⑩実践:会計士の「空間整理」
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときの語らいをよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
習得したばかりの技術は、すぐに試して実益に変換しなくてはなりません。彼女の目は、獲物を探すハゲタカのように鋭く輝いています。
「キース! 先ほどのような余計な障害物、この辺りにまだ転がってますの?」
「おいおい大将、そんな物騒なもん、そう何度もぶっ放すなよ。魔力が枯渇してぶっ倒れるぜ?」
キースの忠告など、今のオーレリアには届きません。彼女は松風の横にある積まれた、旅の「不要な荷物」——空になった樽や、ガタのきた車輪に目をつけました。
「ふむ……。あれを処分する為に人足を雇うと銀貨一枚ですが、今のこの『処理魔法』を使えば!……コストはゼロですわ♪」
「……いや、そういう用途じゃねえと思うんが……」
オーレリアは深く呼吸を整えます。
脳裏にあるのは、邪魔な在庫を帳簿から消し去る時の爽快感……!!
「対象、不良在庫! 減損処理、開始いたしますわ!!」
カッ! と突き出された彼女の掌。
先ほどよりも鋭い「パキィィン!」という音と共に空樽の半分が、まるで巨大スプーンで掬い取ったように、空間ごと消失しました。
「……見なさいな! 半分も消えましたわ! これで積載重量が軽減され、松風の移動効率が12%向上いたしますわよ!」
「……大将、あんた。消えた『半分』はどこへ行ったんだ? 収納じゃねえんだから、どっかに繋がってるわけじゃねぇよな?」
「そんなこと、私の知ったことではありませんわ! 私の目の前から消えた、という結果こそが真実。消えた先の『損失』は、世界のどこかの誰かが計上すればよろしいのです!」
オーレリアは魔法が使えた事に満足し、結末の探求を捨てたようです。
キースは冷や汗を流しながら、松風の首を撫でました。
本来の攻撃魔法とは、「火」を出したり「雷」を落としたりするもの。
しかしオーレリアが覚醒させたのは、物質そのものを空間ごと削り取るという極めて異質で、かつ回避不能な「消去」の力でした。
「(……旦那。あんたの嫁さん、とんでもねえもん掘り当てちまったぞ。これ収納魔法なんかよりタチが悪いぜ……。狙われたら最後……、鎧も盾も関係なく存在ごと消滅しちまう)」
そんなキースの恐怖を余所に、オーレリアは額の汗を拭い満足げに微笑みました。
「フフフ……、楽しくなってきましたわ。次はあの邪魔な巨石を『圧縮』して、街道整備コストを削減してみせますわよ!」
「やめろ! 地形が変わっちまうだろうが!」
魔法を「世界への奉仕」ではなく「帳簿の整理」に使う女……。
オーレリアの魔法修行は、もはや「攻撃」でも「防御」でもなく、異世界そのものを「再編」する方向へと突き進んでいくのでした。
旅の途中、ならず者の集団に囲まれた際、キースはいつものように、松風の前に立ちふさがろうとしました。
「大将、下がってな! ここは戦国屋の俺の出番だ……」
そう言いかけた瞬間、キースの横を風が吹き抜けました。
オーレリアが手にした検地用の杖を、鮮やかに旋回させ、先頭の男の顎を物理法則に基づいて打ち抜いたのです。
「……?!」
キースが呆然とする中、彼女は倒れた男からこぼれ落ちた剣をキャッチし、そのまま背後の敵を峰打ちで制圧……。
「……キース。敵の陣形に三箇所の無駄がありましたわよ。貴方の出番を待つまでもなく……終了いたしましたわ」
キースは持っていた槍を落としそうになり、松風もまた「……ブルルッ(マジかよ、この女)」と目を見開きます。
「(……おいおい、大将。あんた、ただの銭ゲバじゃなかったのかよ……。その身のこなし、どこで仕込んできやがった。……旦那、あんた何ていう『爆弾』を俺に預けやがったんだ!)」
一方、のんびりと死を待つカインのもとへ、キースからの「緊急報告」が届きます。
そこにはオーレリアの経済活動ではなく、「彼女の戦闘記録」が綴られていました。
『死神の旦那、緊急事態だ!あんた、大将が戦えるなんて一言も言ってなかっただろ!
