竹刀の剣士、異世界で無双する その50 メリサ2
50 メリサ2
わたくしはダヒトの村のメイドのメリサです。でも領都に来てからは、ダヒトチームの選手なのだから、という理由でメイドのお仕事をさせてもらえていません。そのことに不満を言うつもりはありません。ダヒトチームの一員として試合を頑張ることは、村の人たちのためになります。また、父が果たせなかった領都大会突破の夢を、娘の私が果たそうとすることは、とても心躍る気持ちでした。ですから、村長から、
「これからは、メイドの仕事はしなくてもよい。しっかり稽古に励んで、領都大会で活躍してほしい。」
と言われた時も、素直に頷いたのでした。
ですが、なぜ、私の知らないうちに新しいメイドさんが入っているのでしょうか?
あれは、領都に着いた日でした。わたくしたち選手は、翌日からの稽古に備えて、早めに休むように言われたのです。わたくしも、同部屋のリーファと一緒に早めに休むことにしました。でも、ノーラとソーラも同じ女子部屋なのに戻ってきてはいませんでした。わたくしは、選手と護衛では役割が違うのだから、と自分を納得させてベッドに入ったのでした。
そして、次の朝。ノーラとソーラはベッドに居ました。リーファとわたくしが朝食のため身支度を整えても、ノーラとソーラは起きてきません。何か、事情があるのかな?と思い、そのまま食堂に行きました。そうしたら、見たこともない女性が、ダヒトチームの皆さんの給仕をしていました。服装や、物腰から見ても、明らかに宿の店員ではありません。また、テーブルにはわたくしの知らない男性や女性、子どもの方々も朝食を取っています。この宿はダヒトの村の貸し切りだったはずです。一体どなたでしょうか?
疑問に思っていたら、村長から説明がありました。領都に着く前に襲撃をしてきたマーロー様が、家族ともども、ダヒトの村に移住することになったこと。領都に着いた後、マーロー様の紹介で、バルガス様がダヒトチームのコーチになられたこと。これからのダヒトチームのお世話をするために、サリーさんと言うメイドを雇うことにしたこと。
突然のことに、わたくしは目を丸くしました。しかし、どんなことがあっても、平然と対応するのがメイドの心得です。すぐに気持ちを立て直すと、わたくしはテーブルを見回しました。ノーラとソーラのほかにも、子ども組のゼータとバレスがいません。おそらく、昨夜何かあったのでしょう。でも、事情が説明されることはありませんでした。説明されないということは、説明できない何かがあったということです。こういう時のメイドの作法は、事情を詮索することはせず、日々の業務に集中するものです。わたくしは、リーファとともに席に着き、朝食を始めました。
サリーさんという新しいメイドさんは、わたくしより少し年上で、とても奇麗な方です。聞いたところでは、領主様の執事であるシャイトス様のメイドをしていたそうで、メイドとしての実力もわたくしよりはるかに上で、様々な気働きをされます。朝食の席でも、皆さんの食の進み具合を見て、適切に給仕をしています。同じメイドとして、思わずため息が出る仕事ぶりでした。
いえ、わたくしが選手として稽古に専念しなければならないことは分かっています。そのことに不満はありません。ですから、わたくしの代わりに新しいメイドさんが必要なことも理解しています。
しかし、サリーさんは、・・・その、・・・メイドとしても、女性としても・・・わたくしよりはるかに、魅力的で・・・・、具体的には・・・その・・・胸の辺りが・・・・。サリーさんが、ヨウスケ様のお食事のお世話をするたびに、何というか、・・・言いようのない、・・・モヤモヤとした気持ちになるのです。サリーさんがヨウスケ様のお席の後ろに立つ姿を見るたびに、・・・ヨウスケ様の黒髪と、サリーさんのこげ茶の髪が、とてもお似合いに見えて、・・・。
一体、わたくしは、どうしてしまったのでしょう?なぜ、こんなに苦しい思いをするのでしょう?
