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竹刀の剣士、異世界で無双する その48 領都剣道教室

48 領都剣道教室


 次の朝から、領都剣道教室が始まった。ランケスさんの手配で、練習場の入り口に「見学自由」「希望者には剣道指南をする」と張り紙が出された。文字の読めない人に対しては、ガリスさんのところから人が出て、集まった人に呼びかけていた。

 練習場の前半分には、ダヒトチームと子ども組、ベナランAチーム、リクスチームのメンバーが集まっている。後ろ半分には領都騎士団らしい人たちが来ていた。ガリスさんが対応し、話をしている。練習場の壁には、

「領都剣道教室

 剣道は、家族や故郷のために練習すること

 強くなれるのは、一緒に練習する仲間のおかげである。」

という垂れ幕が掲げてあった。


「では、早速稽古を始めます。剣道の基本は、足さばきです。ベナランチームとリクスチームの方には、ダヒトチームの速さが不思議に思われたでしょう。その秘密が足さばきです。まず、右足を出して、左足のかかとを浮かせます。これは試合を見ていた人は分かると思います。大切なのは、重心と足を滑らせる感覚です。」

おれは、ダヒトの村で始めたころのように足さばきから丁寧に教えていった。時折ノーラやソーラと言った子ども組に見本をお願いして、足さばきを稽古させた。マーローさんやバルガスさんも、この機会に剣道の基本を稽古してもらう。

 さすが領都大会まで来たメンバーだ。午前を半ばすぎるころには、ほとんどの人が八方さばきまで身につけることができた。次は、素振りと足さばきの連携だ。重心を滑らかに移動させながら、体幹で剣を振る感覚は繰り返さないと身に着かない。前進後退、開き足に上下振りや斜め振りを合わせていく。会場の後ろでは、ガリスさんとランケスさんが俺の指導を聞いて、なるほどと納得しながら騎士団や領都民に同じ指導をしていた。


 ここで昼になり、昼食休憩となる。騎士団や領都民はいったん解散だ。選手たちは会場の隅に集まって、サリーさんたちが用意してくれた弁当を食べる。みんなでワイワイ言いながら、にぎやかに弁当を食べるのも楽しいな。と思っていたら、

「こんな歩き方や、素振りだけで、強くなれるのか?」

リクスチームの方から声が上がった。昨日、ガリスさんが警告してくれたように、剣道は何らかのズルをしているのではないかと疑う者たちがいるのだ。

「それなら、おじさん。私と立ち合ってみる?」

ノーラが弁当を置いて、リクスチームを睨んでいる。

「いや、いくら何でも、子ども相手に試合はできんだろう。」

とリクスチームが苦笑する。

「おじさん達。私を子どもだからってバカにすると、痛い目に合うよ。私は確かに子どもだけど、おじさん達より強いよ。それとも、大人が子どもの挑戦を逃げるの?」

ノーラはさらにあおった。

 俺が、おいそれくらいで、と止めようとしたところを、隣のガリスさんが俺の袖を引っ張って止めた。何やら企んでいる眼だ。

「本当に、いいのですか?」

俺は、小声で尋ねる。

「ええ、かましまへん。あいつはゲリックと言いまして、強いけど、天狗になっておます。今のうちに鼻っ柱を折っておいたほうが本人のためでっしゃろ。」

ガリスさんの忠告で、俺は成り行きを見守ることにした。

「なに、貴様。子どもだからと下手に出ていれば・・・。生意気な。」

「生意気かどうかは、立ち合ってみないと分からないでしょ。ああ、恥をかくから逃げてもいいよ。」

ノーラはさらにあおった。

「もう、許せん。子どものしつけは、大人の義務だ。さあ、望み通り立ち合ってやる。ほえ面かいても、後悔するなよ。」

ゲリックさんは、木剣を取ると立ち上がった

「その言葉そっくりそのままお返しするわ。おじさんこそ後悔しないようにね。」

ノーラも立ち上がった。

「おい。子ども。武器がないぞ。」

「私は子どもだけど、ノーラと言う名前があるの。名前で呼んでちょうだい。それと、おじさん相手に武器はいらないわ。」

 ああ、ノーラは俺がダヒトの村の初日でやった技を見せるつもりだ。あの時はシラックさんに申し訳ないことをしたと思ったが、ここでは必要なことだろう。

 ゲリックさんは木剣を右手に持ち、半身に構える。対して、ノーラは両こぶしを胸の前で握り、基本の足の構えを取る。そのまま、トントンとはね始める。まるで、元の世界のボクシングの構えのようだ。

