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竹刀の剣士、異世界で無双する  45 領都大会決勝戦

いよいよ、クライマックスです。ダヒトチームの技をお楽しみください。

45 領都大会決勝戦


 出端小手を中心に3セットばかり練習したところで、サリーさんが呼びに来た。

「ヨウスケ様、皆さま、試合場にお越しください。」

その声で、俺たちは練習をやめ、面、小手、手ぬぐいを外し、試合場に移動した。


 布陣は、先鋒リーファ、次鋒メリサ、中堅コサロ、副将シラック、大将グリッツと、最初の布陣に戻した。ケガをしたコサロ村長には申し訳ないが、ここは万全を期したい。相手の中堅はマーローさんも知らない選手なのだ。何が起こるか分からない。試合経験の豊富な村長に中堅をお願いした。

「なに、わしからヨウスケ殿に直訴するつまりじゃった。使ってもらえて、感謝する。」

村長はニッコリとして列に並んだ。

 

 赤の待機場所に行き、面、小手、手ぬぐいを置いて、正座をする。

 そこで、俺たちに衝撃が走った。

 相手が、全身金属鎧をつけていないのだ。正確には、中堅と大将は全身金属鎧だが、ほかの選手は皮鎧や、金属の胸当てなどに変わっている。武器も、全員が大木剣ではなく、小木剣、棍棒などに変わっている。決勝戦に向けて、選手の得意な装備を出してきたのだ。

「なるほど、これがランケス監督の采配ですか。さすがです。」

俺はうなり、即座にチームに指示を出す。

「武器は、竹刀に変えてもよいです。ただし、手元を狙う作戦に変更はありません。」

 会場準備の間、選手たちはそれぞれに武器を持ち替えた。村長コサロとシラックさん、グリッツさんはそのまま木の棒を使うことにしたようだ。それぞれの武器を持って、素振りを始める。

 俺は、相手のランケス監督の表情を見る。無表情だが、この試合への意気込みを感じた。政治的な取引とか、上司への忖度とかはなくて、選手の良いところを出し切り、勝ちに行く!という強い気持ちが見えた。ベナランAチームの選手も、自分の得意な装備を持つことで、気持ちが高ぶっているようだ。


 先鋒戦。リーファ対革鎧の短剣使いだ。ヨナスさんから、名前はラゼンタと聞いた。

「始め!」

の合図で、ラゼンタさんが間合いを詰める。構えは右半身を前にして、木短剣を上段に振りかぶっている。こちらが、竹刀に武器を変えたことと、体格が小さい相手と言うことで、積極的に攻めてくるようだ。リーファは中段に構えているが、技の仕掛け合いならリーファは負けない。

 間合いが詰まり、ラゼンタさんが短木剣を振り下ろそうとしたところを、リーファは中段から払いのけるように相手の手をはじいた。強い打ちではないが、ラゼンタさんは出端をくじかれたようで、右手を振り上げ、上段に戻しながら下がる。しかし、足さばきは稚拙で、素早く下がることができていない。そこにリーファは、追い打つように間合いを詰め、相手の首元を突いた。全身金属鎧を着ていたらまったく衝撃はなっただろうが、今は革鎧だ。多少首周りに防御はあるが、突きは防げない。ラゼンタさんはたたらを踏みながら2、3歩下がって体勢を立て直そうとする。そのスキに、今度はリーファの渾身の胸突きが放たれた。十分な踏み込みと、しっかりした手の内の突きは、軽い竹刀であっても十分な衝撃がある。ラゼンタさんは小さく吹き飛んだ。

「突きあり。」

赤の旗が上がり、リーファの勝利が宣告される。


 次は次鋒戦。メリサさんの相手は、槍使いだ。ヨナスさんによると、名前はカンツェと言うらしい。取り回しやすい短槍を使っている。「おおー。短槍使いが綾〇は〇かさんに似た、メリサさんだったら・・。」俺は、よからぬ妄想を抑え込むみ、試合に集中する。

