⑧異世界視察:不条理との遭遇
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
お待たせいたしました。
ひとときよろしくお願いします。
不定期になりますが、のんびりお付き合い
いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)
テントの中で「物理法則の不正受給(魔法)」に頭を抱え、指をパチンパチンと鳴らしては「……出ませんわ」と嘆いているオーレリア。
その滑稽で一生懸命な物音を背中で聞きながら、キースは焚き火の傍らで一筆認めていました。
カインから預かった「風」としての役目、その最初の中間報告です。
夜の帳が下りた森の中、キースは松風の背を机代わりに筆を走らせていた。
ふと視線を上げれば、街道の脇にひっそりと、力強く色付いたツリバナの枝が、秋風に揺れている。
10月の夜気を吸って、朱色の実が五つに割れ、中から鮮やかな種が顔を出していた。
「……これでも添えてやるか。あいつ、こういう『粋』なのが好きだったろう♪」
キースは手折ったツリバナの小枝を、手紙と一緒に丁寧に結ぶ。
その文面は前田慶次らしい奔放さと、友への手向けに満ちている。
『死神の旦那へ。
安心しな、大将は元気だ。
今はテントの中で、俺の魔法が「帳簿に合わねえ」っつって、必死に虚空を掴んで格闘してるぜ。
あんたが惚れた女は、やっぱりただの銭ゲバじゃねえ。
世界の法則が壊れてることに、本気で腹を立てられる、最高に真っ当な「怪物」だ。
このツリバナの花言葉は「執着」だそうだ。
ちょうどいい花言葉だろう?
ま、どっちにしろ、あの大将なら地獄の沙汰も金次第で、新しい魔法を書き換えちまうだろうよ。
松風もあいつを気に入ったらしい。
旦那……、そっちでゆっくり休んでな。
この先は、俺の「傾奇」と、あいつの「算盤」で、この世界をめちゃくちゃにして、楽しんでくるぜ。』
キースが口笛を吹くと、どこからともなく夜鷹が飛来し、その脚に手紙を括り付けた。
夜鷹は一度だけオーレリアのいるテントの上を旋回し、そのままカインの元へ飛んで行きました。
その静かな空には、まだオーレリアの奮闘する音がします。
「……おい、大将! いつまで指鳴らしてんだ。もう寝ねえと、明日の『移動コスト』に響くぜ!」
キースが茶化すように叫ぶと、テントの中から「……うるさいですわね! 今、あともう少しで空間が歪みそうな気がしたんですの!」と、お門違いなほど力強い返事が返ってきます。
秋の夜、朱色の実が揺れる下で……。
カインへの最初の報告書は、静かに、そして賑やかな文が届けられたのです。
宰相邸の執務室、深夜。
彼は窓を開け、夜風に混じる枯れ葉の匂いを吸い込みました。
そこへ慶次の放った夜鷹が、音もなく舞い込みます。
カインは、キースの走り書きと、鮮やかな「ツリバナ」の小枝を手に取りました。
「……執着、か。小粋な洒落だねぇ……」
カインはその朱色の実を愛おしそう見つめ、壊れ物を扱うように指先で触れました。
手紙にはオーレリアがテントの中で「空間の歪み」を求めて指を鳴らし、魔法が使えないことに絶望しているという、あまりにも彼女らしい混乱が綴られています。
「ふふ……っ。くくく……」
カインの喉から、震えるような笑いが漏れました。
彼女が隣にいた頃、どれほど複雑な王宮の横領事件も、瞬き一つせず解決してみせたあの聡明な女性が、今は野宿のテントで虚空を掴んで格闘している。
(ああ、オーレリア……。君のその『理屈への真摯さ』が、今の私をどれほど慰めるか、君は知らないだろうね)
彼は手紙を読み進め、松風が彼女を慰めたという一節で、ふっと表情を緩めました。
「松風にまで気に入られるとは。……君という人は計算高いようでいて、その実は誰よりも『純粋な魂』を持っているからね」
ツリバナの小枝を机の上の小さな花瓶に挿します。
これから訪れる冬……。
かつての「日野富子」としての業も、カイン・ド・ラ・ヴァリエールという男への後悔も、すべてを道連れにして、彼女は今、魔法という名の新しい不条理を「解析」しようとしている。
「……私の勝ちだ、オーレリア。君には悲しみではなく、難問を遺すことができた。必死に解読しているだろうね」
カインは万年筆を取り、再び帳簿に向き合いました。
十月の冷たい風が、ツリバナの赤い実を揺らします。
(……私が死ぬ時、君はきっと魔法のエネルギー効率を銭に換算する方法を見つけて、高笑いしているのかな。……フフフ、私の望んだ君が自由なら、それでいいんだ)