つい、先日までは、皆さんの食事のお世話をしたり、身の回りを整えたりするのは、わたくしの仕事でした。ダヒトの村から領都までの旅の間、わたくしは選手兼メイドとして働いてきました。わたくしは、その役目が無くなったことに、寂しさを感じているのでしょうか?・・・いいえ、そうではありませんね。相手の気持ちを読み取るだけでなく、自分の気持ちをつかむことが大切だとヨウスケ様に教わりました。わたくしは、・・・サリーさんが・・・ヨウスケ様の隣にいることに・・・不安を感じているのです。ヨウスケ様の隣には、・・・わたくしが居たいのです。
ああ、そうです。わたくしは、ヨウスケ様のおそばに居たいのです。ヨウスケ様のお食事のお世話をしたり、お着替えを手伝ったり、お部屋を整えたりしたいのです。この役目をほかの人に任せたくないのです。
でも今は、わたくしはダヒトチームの選手です。わたくしの仕事は、ダヒトチームのために一つでも多く勝つこと、勝てないまでも、相手に警戒させ、試合の流れを渡さないことです。そのためには、稽古するしかありません。新しくコーチになられたマーロー様やバルガス様は本当に強いお方たちでした。わたくしが、どんなに神経をとがらせて攻めても、簡単に返り討ちにされます。今度こそ!という気持ちにさせられます。それに、ヨウスケ様の稽古が、今まで以上に熱くなりました。今までも、十分に厳しい稽古だったのですが、領都に着いてからの稽古は今まで以上でした。ヨウスケ様は、わたくしの間合いの取り方や、技を出すタイミングを正確に見抜いていらっしゃいます。「ここっ」と言うタイミングで技を出そうとしても、ヨウスケ様は間合いを外したり、わたくしの竹刀を抑えたりして、思うように技を出させてくれません。そんな中、たまの機会に技を出すことができると、言いようのない高揚感を感じるのです。また、そんな時はヨウスケ様自らが手をたたいておほめくださいます。
「素晴らしい。メリサさん、いい技です。」
ヨウスケ様のおほめの言葉をもっと聞きたくて、・・・・いえ、違いますね。おほめの言葉を聞きたいのは本当ですが、それだけではありません。わたくしは、ヨウスケ様との稽古が楽しみなのです。この時間は、わたくしとヨウスケ様との二人きりの時間なのです。わたくしがヨウスケ様の意図を読み取り、技を出します。ヨウスケ様は、そんなわたくしの考えを読み取って対応されます。言葉ではなく、気持ちと技を出し合うことで、わたくしはヨウスケ様と深くつながっている感覚になれるのです。
「メリサ姉さん。この頃、ヨウスケ師匠との稽古になると、すごくうれしそうだよね。」
リーファが話しかけてきました。えっ?ヨウスケ様との稽古がうれしい?確かにそうです。ヨウスケ様との稽古はとても厳しいのですが、とても高揚感を得ることができます。でも、ほかの人に見抜かれてしまうものなのでしょうか?わたくしは、動揺してしまいました。
「領都大会に向けて、ヨウスケ様の稽古も厳しくなりましたから、真剣になっているのですよ。」
と、ごまかしました。でも、リーファは納得しません。
「確かに、師匠の稽古は厳しくなっていると思うよ。あたしなんか、ついていくのにやっとだもん。でも、メリサ姉さんは違うよね。なんていうかな、師匠に勝ちたいのじゃなくて、師匠と稽古していることが嬉しそうに見えるんだよ。」
リーファの言う通りです。わたくしはもはや、ヨウスケ様から一本取ろうなどとは考えていませんでした。ヨウスケ様と二人きりで、間合いや竹刀を通して、攻防の気持ちを通じ合うことに喜びを感じていたのです。稽古の場には、サリーさんは入ってこられません。この時間だけは、誰にも譲ることのない、ヨウスケ様とわたくしの時間なのです。こんな不純な気持ちで、稽古していてもよいのでしょうか。わたくしが動揺していると、リーファは言います。
「師匠の厳しい稽古についていけているのだから、メリサ姉さんは強くなっているよ。」
リーファには、わたくしの心の奥に隠した気持ちを見抜かれているわけではないようです。少し、ほっとしました。
「だから、安心していいよ。領都大会で活躍したら、ヨウスケ師匠もメリサ姉さんのことをちゃんと見てくれるよ。」
見抜かれていました。あわあわと、わたくしが固まっていると、
「だから、がんばって!あたしは姉さんの味方だよ。」
とリーファはウインクして、わたくしの背中をたたきました。
