竹刀の剣士、異世界で無双する 46 優勝 その後
ダヒトチームが優勝しましす。しかし、それだけでは、終わりません。
46 優勝 その後
領都大会は、優勝ダヒトチーム、準優勝ベナランAチーム、3位リクスチームとなった。3位決定戦で、リクスチームと戦うはずだったベナランBチームは、なぜか棄権していた。午後からの表彰式では、トロフィーやメダルはないが、イーファンド地区大会への出場を証明する証書が手渡された。ダヒトチームに5枚、ベナランAチームに3枚、リクスチームに2枚だ。例年では、個人戦なのでベナン領の選手10人に監督が一人、コーチが数名つくことになっていたが、今年は変則的な団体戦だったので、監督は優勝チームから一人、コーチは準優勝チームと3位チームの監督が選ばれることになった。俺は、村長にお願いしてマーローさんとバルガスさんを俺の私的コーチ扱いで帯同できるようにした。選手のみんなも、マーローさん、バルガスさんの的確なアドバイスを受けていたので、賛成してくれた。
表彰式のあと、俺は新しくコーチになったベナランAチームのランケス監督と、リクスチームのガリス監督と会うことになった。
「初めまして。ダヒトチームの監督のヨウスケと申します。よろしくお願いします。」
試合場の一室を借りて、顔合わせと打ち合わせに入る。俺は、マーローさんとバルガスさんを連れて行った。
「こちらこそ、初めまして、ベナランAチームの監督をしていましたランケスと申します。」
「リクスチーム監督のガリスでおます。よろしゅうに。」
ランケスさんは元王都騎士団の大隊長と言うことだ。50代半ばに見えるが、たしかに歴戦の勇士の風格がある。一方ガリスさんは40代に見えるが、くだけた物言いの愛敬ある人物だった。どう考えても、この中では俺が最年少だ。
「私のような若輩者が、監督なんて役者不足ではありますが、精一杯勤めさせていただきます。」
俺は率直に頭を下げた。
「その、頭を下げるのは奇妙でんなあ。うちらはそんなことしませんよってに。」
「はい。私の元の世界の風習です。どうしても抜けませんのでご容赦を。」
「ほう。ほんなら、あんさんが稀人ちゅうのは、ほんまですかいな?」
「はい。本当の様です。約200年ぶりだと聞いています。」
「さよか。こんな若いお人が、そんなに強いなんて、信じられませんのや。」
ガリスさんは一瞬で表情を変える。ニコニコと愛敬のある顔から、どう猛な肉食獣の顔に変わった。
「待たれよ、ガリス殿。ヨウスケ殿と立ち合うなら、私が先だ。」
「なんでやねん。順番なんか、早いもん勝ちやろ。」
なんかこうなる予感がしていたんだよ。俺はため息をついて、左右のマーローさんとバルガスさんを見る。二人とも「処置なし」という表情で肩をすくめた。
「分かりました。立ち合いには応じましょう。ただし、それぞれのチームのメンバー全員の前で立ち合います。」
「なんで、そんなおうぎょうなことしはるん?ここで立ち合えば済む話でっしゃろ?」
「それもそうですが。私が監督になる以上、私のやり方を通させてもらいます。
一つ、試合の相手には敬意と感謝をもって対すること
一つ、強さは自分のものではなく、仲間や故郷の人々のためであること
一つ、技を学ぶには、ただ真似すればよいのではなく、意味を理解して身につけること