 カンツェさんも胸当てだけの軽装備なため、先ほどよりも動きがよい。積極的に間合いを詰めては、牽制の突きを放ってくる。しかし、メリサさんは間合いの攻防は得意技だ。相手の突きをよけたり、いなしたりして、的を絞らせない。中段を基本に、足さばきを多く使って相手との距離を調節している。しびれを切らした相手が大きく前進し、強い突きをメリサさんの胴に突き込もうとする。メリサさんは、開き足でよけながら、相手の伸び切った右手を打った。竹刀での打ちなので、強くはないが、相手の動揺は大きかった。その後、しゃにむに胴や垂れ、ひざなど、下半身を中心に突きを打ち込んでくる。メリサさんは、足さばきでよけたり、竹刀で受け流したりして、相手の動きを冷静に見ている。一見すると、攻め込んでいるカンツェさんのほうが有利に見えるが、気持ちの面ではメリサさんのほうに余裕がある。

 ちょこまか動いて槍をさばくメリサさんに、ついにカンツェさんが我慢できなくなった。大きく進み出たかと思うと、槍を右上に振りかぶり、メリサさんの袈裟を打とうとしたのだ。

 メリサさんは、少し下がって、距離を測り、槍の右手に竹刀を合わせた。そう、それは「合わせた」という表現がぴったりくる技だった。竹刀を出しただけのところに、槍の右手が吸い込まれるようにして当たったのだ。右手指を潰されたカンツェさんは、槍を持つことができなくなった。

「小手あり。」

相手を翻弄して、淡々とメリサさんは勝った。


 次は、中堅戦。村長の相手は、全身金属鎧に大剣を右手に持った相手だ。ヨナスさんの情報ではグラントと言うらしい。

「村長、相手は力も相当なものですよ。油断しないでください。」

俺が注意すると、

「まあ、見ていろ。初戦のような恥はかかんわい。」

村長は自信たっぷりに出ていった。

 互いに9歩の間合いに立ち、武器を構える。グラントさんは大剣を右手だけで持ち、中段半身に構える。対して村長は、木の棒を中段に構えた。得意の上段ではなく、攻防一体となった中段の構えを選択したようだ。互いに間合いを詰め、一足一刀の間合いに入った。村長は中段に構えたまま、動かない。いや、細かく足を出したり引いたりして、呼吸を計っている。グラントさんがじれたように前に出て、大剣を振りかぶる。ブンっと空気を切り裂いて、グラントさんの大剣が袈裟に斬り降ろされる。しかし、村長はその動きを読んでいて、左開き足でよけた。袈裟切りをすかされたグラントさんは、すかさず体の向きを変え、切り上げる。これも村長は読んでいて、大剣の鍔元に木の棒をたたきつけて止めた。グラントさんが後ろに跳んで構え直そうとする。しかし、全身金属鎧は重く、素早く動けない。村長はすかさず間合いを詰めて、グラントさんの右肩を突いた。強くはないが、グラントさんの体勢を崩すことに成功した。よろけながら、体勢を立て直そうとしたところに、村長は強烈な体当たりをかました。これで、グラントさんは完全に重心を失った。倒れることを防ごうと足を踏ん張るグラントさん。そこへ、村長は足絡めを仕掛けた。ドシャっという音とともに、グラントさんが肩から落ちた。これで3勝目。

意気揚々と引き上げる村長に俺は声をかけた。

「お見事。足は大丈夫ですか?」

「うむ、多少痛むが、大事ないじゃろう。それよりも、シラックとグリッツ。ここで油断してケガをするでないぞ。」

村長は次の試合のほうが大事だという。その通りだ。俺たちは王都大会に行くのだ。ここでケガをするわけにはいかない。シラックさんもグリッツさんも十分にわかっているのだろう。力強く頷いてくれた。


