表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会計未亡人の異世界勘定~転生偉人は気まぐれに買い叩く~  作者: マシュマロ羊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/11

⑧異世界視察:不条理との遭遇

拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。

お待たせいたしました。

ひとときよろしくお願いします。

不定期になりますが、のんびりお付き合い

いただければ幸いです( * ॑꒳ ॑*)

 







 テントの中で「物理法則の不正受給(魔法)」に頭を抱え、指をパチンパチンと鳴らしては「……出ませんわ」と嘆いているオーレリア。


 その滑稽で一生懸命な物音を背中で聞きながら、キースは焚き火の傍らで一筆認めていました。

 カインから預かった「風」としての役目、その最初の中間報告です。




 夜の帳が下りた森の中、キースは松風の背を机代わりに筆を走らせていた。

 ふと視線を上げれば、街道の脇にひっそりと、力強く色付いたツリバナの枝が、秋風に揺れている。

 10月の夜気を吸って、朱色の実が五つに割れ、中から鮮やかな種が顔を出していた。


「……これでも添えてやるか。あいつ、こういう『粋』なのが好きだったろう♪」


 キースは手折ったツリバナの小枝を、手紙と一緒に丁寧に結ぶ。

 その文面は前田慶次らしい奔放さと、友への手向けに満ちている。



『死神の旦那へ。


 安心しな、大将(オーレリア)は元気だ。

 今はテントの中で、俺の魔法が「帳簿に合わねえ」っつって、必死に虚空を掴んで格闘してるぜ。

 あんたが惚れた女は、やっぱりただの銭ゲバじゃねえ。

 世界の法則が壊れてることに、本気で腹を立てられる、最高に真っ当な「怪物」だ。

 このツリバナの花言葉は「執着」だそうだ。

 ちょうどいい花言葉だろう?

 ま、どっちにしろ、あの大将なら地獄の沙汰も金次第で、新しい魔法(歴史)を書き換えちまうだろうよ。

 松風もあいつを気に入ったらしい。

 旦那……、そっちでゆっくり休んでな。

 この先は、俺の「傾奇」と、あいつの「算盤」で、この世界をめちゃくちゃにして、楽しんでくるぜ。』


 キースが口笛を吹くと、どこからともなく夜鷹が飛来し、その脚に手紙を括り付けた。

 夜鷹は一度だけオーレリアのいるテントの上を旋回し、そのままカインの元へ飛んで行きました。

 その静かな空には、まだオーレリアの奮闘する音がします。


「……おい、大将! いつまで指鳴らしてんだ。もう寝ねえと、明日の『移動コスト』に響くぜ!」


 キースが茶化すように叫ぶと、テントの中から「……うるさいですわね! 今、あともう少しで空間が歪みそうな気がしたんですの!」と、お門違いなほど力強い返事が返ってきます。


 秋の夜、朱色の実が揺れる下で……。

 カインへの最初の報告書は、静かに、そして賑やかな文が届けられたのです。









 宰相邸の執務室、深夜。

 彼は窓を開け、夜風に混じる枯れ葉の匂いを吸い込みました。

 そこへ慶次の放った夜鷹が、音もなく舞い込みます。

 カインは、キースの走り書きと、鮮やかな「ツリバナ」の小枝を手に取りました。


「……執着、か。小粋な洒落だねぇ……」


 カインはその朱色の実を愛おしそう見つめ、壊れ物を扱うように指先で触れました。

 手紙にはオーレリアがテントの中で「空間の歪み」を求めて指を鳴らし、魔法が使えないことに絶望しているという、あまりにも彼女らしい混乱が綴られています。


「ふふ……っ。くくく……」


 カインの喉から、震えるような笑いが漏れました。

 彼女が隣にいた頃、どれほど複雑な王宮の横領事件も、瞬き一つせず解決してみせたあの聡明な女性が、今は野宿のテントで虚空を掴んで格闘している。


(ああ、オーレリア……。君のその『理屈への真摯さ』が、今の私をどれほど慰めるか、君は知らないだろうね)


 彼は手紙を読み進め、松風が彼女を慰めたという一節で、ふっと表情を緩めました。


「松風にまで気に入られるとは。……君という人は計算高いようでいて、その実は誰よりも『純粋な魂』を持っているからね」


 ツリバナの小枝を机の上の小さな花瓶に挿します。

 これから訪れる冬……。

 かつての「日野富子」としての業も、カイン・ド・ラ・ヴァリエールという男への後悔も、すべてを道連れにして、彼女は今、魔法という名の新しい不条理を「解析」しようとしている。


「……私の勝ちだ、オーレリア。君には悲しみではなく、難問を遺すことができた。必死に解読しているだろうね」


 カインは万年筆を取り、再び帳簿に向き合いました。

 十月の冷たい風が、ツリバナの赤い実を揺らします。


(……私が死ぬ時、君はきっと魔法のエネルギー効率を銭に換算する方法を見つけて、高笑いしているのかな。……フフフ、私の望んだ君が自由なら、それでいいんだ)