以上の三つを感じてもらうためです。これから、ダヒトチームの全員を呼んできますので、お二人もご自分のチーム全員を呼んできてください。もちろん、試合の結果は勝っても負けても恨みっこなしです。これが約束できないのであれば、私は試合を受けません。その場合、皆さんのチームメンバーへの指導もしません。」
「なかなか、強引なお人でんな。いいですわ。その条件うけましょ。」
「うむ、私も受けよう。」
こうして、二人は自分のチームメンバーを呼びに行った。ダヒトチームはバルガスさんが呼びに行ってくれた。その間にマーローさんに情報を聞く。
「ランケスさんは元王都騎士団の大隊長だったのですよね。相当強いことは分かります。ガリスさんのことは知っていますか?」
「はい。ガリスさんも元領都騎士団の隊長を勤めたことがあるそうです。人をおちょくったところがあるというか、何をしてくるか分からないそうです。」
「なるほど、あの言葉使いもわざとですね。」
「えっ?言葉がおかしかったですか?」
ああ、俺には似非関西弁に聞こえたけど、この世界の人には普通の言葉使いに聞こえたんだ。
「いえ、何でもありません。では、立ち合いに向けて、気持ちを作ります。」
俺はその場に正座し、手で印を組み、呼吸を整える。
「常在戦場」
剣持先生のつぶやきが背中を走る。体幹を引き締め、手ぬぐいをまき、面をつけ、小手をはめる。手にしたのは元の世界から持ってきた愛剣だ。もう、これ一本しか残っていない。
身支度を整えて、試合場に出ると、3つのチームの選手たちが集まってきていた。ランケスさん、ガリスさんも身支度を整えている。俺はコートの入る前に一言話すことにした。
「領都大会上位の皆さん、入賞おめでとうございます。しかし、これで試合が終わったわけではありません。むしろこれからが本番です。まずは同じチーム内での競争に勝ち抜き、地区大会への切符を手にしてください。次には地区大会が待っています。これからは個人戦です。どんなに強い相手でも、自分一人で戦い抜かなければなりません。そのためには何物にも負けない強い気持ちが必要です。
これから、私はランケス監督、ガリス監督と試合を行います。審判は置きません。自分たちで試合続行不能と判断するまで戦います。この戦いを見て、強い心の在り方を学んでください。
では、両監督。お願いします。どちらから行いますか?」
ガリス監督がずいっと前に出た。先ほどは小さく見えたが、こうして革鎧に身を包み、双剣を帯刀している姿は大きく見える。
「リクスチーム監督、ガリス、参る。」
「応、ダヒトの村、ヨウスケ、お相手いたす。」
9歩の間合いに入り、俺は中段に構えた。ガリスさんは双剣を中段に突き出し、剣先を重ねている。ほう、二刀流の中段の構えを知っていたのか?と俺は感心した。しかし、足は両足を並べて立っている。ひざにゆとりがある分、動きやすそうだが、まだ十分ではない。ただ、剣の握りは上手い。さすが元領都騎士団の隊長。小指を締め、ほかの指は柔らかく卵を握るようになっている。剣の操作は相当なものだろう。しかし、体さばきに弱点があるように見えた。二刀を中段に構えているのだから、中心からの攻めには対応してくるだろう、では、左右の揺さぶりはどうか?