今日、野盗に襲われたんだが、俺が出る前に大将が棒一本で連中を制圧しやがった。
拾った刀を逆手に持って「非効率ですわ!」って叫びながら、敵を薙ぎ倒す姿は正直……、あんたより死神に見えたぜ。
あんた一体何を彼女に教えてたんだ? それとも、室町の女ってのは全員あんな化け物なのか?』
カインは手紙を読んだ後、……数秒間固まりました。
そしてフツフツと込み上げてきたのは――肺の痛みではなく、震えるような笑いでした。
「……ふふ、ふははは! ……そうか!君はそんなことまで隠していたのか、オーレリア。……君を守るために魔法の石を作っている私が、一番の『道化』だというわけだ」
カインは「日野富子」として生き抜くために、誰にも見せなかった積み上げた「実行力」の存在を知り、さらに彼女に惚れ直します。
「……守る必要なんてなかった。……だがそれでも、私は君を守りたい。……君のその強さに、甘えたくないからね……」
カインの手元には、漆黒の石が握られていました。
「戦える事を知らなかった? ……失礼な!聞かれなかったから答えなかっただけですわ」
オーレリアは返り血を拭いもせず、平然とそう言い放ちます。
「実行こそが真価。……魔法だなんだと悩む前に、目の前の障害を即排除が、最もコストパフォーマンスの良い解決法ですわ。……さあキース、この男たちの所持金を計算しますわよ。ぼうっとしないで見なさいな!」
魔法より武力……、コストを考えると物理が一番効率がいいのでした。
「……大将、魔法よかったのかよ」
「あの魔法……、コスト効率を考えると、規模を選びますわね」
オーレリアなりに考えていたようです。
武力で賊を制圧したオーレリア……。
室町ではいろいろと大変だったろうと思い、そんな彼女にキースは冷めた酒の器を差し出し、ふと空を見上げて呟きました。
「……大将。あんまり数字や効率ばかり考えてると、心が干からびちまうぜ。……ほら、あんなに月が綺麗だろう」
オーレリアは不機嫌そうに月を仰ぎます。
「月が綺麗だからといって、一銭の得にもなりませんわ」
「そう言うな。……一つ、歌合わせ(連歌)でもしないか。あんたが京の都でどんな景色を見てきたか、俺に教えてくれよ」
派手な扇を手に立ち上がり、キースは低く響く声で上の句を詠み上げました。
『散りぬれば のちはあくた(塵)に なるともに……』
(散ってしまえば 後は塵となって消えゆく運命だとしても)
それは戦場に生き、明日をも知れぬ「傾奇者」としての彼の死生観でした。
オーレリアは一瞬、ハッと目を見開きました。
その句の響きに、前世で失った銀閣と燃えた京の街、そして今まさに死を待っているカインの姿が重なったからです。
彼女はゆっくりと立ち上がり、乱れた髪を指で整えると、淀みなく下の句を繋げました。
『咲き誇りなば 誇りこそすれ』
(今この瞬間に命を懸けて咲き誇り、その誇りだけは、誰にも、死にさえも汚させない)
キースは一瞬驚いたように目を見開き、それからガハハと愉快そうに笑いました。
「……参ったな。塵になる運命さえも『心意気』で上書きしちまうか。さすがは大将だ。あんたの帳簿にゃ、滅びなんて言葉はないらしい」
キースはそう言うと、手にした扇をパチンと閉じ、まるで最高の宝物でも見るような眼差しでオーレリアに向けました。
「いいか、大将。あんたのその『誇り』、そして『心意気』……。それが続く限り、あんたはどんな不条理(赤字)にも負けやしねえよ。俺の槍も、その心意気に惚れてるってわけだ」
「当たり前ですわ。……カイン様が私に託したこの時間は、一分一秒『極上の資産』ですの。それを塵になどさせませんわ!」
キースは彼女の強情なまでの「生への執着」と「凛とした意地」に、改めて惚れ直しました。
カインがなぜ自分のような傾奇者に、この女を託したのか。その理由が和歌という共通の言語を通じて、ようやく腑に落ちたのです。
「……いい歌だ。旦那に聞かせてやりたいぜ」
「……カイン様なら、きっと『その句の季語が不適切だ』なんて、野暮な添削をしてきますわよ」
そう言ってオーレリアはふいっと顔を背けましたが、その頬は少しだけ赤みを帯びていました。
異世界の夜空の下、前田利益慶次と日野富子が、槍と算木を置いて言葉を交わす。
それはカインが用意した、束の間の「故郷」の時間でした。
「……さて、雅な時間は終わりですわ。キース、次の句を詠む前に、明日の行軍コストの再計算をいたしますわよ!」
「へいへい、風流な月が、あっという間に金貨に見えちまったなぁ」
キースは扇を空間に放り込み、オーレリアの背中を追います。
その足取りは先ほどよりも、少しだけ軽やかな歩みでした。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




