竹刀の剣士、異世界で無双する 41 領都大会決勝トーナメント
41 領都大会 決勝トーナメント
一夜明けて、今日は領都大会の決勝トーナメントである。予選リーグ3位までの6チームがトーナメントで戦う。ダヒトの村は予選リーグ1位なので、決勝トーナメントはシードされている。対戦表は下の通りだ。
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ダヒト ベナランB カーフェ リクス キーラ ベナランA
ベナランBチームは予選リーグの最終戦で当たったチームだ。あの堅い防御を誇るチームともう一度対戦することになる。また、もう一つの山のシードはベナランAチーム。Bチームと同じく全身金属鎧に固めた堅い守りのチームだ。実力的にも装備の面から見ても、ほかのチームでは勝てないだろう。昨日の関節打ちや体術作戦は当然対策を取られているだろう。新しい作戦が必要だ。
第1試合は、ベナランBチーム対カーフェチーム。ベナランBは昨日と同じ全身金属鎧を身につけている。
「おや?」
「ヨウスケ殿も気づかれましたか?」
となりのマーローさんが声をかけてくる。
「なるほど、そう来たか。」
「はい、ダヒトに対する対策ですな。」
俺たちが二人で頷き合っていると、バルガスさんが聞いてきた。
「二人でわかり合ってないで、教えてくれ。昨日と何が違うんだ。」
「ベナランBの構えをよく見てください。昨日より足幅が開き、若干腰の位置が低いでしょう。」
俺は、バルガスさんに解説をする。
「あれは、うちの体術対策です。足を開いて重心を落とし、体当たりでも負けないようにしています。」
試合が始まった。カーフェチームは、昨日の俺たちの先鋒をまねたのか、体当たりや足絡めを使って攻めている。しかし、重心を落とし体を安定させたベナランBはほとんど動じない。相手の動きに合わせて背後を取られないように動きながら、カーフェの選手の息が上がるのを待つ。そして、カーフェの選手が仕切り直そうと間合いを取ったとたん、大きく踏み込んで一撃を見舞っていた。
「分かりましたか?」
マーローさんは、バルガスさんに聞く。
「ああ、あの対策を取られたら、うちでは勝てないかもしれん。」
バルガスさんは少し焦っている。
「観戦はもういいでしょう。選手たちに作戦を伝えて、稽古しましょう。」
俺は、みんなを呼び集めて、隣の練習場に移動した。
「皆さん、先ほどのベナランBチームとカーフェとの対戦を見て、ベナランチームの作戦は分かったと思います。」
俺の声に、みんなは頷く。
「このまま対戦しても、うちは勝てないでしょう。」
選手のみんなは、真剣な顔で頷く。
「そこで、対策を考えました。ヨナスさん、お願いします。」
俺が声をかけると、ヨナスさん、カーリンさんメセルナさんのマネージャーチームが7本の棒を運んできた。鍬の柄に使われている棒で、長さは選手の竹刀の長さに合わせてあり、柄の部分に革をまいてすべり止めがしてある。ヨナスさんたちは選手の身長に合わせた棒を配っていった。
「これは、先日のシャイトス邸襲撃の時に、私が使った武器を参考にして作ってもらったものです。竹刀よりは重いですが、頑丈なことと、打ち込んだ時の衝撃の大きさを考えて作ってもらいました。今日の試合はこの棒を使ってもらいます。重さやバランスに慣れてもらうために、これから切り返しを行います。ただし、布の面ではこの棒の衝撃を吸収することはできないので、相手の打ち込みは全て棒で受け止めてください。手の内をしっかりと締めて、背中の筋肉で振るように心がけてください。では、始め!」
俺の号令で、2人組になって切り返しが始まった。9本の切り返しを10セット行う。慣れない棒の重さで、初めのうちは鈍い振りしかできていない。
「棒が重いのですから、スピードは出ません。スピードより、正しい軌道で振ることを心がけてください。」
「リーファ、左手が緩んでいます。小指でしっかりと締めてください。」
「ランス、力任せになっています。棒の重さを利用してください。」
10セットが終わり、みんな息を切らしている。
「村長、足の具合はどうですか?」
ひざに手を当てて、呼吸を整えていた村長がこちらを見て答えた。
「うむ、普通に動く分には、たいして痛くはない。素早い動きはできんかもしれんが。」
「そうですか。本当は村長にはゆっくりと治療に専念してほしかったのですが、そうも言っておられない状況になりました。場合によっては、決勝で活躍していただくかもしれません。」
「了解した。村のためじゃ。わしももうひと踏ん張りしよう。」
「ありがとうございます。
