あわいの夢・・・
現実と異世界のどちらを真実にするか、みたいなところですかね。。。?
熱々の揚げたてのごま団子を屋台で買って、歩きながら食べたり、ココナッツの実のジュースを一緒にテイクアウトしながら、郊外のラウの店までてくてくとくだらない話をしながら歩いた。
そんなことが脳裏に浮かんでいたが、実際の今の自分は相変わらず手首を縛られたまま、どうやら廃墟の中まで連れてこられた挙句に、床に転がされている。
「君の仕事なら後の心配はいらないよ、代わりの人間は何人もいるしさ。残念だったねえ、本当に」
「部長」
「なんだね」
「僕は確かにイチ平社員ですが、・・・矜持は最低限持ってるつもりです。ここから出たら、出るとこ出て証言します」
「・・・君も、そう思うなら底辺なりに最低限覚悟しなさいよ。ここから出さないからね?ここで終わりなの、君は」
先ほどのナイフを頬に当てられて、一筋の傷から血がにじむ。
―――ここまでか―――・・・。
眼をぎゅっと瞑った瞼に、先だって知り合った人を思う。
『魔女様。僕はこれにケリをつけたら、そっちへ行きたいです』
次の瞬間、
「あら、エリオット君。私に声がかかるってことはこっちにすることに決めたのね?・・・でもね、私よりあの人先に呼んであげてよ?待ってるから。じゃあ、わかったわ、安心して。助かるからね」
そう聞こえた、ので、反射的にあの人の名を呼ぶ。
『―――ラウさん!』
廃墟の薄暗い室内に閃光が走る。
「―――遅いじゃないか、ハニー?さあ、さっさと片付けて我らの世界に帰ろう」
そう言って現れたのは、
一頭の美しい銀白色の虎であった。
その琥珀の瞳と声に覚えがある。
「私だよ、ラウ。アーロン・ラウだよ。あっちの世界の門番さ、どうだい?エリオット」
輝く白い豹のような虎は、あっという間に腰を抜かしている彼の上司とその女を咥え、振り回して壁に投げる。
「悪い奴はもう退治したよ。精神だけ下界送りにしたから、向こうに行っても会うことはない、大丈夫だ。もっとも、こっちじゃ廃人扱いで引退になるだろうがね」
そう言って彼に近づく。
白虎の毛皮が彼に触れた。
しなやかに輝く銀白色が、次の瞬間トーンを落とした銀灰色に変わる・・・と思うと、ゆらりと視線の先が揺れて、目の前に先日来の知己、ラウの姿になった。
「ん~、こちらだと元の姿のほうが楽なんですがね」
パキパキと指の関節を鳴らしながらそう言った。
「ラウさん。お迎えありがとうございます、じゃあ、帰りましょうか」
彼、エリオットはそう返して、ラウの手を取った。
「じゃあ、背に乗ってくれ、戻ろうか、我が町へ」
取った手がすぐ銀白色の被毛に覆われて、エリオットはその背に乗せられた。
「ねえ、エリオット。・・・本名なんていうんです?」
「思い出した。思い出したけどエリオットにします。僕の名前」
「いや、もったいない。エリオット・コウヘイ・シノザキにしようか?」
「なんだ、もう知ってるじゃないですか、人が悪いなあ。名字せっかくだからチャンも残します」
そう言いながら一陣の風が廃墟に吹き抜け、悪者の抜け殻だけが残った。
―――噂では、エリオットの居た会社のその部長職は交代し、前職は廃人同様で引退をしたという。
そして、その余波か、大物議員や別の財界人にも交代の噂が流れた。
今、彼の存在も、席もないその社屋の喫煙室に、ただいつかのコーヒーの紙カップだけが転がっていた。
さて両方の世界のあわいにある蜃気楼のような話ですが、まあある意味短い童話みたいなものでもあるかもしれませんね。あとエピローグかなあ。




