の石畳に激突し、凄まじい轟音を立てて砕け散った。
「な、何事だァ!?」
「敵襲! 敵襲ゥゥッ!!」
屋敷のあちこちから、提灯を手にした用心棒の浪人たちが蜘蛛の子を散らすように湧き出してくる。その数、十、二十……またたく間に中庭は殺気立った男たちで埋め尽くされた。
だが、信長は歩みを止めない。
「十兵衛! 予定通り、無力化で道を拓くぞ!」
「承知! 峰打ちなどいつ以来か忘れたが……腕鳴らしには丁度よい!」
十兵衛が抜刀し、刃を返して『峰』を敵に向ける。
浪人たちが一斉に斬りかかってくるが、天才剣士の動きは次元が違った。
「シィッ!」
鋭い呼気と共に、十兵衛の刀が夜闇に銀色の軌跡を描く。
斬撃を紙一重で躱し、すれ違いざまに首筋や鳩尾へ正確無比な峰打ちを叩き込む。声を発する暇すら与えず、次々と男たちが白目を剥いて昏倒していく。
一方の信長は、あえて敵の密集地帯へ単身突っ込んだ。
「うおおおッ! 死ねぇ、南蛮野郎!」
上段から振り下ろされる刀を、信長は左腕のタクティカル・パッドで強引に弾き飛ばし、そのまま相手の懐に潜り込む。
強烈な膝蹴りを水月に叩き込み、胃液を吐いてくの字に曲がった男の背中を、後頭部への掌底で地面に縫い付ける。
「次! 邪魔だ、道を開けろ!」
投げる、極める、打つ。
自衛隊徒手格闘術による流れるような近接制圧(CQC)。血一滴流させず、しかし確実に『人間を破壊する』無慈悲な暴力が、用心棒たちを恐怖のどん底に叩き落としていく。
「な、なんだこいつらは……! 化け物か!」
混乱と悲鳴が渦巻く中庭。
その修羅場のど真ん中を、一人の男が悠然と歩いていた。
「……ふむ。二人とも、見事な制圧ぶりよ。余の歩く道に、血一滴、死体一つ転がっておらぬとはな」
徳川家光である。
彼はお忍びの着流し姿のまま、両手を後ろで組み、まるで自城の庭でも散歩するかのような足取りで、信長たちが拓いた道を堂々と進んでいく。
襲いかかろうとする用心棒もいたが、家光から発せられる『王者の覇気』に気圧され、誰一人として彼に刀を向けることができなかった。
***
その頃、屋敷の最も奥にある離れ。
北町奉行所与力、跡部剛蔵は、豪華な寝巻き姿で忌々しげに舌打ちをしていた。
「ええい、表の騒ぎは何だ! 誰かある!」
部屋の隅では、借金のカタに攫われてきた町娘が、帯を解かれかけ、恐怖で身を寄せ合って震えている。
跡部が下卑た笑みを浮かべて娘に手を伸ばそうとした、まさにその時だった。
「ひぃぃぃッ! 跡部様、て、敵襲でございますゥゥ!」
家臣の一人が、血相を変えて襖を開け、転がり込んできた。
「狼狽えるな! どこの馬の骨かは知らんが、大方、逆恨みした町人か、他の組のヤクザ者であろう。三十人も用心棒を雇っておるのだ、すぐに片付くわ!」
「そ、それが……たった三人の男に、表の用心棒が次々と倒されておりまして……ッ!」
「なんだと!? 馬鹿な、たった三人に……」
跡部が立ち上がろうとした、次の瞬間。
ドゴォォォォォンッ!!!
家臣の背後——離れの入り口を塞いでいた頑丈な襖が、蹴り飛ばされて枠ごと木端微塵に吹き飛んだ。
「ひぃッ!?」
跡部は腰を抜かし、尻餅をつく。
舞い散る木屑と土埃。
その向こう側から、夜の闇を背負うようにして、三つの影がヌラリと姿を現した。
先頭に立つのは、奇妙な斑模様の服(迷彩服)を着た、巨躯の男。
その横には、刀を肩に担ぎ、隻眼を獰猛に光らせるボサボサ髪の剣士。
そして二人の背後から、底知れぬ威圧感を纏った、若い着流しの男がゆっくりと足を踏み入れた。
信長は部屋の隅で震える町娘を一瞥すると、G-SHOCKの盤面を見て短く告げた。
「……VIPの無事を確認。これより、完全制圧に移行する」
「な、何奴ッ!?」
恐怖で顔を歪めながらも、跡部は必死に権威を振りかざして怒鳴りつけた。
「貴様ら、ここを北町奉行所与力、跡部剛蔵の屋敷と知っての狼藉か! ただで済むと思うなよ! ええい、出会え! 奴らを一人残らず斬り捨てい!!」
跡部の怒声に呼応するように、奥の部屋から生き残りの用心棒たちが十数人、刀を抜いてドカドカと雪崩れ込んできた。
多勢に無勢。普通ならば絶望する状況だ。
だが、信長は口にくわえていた火のついていないメビウスを取り出し、ニヤリと笑った。
「……竹千代。待ちに待ったアンタの出番だぜ」
「うむ。……久方ぶりに、血が滾るわ」
家光が一歩前へ出る。
その顔には、天下人としての冷徹な怒りが満ちていた。