カインは一気に、王族の資産をさらに削り取るための数式を書き込みました。
彼の手元で動くペン先はまるで、遠い空の下でオーレリアが弾く算盤の音と共鳴しているかのよう……。
彼女が自分を思って泣くのではなく、世界の不条理に腹を立てている。
その事実こそが、死に向かうカインにとっての最高の栄養剤となったのです。
松風の背に揺られながら、オーレリアは手帳にペンを走らせていました。タイトルは「異世界における物理法則の欠陥について」。
「キース、説明しなさい。先ほどからあそこで跳ねている、あの青いゼリー状の物体は何ですの?」
彼女が指差す先には、プルプルと震えながら移動するスライムの群れ。
「あぁ? スライムだ。この辺じゃ珍しくもねえ魔物だぜ」
「魔物? ……あのような骨格も筋肉も見当たらない構造体が自立歩行(?)するなど、減価償却の概念が通用しませんわ! それに見てごらんなさい。あの個体、さっきから道端の石を飲み込んで、体内で溶かしていますわよ! 廃棄物処理コストがゼロ……いえ、むしろエネルギーに変換しているのなら、あれを大量に飼育して『動くゴミ処理場』として都市部に配置すれば……」
「……大将、頼むから魔物を見て『公共事業』の話をするのはやめてくれ」
キースは頭を押さえましたが、オーレリアの探究心は止まりません。
彼女にとってこの世界の動植物は、すべて「計算式の狂った資産」に見えていたのです。
やがて、街道の先が開け、一行は広大な峡谷へと差し掛かります。
そこには重力を無視して宙に浮かぶ巨大な岩塊――「浮遊島」が、幾重にも重なる虹を纏って浮かんでいました。
さらには滝があるようで、水が流れ落ち、大地には湖ができています。
「…………っ!?」
オーレリアは息を飲みました。
そこに室町にも国にもなかった、圧倒的な「非合理の集大成」がありました。
本来あのような巨石を浮かせるには、数万人規模の人足と、天文学的な予算、そして数十年におよぶ大工事が必要なはず。
それが、ただ「そこにある」という事実……。
(……というか浮かせれますの?私もバグってますわ!)
「キース……。あれも魔法の結果ですの?」
「あぁ、大地の魔力が気まぐれに悪戯して、ああなっちまったのさ。理屈なんてねえよ。……どうだ、大将。あんたの算盤じゃ、あの岩の運賃は弾けねえだろ?」
「………………」
オーレリアは唇を噛み締めました。
美しい……。確かに、魂が震えるほどに美しい景色です。
けれどそれを認めると、自分が一生(前世を入れ)をかけて信じてきた「数字と論理」が負けてしまうような気がして、彼女は必死に反論を探しました。
「……あり得ませんわ。あのような巨大な質量を浮かせるためのエネルギー源が不明です。……そもそも、あれが落下した際の損害賠償責任はどこに帰属しますの!? 管理者(神)の不在による瑕疵担保責任が……っ!」
「大将……あんた、いい加減にしろよ。あの景色を見て、最初に『保険金』の話が出るなんて、旦那が聞いたら泣くぜ?」
「うるさいですわね! 分からないから……理屈が分からないから、私は怖いのですわよ!」
オーレリアは声を荒げ、松風のたてがみに顔を埋めました。
その時、彼女の胸の奥で、カインがかつて言っていた言葉がリフレインします。
『オーレリア。いつか君が、言葉や数字で説明できないものに出会ったら……その時は……、ただ、ありのままを受け入れてごらん。それがこの世界の、本当の姿なのだから』
「あ、……ありのまま、なんて。……カイン様、そんなの、私には難問すぎますわ……」
松風に顔を埋めて震えるオーレリアを見て、キースはふっと表情を和らげました。
彼女は、この世界の「美しさ」に気づいています。
気づいているからこそ、自分の理論で御せないことに怯え、必死に算盤で武装しているのです。
実はカインが魔法使いであることを隠し、彼女にこの景色を見せようとした理由……。
それは彼女のガチガチの知性を一度壊し、その先に広がる「魔法」という名の自由を教えるためでした。
「……おい大将、そんなに震えるなよ。……ほら、空飛ぶ魚が横を通ったぜ。あれの時速でも計算して、落ち着きなって」
「……計算!い、いたしますわ。時速、風向き、そして……あの魚の『鱗』が金貨に換金できるかどうかも、ですわ!」
涙目で叫びながら手帳を広げるオーレリアは必死に、この不条理な絶景に全力で立ち向かっています。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