俺は、大きく間合いを詰め、素早く一足一刀の間合いに入る。そこで、相手が反応しようとしたところを、相手の右に跳び、正面打ちを仕掛ける。ガリスさんは右手の剣を上げて、俺の竹刀を防ごうとする、この反応はさすがだ。しかし、右手に気持ちが集中しているため、ほかがお留守になっている。俺は形だけの面打ちを放ち、ガリスさんの右剣に止めさせる。「一撃を防いだ。」と思ったところがスキになる。俺はすぐさま相手の左に跳び、お留守になっていた左面を狙う。これにもガリスさんは何とかついて来て、左剣で防いだ。しかし、面・面と攻められたため、注意が上に向いている。ここがチャンスだ。俺は素早くすくんで、ガリスさんの右胴を打った。革鎧の上からの打ちなので、それほど衝撃はないはずだ。しかし、ガリスさんは意識の外から来た打ちにかなり動揺してしまった。大きく後ろに跳んで構え直す。ガリスさんは、双剣を中段に構えながらも、ひじが開き始めた。左右からの攻撃に対応しようとしている。ここは、正面から勝負だ。俺は、軽く踏み込み、双剣の重なっているところに打ち下ろす。そのままもう一段踏み込み、のど元に突きを放った。
ガリスさんは、革鎧で首周りを守っていたが、それでも、突きの衝撃は防げなかったようで、ゴホゴホとむせながら片手をあげた。「参った。」の合図だ。
次は、ランケスさんとの立ち合い。ランケスさんは金属の胸当て、ひじ当てひざ当てをつけ、長剣を持っている。9歩の間合いに入り、俺は中段に構えて様子をうかがう。ランケスさんは右半身に構え、右手で剣を上段に取る。重心はやや前に寄っている。この構えは見たことがある。ダヒトの村に着いたとき戦ったグリッツさんの構えに似ている。あの時はグリッツさんは蹴りと剣の打ち下ろしを狙っていたが、ランケスさんはどうだろうか?俺は思い切って素早く間合いを詰めた。一足一刀の間合いからすり足で大きく詰める。かなりの近間になった。しかし、ランケスさんは動かない。いや、ひざをわずかに動かしてタイミングを計っているようだ。これは次に俺が動いたときが勝負だな。俺は間合いを取り直すように下がる。しかし、まっすぐ後ろではなく、あえて相手の右手の剣が届くように左斜めに下がってみた。案の定、ランケスさんは右ひじをピクリと動かしたが、止まる。そうだろう。この角度で剣を振っても、脇が開いて十分な力が入らないはずだ。しかし、動こうとして止まった瞬間がスキになる。俺は素早く大きく踏み込み、ランケスさんの右手首を打った。
「小手ー!」
と気合声を出し、打ち込んだ勢いのまま竹刀を立てて、体当たりだ。2、3歩よろけたランケスさんは木剣をおろし、
「参りました。」
と、言った。
「よい稽古をありがとうございました。」
俺は9歩の間合いで礼をし、後ずさってコートを出る。そして待機場に行き、正座して、小手、面、手ぬぐいを外す。
「さて、皆さん。イーファンド地区大会は一か月半後に行われます。移動の時間を考えると、稽古の時間が約一か月。あまり時間はありません。地区大会に向けての選手を選びたいのですが、どうしたらいいでしょうか?」
俺は、ランケスさんとガリスさんのほうを見る。
「今すぐ決めなくても、良いのではないか?これから訓練していく中で、伸びてくる者もいるだろう。」
「せやせや。わても、今すぐ決めんでもいいと思います。」
俺は、マーローさん、バルガスさん、村長を見る。3人とも頷いてくれた。
「分かりました。では、これから一か月稽古をして、その結果で選手を決めましょう。
選手の宿泊所や、練習場はどうなっていますか?」
「練習場は、この試合場を使ってよいことになっている。宿泊もこの試合場の隣に寮があるので、そこで泊まることになっている。」
と、ランケスさん。
「ありがとうございます。では、ダヒトの村チームは町の宿屋を引き上げて、ここに移ることにしましょう。ベナランチームと、リクスチームはどうしますか?」
「ベナランチームは、もともとここの寮を使っていたから、移動の必要はない。皆さんが移ってくるまでに、部屋を片付けておくことにしよう。」
と、ランケスさん。
「うちらリクスは、下町に宿を取っています。移動に少し時間がかかるでっしゃろう。今日の夕方にはみんな揃うと思います。」
「分かりました。ではいったん解散して、今日の夕方にもう一度集まることにしましょう。」
「その前に、ヨウスケ殿。あなたにはここに残ってもらいたい。」
ランケスさんが、突然言い出した。
「ええっ?でも、宿の引き上げが・・。」
「それは、チームの誰かに任せて、ここに残ってもらえないだろうか。大事な話があるのだ。」
「ほんなら、うちも残らさせてもらいまひょ。宿の引き上げは村の連中に任せますよってに。」
ガリスさんも残るという。一体何の話だろう。俺は首をかしげながらも、了承した。
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このお話は、あと数話で結末の予定です。
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