みなさん、だんだんと動きがよくなってきましたよ。体幹をしっかりさせて振る感覚がつかめてきたようです。もう一度切り返しをしましょう。始め!」
この後、休憩をはさんで、10セットの切り返しを3回行った。
「では、次は上段の稽古です。村長は左前上段が得意ですからそれでよいですが、ほかの皆さんは右前上段に構えてください。そう、中段の構えから振りかぶったところが上段の棒の位置になります。そこから、右足を踏み込んで、1呼吸で相手の左面を打っていきます。受ける人は棒で受け止めてください。打ち終わったら、相手の左側を抜けて間合いを取り、再び上段に構えて残心を取ります。では、上段からの左面打ち、3本、始め!」
「やー!」
「そりゃー!」
思い思いの掛け声をかけて、上段からの面打ちを行う。
「打ち込みの早さよりも、間合いに気を付けてください。打った後は全速力で抜けます。」
交代しながら上段からの打ち込みを行った。
「先生、打ち込みの力が、切り返しより強くなったような気がします。」
ティングはよい感覚をしている。
「そうでしょう。上段打ちの良さはそこにあります。」
一通り切り返しと打ち込みが終わったところで、みんなを集める。
「皆さん、お疲れさまでした。面を取って休憩し、水分補給をしてください。」
そこで、マネージャーチームとサリーさんがみんなに飲み物を配っていった。
一通り飲み物がいきわたり、みんなが一息ついたところで、おれも正座し、話し始める。
「ああ、皆さんは足を崩していてもよいですよ。
さて、ベナランチームへの対策は今のがほとんどです。」
「ええっ?これだけで勝てるの?」
主に子どもチームから驚きの声が上がる。
「そうですね、単純なので驚きましたね。でも、戦術は単純なほうが良いのです。では、具体的に話しましょう。
まず、ベナランチームは守りが硬いチームです。全身金属鎧では、どこを打っても大した痛みを与えることができません。さらに、昨日のうちの体術攻めで、体術にも対応する構えを取るようになりました。このままでは、うちは勝てないと思いました。そこで、昨日のうちにヨナスさんたちに頼んで、鍬の棒を集めてもらったのです。棒の長さを身長に合わせたり、革をまいたりするのは職人のヨセフさんとビスナールさんにお願いしました。間に合ってくれて、本当に助かりました。ありがとうございました。」
選手一同も、ヨナスさんたちや職人組のほうを向いてお礼を言う。
「ありがとうございました。」
こういう礼がきちんとできるところが、成長のあかしだなあ、と感心しながら話を続ける。
「さて、この棒。持ってみてどうでした?違和感があったでしょう。」
「はい、重いので、最初の打ちはうまく振れませんでした。力任せに振るとすぐに息が切れます。」
とメリサさんの話。
「そうですね。でも、みんなの竹刀に合わせて、若干削ったりして、バランスは整えたのですよ。これも職人組のお手柄です。」
「そうなのですか。ありがとうございます。」
今度は主に子ども組のお礼だ。
「さて、今日の試合で、相手の長所は分かったと思います。堅い守り。どっしりした構え、ですね。では短所を見つけた人はいますか?」
みんなじっと考えている。あまりよくわからないようだ。
「短所はの一つは鎧、兜そのものです。堅い金属の鎧兜ですが、身につける人の体に合っていません。おそらく選手一人ひとりの体格に合わせたのではなく、かき集めてきた鎧兜を無理やり装備しているのでしょう。ここは、鎧兜に詳しいバルガスさんに説明してもらいましょう。」
バルガスさんが俺の隣に座った。
「俺も、金属鎧や兜を身につけることがある。でも、たいていが俺の体に合わせて作るからすごく高価なんだ。そして、鎧や兜の内側には衝撃を吸収する革が張り付けてあり、体から少しだけ浮かした状態で身につけるものなんだ。今日のベナランBチームは体に合っている鎧兜はなかった。つまり、みんながその棒で打ち込めば、衝撃は直に体に伝わるはずだ。」
「ありがとうございます。
そこで、相手にじかに衝撃を与えるにはどこが効果的でしょうか?そう、頭です。でも、頭頂部を避けて、右面や左面を狙います。これで相手の耳を痛めることができます。」
「また、相手は全身金属鎧なので、かなり重いものを身につけています。うちの足のスピードについてこられるものはいないでしょう。」
マーローさんは補足した。
「つまり、うちの戦法は、上段からの左右面打ちによる、一撃離脱方式です。細かい間合いの取り合いや、相手との駆け引きは皆さんのほうが上なので、任せます。「行ける」と思ったら、躊躇なく一撃離脱を繰り返してください。」