領都大会が終わりました。ダヒトチームは優勝しました。ベナランチームは様々な作戦で、わたくしたちを翻弄しましたが、ヨウスケ様の的確な作戦と、選手の皆様の頑張りで、勝つことができました。わたくしも、頑張りました。大きな男性に立ち向かうのは怖かったけれど、後ろでヨウスケ様が見ておられると感じ、頑張ることができました。
領都大会優勝の瞬間、ダヒトの村の皆さんが喜びを爆発させました。手を取り合って喜んでいる人、互いの健闘をたたえて肩をたたき合っている人、何人かで叫び声をあげている人、皆さん、様々な形で喜びを表していらっしゃいます。わたくしは、両手を組んで、静かに涙を流すことしかできませんでした。
領都大会優勝の後は、イーファンド地区大会に向けての準備になります。決勝戦の後表彰式があり、夕方に優勝したダヒトチームと準優勝のベナランAチーム、3位のリクスチームの選手や関係者が集合しました。そこで、これからのことが発表されました。驚いたことに、イーファンド地区大会に向けての強化稽古と同時に、今回領都大会に出場した選手たちや領都の人たちに向けての剣道教室が開催されるというのです。
「剣道教室は、基本的に、ベナランチームのランケスコーチとリクスチームのガリスコーチ、そして私とダヒトの護衛チームで対応する。ダヒトチームの選手は、これからはマーロー殿、バルガス殿、そしてヨウスケ殿の指導を優先的に受けさせる。まだ、誰が地区大会に行くかは決まっていない。しっかり稽古をして、ぜひ、イーファンド地区大会でも、納得できる試合をしてほしい。」
と、村長からの説明がありました。そして、
「ダヒトチームやベナランチーム、リクスチームの選手の世話は、サリーさんにお願いする、ベナランチームやリクスチームの世話係と協力して、お願いしたい。」
との、話もありました。
わたくしは、ダヒトチームの選手です。ヨウスケ様の指導を優先的に受けられることに不満はありません。むしろ、ヨウスケ様との2人だけの時間を取っていただけることに感謝していました。
しかし、実際に稽古が始まってみると、そんな悠長なことは言っていられないことに気づきました。ベナランチームやリクスチームの方々が、とてもどん欲にヨウスケ様との稽古を行っているのです。わたくしも、ダヒトチームの先達者という立場で、ベナランチームやリクスチームの方々と稽古をすることが増えてきました。
一方、サリーさんは選手やコーチのお世話と言うことで、手ぬぐいをヨウスケ様に渡したり飲み物を準備されたりしています。「そのお役目は、わたくしがしたいのです。」と心の中で叫びながらも、わ
たくしはベナランチームやリクスチームの方々と稽古せざるを得ませんでした。
「ねえ、メリサ姉さん、本当は、今の立場が不本意なんじゃないの?」
と、リーファに尋ねられました。私たちが休む女子部屋でのことです。
「そうだね、メリサ姉さんは、稽古に集中できていないと思うよ。ほかに気になることがあるのかな?」
ノーラとソーラも尋ねてきます。わたくしは、正直に今の気持ちを伝えることにしました。
「わたくしは、父が果たせなかった領都大会突破を果たしたことで、満足してしまっているのです。ダヒトチームやベナランチーム、リクスチームの方々は、わたくしより強くなることにどん欲な方が多いと思います。できれば、わたくしはメイドに戻って、皆さんのお世話をしたいのです。」
「それは、チームのお世話と言うよりは、ヨウスケ師匠のお世話をしたいんじゃない?」
リーファが、意地悪な質問をしてきます。わたくしは、無言で答えます。
「なるほど、メリサ姉さんは、ヨウスケ師匠についていたいのか。
なら、私なら、サリーさんと話し合って、メイドの仕事に復帰するかな。」
ノーラがそういいます。
「えっ?わたくしが選手を抜けてよいのですか?」
「うん。大丈夫だと思うよ。メリサ姉さんも確かに強いけど、ほかにも強い人は出てきたし、あたしたちも負ける気はないし。」
ソーラが、励ましてくれました。
わたくしは、これからはヨウスケ様の専属メイドに戻って、ヨウスケ様のお世話をしましょう。
その晩、サリーさんを捕まえて、わたくしの気持ちを告げました。サリーさんは一人でのメイド仕事は大変だったようで、わたくしの参加を歓迎してくれました。ついでに、元ヨウスケ様の専属だったことを持ち出し、今後もヨウスケ様のお世話はわたくしが行うことになりました。
このお話の締めとして、メリサから見たことを書いてみました。
読んでいただいたみなさんに、感謝をします。本当にありがとうございました。
来週は、エピローグになります。