 さて、その副将のシラックさんの相手は、棍棒使いの大男だ。鉄の胸当てをつけ、革のひざ当てとひじ当てをつけている。名前はジョードと言うらしい。ヨナスさん情報だ。

 9歩の間合いに立つ。シラックさんは基本通りの中段の構え。ジョードさんは棍棒を両手で持ち、右肩の上に構えている。棍棒は木の棒より短いが、当たりは強い。一撃を受ければシラックさんは吹き飛ぶだろう。そんなぎりぎりの緊張感の中、シラックさんはじりじりと間合いを詰める。ジョードさんは動かない。完全に待ちの姿勢だ。堅い木の棒で打たれても、一撃なら耐えられる。一撃をあえて受けて、そのスキに棍棒を打ち込む。そんな狙いが見えてきた。シラックさんも、それは分かっているのだろう。半歩素早く詰めた後、一瞬体を止めた。その一瞬でジョードさんは打つか待つか迷った。その迷いのスキをついて、シラックさんは大きく踏み込み、ジョードさんの手元を打った。物打ちではなく、木の棒の先っぽで打ったのだが、うまく相手の右手を打つことができた。ジョードさんは棍棒から右手を外して、後ろに跳び下がる。同時に、左手だけで持った棍棒を頭上に構えた。しかし、シラックさんの足のほうが速かった。ジョードさんが跳び下がるのに合わせて二段目の踏み込みをし、棒を頭の上で回して、ジョードさんの左手を打つ。今度は手に当たらなかったが、棍棒の手元に衝撃を与えることはできた。ジョードさんが棍棒を持ち直す瞬間に、シラックさんの体当たりが炸裂した。ジョードさんは完全に意識の外から体当たりを食らったようで、2mほど吹き飛び、棍棒を手放した。棍棒がベナランAチームの待機場所に落ちると同時に、赤旗が上がった。これで4勝目。

「見事に相手の武器を封じましたね。」

俺は、シラックさんを拍手で迎える。

「いや、ぎりぎりでした。ヨウスケ殿がターミル殿と戦った時の作戦が役に立ちました。」

そういえば、相手の間合いのぎりぎり外で一瞬止まる技は、ターミルさんとの戦いのときに使っていた。

「あの技は、簡単ではありません。よく身につけましたね。」

俺は、もう一度シラックさんを祝福する。

「さあ、いよいよ大将戦だ。決めてくるぞ!」

グリッツさんが、気合を入れた。選手だけでなく、マネージャー陣も大きな拍手で送りだす。


 グリッツさんの相手は、全身金属鎧を装備し、大剣を持った大男だ。名前はクリスと言うらしい。

 クリスさんは、大剣を両手で中段に持ち、足を踏ん張って構えている。体当たりに負けない構えだ。一方、グリッツさんは木の棒を下段に構え、上半身をさらしている。相手の打ち気を誘う構えだ。グリッツさんから間合いを詰める。大きく1歩、2歩、3歩と無造作に詰めている。しかも上半身をやや前傾させ、面打ちを誘っているようだ。一足一刀の間合いに入ってからも、グリッツさんは無造作に1歩を詰めた。完全に相手の間合いに入った。クリスさんは今までのダヒトチームの間合いの攻防をしっかり見ていたのだろう。一足一刀の間合いから、静かな、しかし激しい間合いの攻防に入ると予測していたのだろう。グリッツさんが無造作に自分の間合いに入り込んだことに、逆に動揺してしまった。中段に構えているので、そのまま突きを放てばよかったのかもしれない。しかし、動揺したクリスさんは、間合いに入り込んだグリッツさんを相手に固まってしまった。剣道で言う居付きという現象だ。このスキをグリッツさんが逃すはずがない。木の棒を下段から振り上げると同時に、クリスさんの大剣を摺り上げる。それだけでクリスさんは体勢を崩してしまう。そして、一瞬のための動作をはさんで、グリッツさんの強烈な突きがクリスさんののど元に突き刺さった。この突きで、クリスさんは吹き飛んでしまった。まさに一撃。一突きで、グリッツさんはクリスさんの戦意を奪ってしまったのだ。

 ダヒトチームの仲間は立ち上がって大きな拍手を送る。試合場の大きなどよめきの中、グリッツさんは淡々と戻ってきた。

「お見事です。あの一歩の詰めが大きかったですね。」

俺は拍手しながら、グリッツさんを迎える。

「相手が緊張して、硬くなっているようでしたから、あえて大胆に攻めてみました。」

「なるほど。よい判断です。」

俺はグリッツさんと握手し、みんなも大きな拍手で迎える。シラックさんはバンバンとグリッツさんの背中をたたいている。ティングとリーファも手を取り合って喜んでいる。メリサさんは手を胸の前に組んで涙ぐんでいた。

 選手陣、コーチ陣、マネジャー陣が一体となって喜びに浸っていた。俺も、まずは第一目標が突破できたことに安堵と、勝ちぬけた選手に対する誇りに目を潤ませ、拍手を続けた。

 そんな中、ベナランAチームのランケス監督がじっとこちらを見つめていることに、誰も気づかなかった。

このお話も、あと少しで、一区切りになります。応援をお願いします。

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