 カインは一気に、王族の資産をさらに削り取るための数式を書き込みました。

 彼の手元で動くペン先はまるで、遠い空の下でオーレリアが弾く算盤の音と共鳴しているかのよう……。

 彼女が自分を思って泣くのではなく、世界の不条理に腹を立てている。

 その事実こそが、死に向かうカインにとっての最高の栄養剤となったのです。








 松風の背に揺られながら、オーレリアは手帳にペンを走らせていました。タイトルは「異世界における物理法則の欠陥について」。


「キース、説明しなさい。先ほどからあそこで跳ねている、あの青いゼリー状の物体は何ですの?」


 彼女が指差す先には、プルプルと震えながら移動するスライムの群れ。


「あぁ? スライムだ。この辺じゃ珍しくもねえ魔物だぜ」


「魔物? ……あのような骨格も筋肉も見当たらない構造体が自立歩行(?)するなど、減価償却の概念が通用しませんわ! それに見てごらんなさい。あの個体、さっきから道端の石を飲み込んで、体内で溶かしていますわよ! 廃棄物処理コストがゼロ……いえ、むしろエネルギーに変換しているのなら、あれを大量に飼育して『動くゴミ処理場』として都市部に配置すれば……」


「……大将、頼むから魔物を見て『公共事業』の話をするのはやめてくれ」


 キースは頭を押さえましたが、オーレリアの探究心(強欲)は止まりません。

 彼女にとってこの世界の動植物は、すべて「計算式の狂った資産」に見えていたのです。




 やがて、街道の先が開け、一行は広大な峡谷へと差し掛かります。

 そこには重力を無視して宙に浮かぶ巨大な岩塊――「浮遊島」が、幾重にも重なる虹を纏って浮かんでいました。

 さらには滝があるようで、水が流れ落ち、大地には湖ができています。


「…………っ!?」


 オーレリアは息を飲みました。


 そこに室町にも国にもなかった、圧倒的な「非合理の集大成」がありました。

 本来あのような巨石を浮かせるには、数万人規模の人足と、天文学的な予算、そして数十年におよぶ大工事が必要なはず。

 それが、ただ「そこにある」という事実……。


(……というか浮かせれますの?私もバグってますわ!)



「キース……。あれも魔法の結果ですの?」


「あぁ、大地の魔力が気まぐれに悪戯して、ああなっちまったのさ。理屈なんてねえよ。……どうだ、大将。あんたの算盤じゃ、あの岩の運賃は弾けねえだろ?」


「………………」


 オーレリアは唇を噛み締めました。

 美しい……。確かに、魂が震えるほどに美しい景色です。

 けれどそれを認めると、自分が一生(前世を入れ)をかけて信じてきた「数字と論理」が負けてしまうような気がして、彼女は必死に反論を探しました。


「……あり得ませんわ。あのような巨大な質量を浮かせるためのエネルギー源が不明です。……そもそも、あれが落下した際の損害賠償責任はどこに帰属しますの!? 管理者(神)の不在による瑕疵担保責任が……っ!」


「大将……あんた、いい加減にしろよ。あの景色を見て、最初に『保険金』の話が出るなんて、旦那が聞いたら泣くぜ?」


「うるさいですわね! 分からないから……理屈が分からないから、私は怖いのですわよ!」


 オーレリアは声を荒げ、松風のたてがみに顔を埋めました。

 その時、彼女の胸の奥で、カインがかつて言っていた言葉がリフレインします。


『オーレリア。いつか君が、言葉や数字で説明できないものに出会ったら……その時は……、ただ、ありのままを受け入れてごらん。それがこの世界の、本当の姿なのだから』


「あ、……ありのまま、なんて。……カイン様、そんなの、私には難問すぎますわ……」


 松風に顔を埋めて震えるオーレリアを見て、キースはふっと表情を和らげました。

 彼女は、この世界の「美しさ」に気づいています。

 気づいているからこそ、自分の理論で御せないことに怯え、必死に算盤で武装しているのです。


 実はカインが魔法使いであることを隠し、彼女にこの景色を見せようとした理由……。

 それは彼女のガチガチの知性を一度壊し、その先に広がる「魔法」という名の自由を教えるためでした。


「……おい大将、そんなに震えるなよ。……ほら、空飛ぶ魚が横を通ったぜ。あれの時速でも計算して、落ち着きなって」


「……計算!い、いたしますわ。時速、風向き、そして……あの魚の『鱗』が金貨に換金できるかどうかも、ですわ!」


 涙目で叫びながら手帳を広げるオーレリアは必死に、この不条理な絶景に全力で立ち向かっています。






読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