「あんな構えがあるのですか?」

ランケスさんが聞いてくる。

「いや、私は教えていません。おそらくノーラが独自に考えたのでしょう。」

「ノーラと私は、もともと剣を使わず、拳や蹴りで戦うのが得意だったの。でも、剣道で足さばきや体当たりを覚えて、さらに強くなったわ。」

双子のソーラが解説してくれた。


 立ち合いはノーラのペースで始まった。トントンとはねながら、ゲリックさんの周りを回る。慎重に間合いを計っているので、ゲリックさんからは届かない。

「ええい、イライラする。そうやって逃げ回るつもりか。」

ゲリックさんが叫ぶ。この間合いの攻防を理解していない時点で、勝てそうにない、と思った。

「そう?それならそろそろ行くわよ。」

ノーラが大きく跳んで間合いを詰めた、そこはゲリックさんの右側。たとえ木剣を振ったとしても、脇が空いて、力のない打ちになる。昨日の俺の試合から学んだのか。すごい吸収力だ。案の定、ゲリックさんは木剣を振るが、速さの無い手打ちの木剣は、ノーラにやすやすとかわされる。その瞬間、ノーラは鋭く踏み込み、ゲリックの右肩を拳で突いた。力のある突きではなかったが、ゲリックさんの虚をつくのには十分だった。

「なっ?」

叫んで、ゲリックさんは跳び下がる。と同時に剣を振り回した。ノーラは落ち着いて間合いを詰め、左手でゲリックさんの振り下ろしに合わせて、右ひじを抑えた。そして、右手でゲリックさんの顎にこぶしを当てる。

「勝負はついたわ。おじさん。どうする?」

ノーラはニッコリとほほ笑んだ。薄茶色のショートボブカットに焦げ茶色の目で、にっこりとされると、かわいいのだが、とても怖い。

「ま、参りました。」

「はい。よい稽古をありがとうございました。」

ノーラは意気揚々と引き上げてきた。

「ノーラ、やりすぎ!」

双子の姉のソーラが注意している。

「ええーっ?だってー?」

「まあ、分るけど。よくやったわね。」

最後はソーラも祝福していた。

 試合を見ていたメンバーは、恐ろしいものを見たように呆然としている。

「なにをぼんやりしとるんや。ダヒトチームの強さは分かったやろ。これをうちのチームのものにすんのや。気張りいや。」

ガリスさんが発破をかけていた、

「皆さん、足さばきと読みがあれば、子どもでも大人に勝てるのです。基本だからと馬鹿にしたり、手を抜いたりするものは、ダヒトチームには勝てません。ましてや地区大会で勝ち上がるなんて夢物語です。皆さんには、強くなれる道が示されているのです。先生方やダヒトチームのアドバイスを聞いて、熱心に訓練してください。」

ランケスさんも激励していた。


 午後からは、全員に竹刀を持たせての打ち込み稽古に入った。竹刀の持ち方、力の入れ方を指導し、ダヒトの村のメンバーを元立ちにして、打ち込み稽古を行う。さっきのゲリックさんもとても熱心に稽古していた。


 練習場の後ろでは、ガリスさん、ランケスさんが足さばきと素振りを教え、だいたい身に着いたものから、村長やダヒトチームの指導陣を相手に打ち込み稽古を行っていた。竹刀の数が足りないので、素振りは木の棒で行ってもらい、ヨセフさんとビスナールさんには急遽竹刀の増産に取り組んでもらった。ガリスさんのアイデアで、竹刀は有料で販売や貸し出しをすることになった。商人は抜け目がない。


たくさんの方に読んでいただき、ありがとうございます。

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