⑨勘違い修行:会計士は深淵を覗く
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
ひとときの語らいをよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
霧深い夜……、街道の入り口にある古びた石橋の上で、旅の一行は足を止めます。
「大将、ネズミが湧いたぜ。……それもかなり手強いやつだな」
キースが空間から大身槍を取り出し、視線の先の向こうから、金属の擦れる音が響きました。
王宮直属の騎士団たちです。
カインの体調変化に気づき、「金庫の鍵」と言われたオーレリアを必要になり、連れ戻すために来た精鋭たちです。
「……あら、しつこい方々ですわ。私の時給がどれほど高いか、あの方々知らないのかしら?」
松風の背でオーレリアは帳簿を閉じ、冷ややかな視線を霧の奥へ向けました。
「キース、松風。無駄な戦闘は浪費ですわ。やるなら一気に、損切りして差し上げなさいな」
「へっ、合点承知だ!」
キースが地を蹴った瞬間、霧が爆ぜました。
騎士団の先頭に立つ重装歩兵たちが、盾を構えて一斉に突撃します。
しかしキースの動きは、彼らの予想を遥かに超えていました。
彼は剛力で押し通るのではなく、槍のしなりを利用し、盾の死角から正確に喉元を突く!
「……遅いぜ」
無音の制圧が続きます。
キースが舞うたびに、鎧の隙間を槍の穂先が走り、騎士たちが石畳に沈んでいきます。
その戦いは熟練の職人が、無駄なく解体作業を進めるような光景でした。
その時一人の騎士が馬を飛ばし、背後からオーレリアを強襲しようと剣を振り上げます。
「捕らえたぞ、魔女め!」
しかしオーレリアは微動だにせず、彼女の近くにいた松風が危機を察し、その巨躯から素早い速さで後肢を跳ね上げた。
ドォォン!!
重い金属音が響き渡り、馬ごと騎士は吹き飛ばされました。松風は再び四肢を地につけ、オーレリアを守る不動の壁へと戻ります。
「……松風、助かりました。今回の衝撃と加速度の計算も完璧ですわ!」
オーレリアは松風の首筋を優しく撫で、そのまま地面に落ちている折れた剣を、検地用の杖でひょいと拾い上げました。
「さて……。まだ息のある方は? 逃げ遅れた方には、不法侵入と公務執行妨害の慰謝料を請求させていただきますわ」
生き残った騎士たちが、彼女の瞳に宿る「死神」に似た冷徹な光に気圧され、次々と武器を落として後ずさりします。
「ひ、ひぃっ……化け物か……!」
「失礼ですわね。私はただ数字を愛する会計士ですわよ」
オーレリアは拾い上げた剣を、まるでゴミでも捨てるように投げ捨てました。
「キース、終了ですわ。追跡者一名あたりの撃退コスト、想定より抑えられましたわね。……さて夜明けまでに次の街へ入りますわよ」
「へへ、大将には敵わねえな。……旦那、見てたか? あんたの奥方は、魔法なんてなくても、この世界のルールを自分勝手に書き換えて進んでるぜ」
キースは槍を担ぎ直し、月明かりの下、オーレリアと松風に続いて深い霧の中へと消えていきました。
王宮に届くのは、騎士団壊滅の報と、多額の「精神的苦痛に対する請求書」だけです。
街道の脇で野営の火が爆ぜる音だけが響く静かな夜。
オーレリアはなりふり構わず、「実行」の真っ只中にありました。
「……んんんんっ! 収納! ……格納! アセット・イン!!」
彼女は両手に干し肉と予備の蹄鉄をぎゅっと握りしめ、前方の空間が歪むのを期待して、何度も突きを繰り出しています。
カインが言っていた「ありのまま」だの「創造」だのを、彼女なりに物理的な筋力と気合で解釈した結果でした。
(要するに数打ちゃ当たる戦法……)
「…………」
傍らで松風の蹄を磨いていたキースは、その様子を退屈そうに眺めていました。
あまりにも必死で、いい加減呆れを通り越して、同情を覚えたのです。
「……おい大将。そんなに『ストレージ』を作りたいなら、もう少しマシなやり方があるんじゃねえか?」
「……はあ、はあ……っ。うるさいですわね。あなたにできて、私にできないはずがありませんのよ! 空間よ、私の資産を受け入れなさいな!ケチな私がやると言ってますのよ!!」
再び「エイッ!」と気合を込めて突き出すオーレリア。
もちろん空間は微動だにせず、ただ干し肉が夜風に揺れるだけでした。
「……見てられねえな。……なぁ、大将。試しに別の魔法を練習してみるか? あんたにゃ、案外そっちの方が向いてるかもしれねえぜ」
その言葉を聞いた瞬間。
オーレリアの動きがピタリと止まり、キースの方へバッと振り向きました。
その瞳は、まるで千両箱を見つけた時のように、ギラギラ、ランランと輝いています。
「……お願いしますわ! ぜひ、ご指導くださいませ!!」
その食いつきっぷりの良さに、キースは「おっと」と少し後ずさるのでした。
「……あー、なんだ。そんなに身を乗り出すな。……いいか、魔法ってのは結局のところ、己の中にある『意志』を外に叩き出す作業だ。大将、……あんたは『受け入れよう』としすぎなんだよ」
「受け入れる……? 私は今、空間を強制収用しようとしていますわよ?」
「それがダメなんだ。……ほら、あの岩を見てろよ」
目標を指定し、キースは手近な小石を拾うと、それを目標目掛けて放り投げました。
その瞬間……、彼の指先からパチッ! と、火花?あるいは闘気のような何かが走り、投げた石が空中で粉砕しました。
「……今のが、魔法?」
「魔法か、ただの気合か旦那に聞かなきゃ分からねえが、結果は同じだろ? ……いいか、大将。あんたのその『負けず嫌い』を一点に固めて、突き出してみな。……あそこに、嫌な貴族の顔でも思い浮かべてさ」
「……嫌な、貴族……」
オーレリアの脳裏に、かつて自分の資産を不当に徴収しようとしたあの肥え太った官僚や、足利の家を食いつぶした寄生虫どもの顔が並びます。
「……分かりましたわ。……やってやりますわよ!」
オーレリアは立ち上がり、今度は両手に何も持たず、ただ拳を固めました。
「(……私から奪おうとする者。……カイン様との時間を邪魔する不条理。……すべて、すべてまとめて、『損切り』して差し上げますわ!!)」
カッと両目を見開き、彼女が全力で空間を殴りつけ、腕を突き出したその時……?!
パキィィィィン!!
空気が凍りつくような鋭い音が響き、彼女の突き出した先――数メートル前の地面が、計算ミスを消されたように、……丸く抉れました。
「……あ」
「……げぇっ、マジかよ」
キースの口から煙管が、……ポロリとこぼれ落ちます。
オーレリア本人は、自分の突き出した手と、抉れた地面を交互に見て、震える声でこう叫びました。
「……キース!! 見ましたか!? 今!空間を『減損処理』いたしましたわ!! これですわ、この感覚ですわよ、ね!!」
「……いや、大将。それ……、収納じゃなくて……『破壊』の魔法……」
収納を求めて破壊を覚える。
カインが知れば、頭を抱えるか、あるいは「やはり君はこうなるか」と大爆笑するに違いないが、新しい力に目覚めたので、……めでたしという事だろう。
それをキースからの手紙で知ったカインは、「……私の愛した女性は、やはり世界で一番、手が付けられない」っと、言いました。
オーレリアとキースの珍道中は、まだまだ続きます。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