みんなも戦う方針が示されて、迷いがなくなったのか、気合の入った表情で、
「はい!」
と答えた。
「布陣を発表します。先鋒はリーファ。小柄なので、相手はなめてかかって来るでしょう、返り討ちにしてください。次鋒はランス。自慢のパワーで、相手の面を潰してもいいですよ。中堅メリサさん、上段では間合いの駆け引きが有効になります。相手が来ないだろうと思っているところから、跳びこんでみてください。副将シラックさん。昨日の雪辱を果たそうと体当たりに警戒しているはずです。そこを逆手に取りましょう。大将はグリッツさん。密着を嫌がるはずです。上段からの技にはちょうど良いでしょう。
では、行きましょう。」
試合場に入ると、2試合目のリクスチームとキーラチームが戦っていた。対戦表を見ると副将戦の様だ。俺たちは、赤側の席について、面・小手を並べ、手ぬぐいをかぶせる。左側に竹刀代わりの棒を置いて、正座する。試合場の向こう側では、ベナランBチームが並んで待っていた。全員兜は外している。選手の頭と兜を見比べると、なるほど、大きさがあっていない。バルガスさんの指摘の通りだ。みんなもそれを確認し、口の端を持ち上げる。
さて、決勝トーナメント3戦目。ダヒトチーム対べナランBチームの戦いだ。
先鋒のリーファが進み出て、9歩の間合いで礼をする。10歳の女の子を相手にベナランチームは少し動揺する。こんな小さな子が選手だなんて知らなかっただろう。でも、この子は強いぞ。俺は心の中で応援しながら精一杯拍手する。
相手も位置に着き、試合開始の号令がかかる。
リーファは、すすっと前に出て、右半身に構える相手の右小手を打つ。竹刀で打つときは「パン!」と乾いた音がするが、今日は木の棒なので「ガン!」と重い音がする。それなりに衝撃もあるはずだ。しかし、さすが全身鎧。木の棒で軽くたたかれたくらいではそれほど大きな衝撃はなさそうだ。リーファはいったん間合いを切ろうと下がる。そこをスキととらえたのか、相手が追ってきた。相手が一撃を打とうと木剣を持ち上げかけた瞬間。再びリーファの右小手打ちが決まった。衝撃は少ないものの、相手にとっては攻撃の出ばなをくじかれた形になる。これで、相手は冷静でいられなくなった。リーファの間合いに合わせて、木剣を大きく振りかぶる。狙いはリーファの左袈裟だ。リーファは冷静だった。相手のふりかぶりに合わせて、上段の構えを取り、振り下ろす。棒の重さを利用し、最も力の乗ったリーファの棒は、相手の木剣の柄元をとらえた。そのまま、相手の木剣を弾き飛ばす。その勢いのまま、リーファは全身で、相手のみぞおちに突きを打ち込んだ。武器を飛ばされ、虚を突かれたのか、相手は突きをまともに食らい、吹き飛んだ。10歳の女の子が大の男を吹き飛ばしたのだ。審判は一瞬あっけにとられていたが、すぐに赤の旗を掲げた。
「突きあり。勝負あり」
周りからどっと声がする。驚きの声だ。そりゃそうだろう。領都大会で一番小さい体格と言っていい10歳の少女が青年の男、それも全身鎧をつけた男を吹き飛ばしたのだ。俺は、この世界に新聞やテレビがなくてよかったと心から思った。
「へへ、勝っちゃいました。」
ニコニコ戻って来るリーファは10歳の女の子そのものでかわいいのだけど、やったことはえげつない。
「見事だ。作戦とはちょっと違ったようだが?」
と聞くと、
「私の身長じゃ、大人の男の人の面には届きません。なので、武器と突きを狙いました。」
「なるほど、自分なりに工夫したんだな。見事だった。」
俺は、拍手しながら、リーファを迎え入れる。みんなもリーファと握手している。
さて、次鋒戦。ランスはどう戦うか。
「始め!」
の合図で、ランスは右前上段に構えた。体格的にはほとんど変わりない。しかし、ランスが上段に構えたことで、相手は威圧されているのだろう。体術に合わせたどっしりとした構えが、少し小さく見える。
じりじりとランスが間合いを詰める。相手は動かず、こちらの様子を探っているようだ。あと10センチで一足一刀の間合いに入るというところで、ランスは足を止めた。相手は、初撃は恐れていないようで、構えを崩さずじっと待っている。突然、ランスは小さく踏み込んだ、ダン!と床が鳴る。その音に相手は緊張したようにびくりと反応した。そこにすかさず、ランスの左面が炸裂する。「ガキン!」と大きな音を立てて、ランスは相手の左側を抜け、振り返って上段に取る。相手は打たれた衝撃が強かったのか、少しふらついているようだ。ランスの位置を追うこともできていない。すかさず、2撃目。今度は後ろから相手の右面に打ち込んだ。再び「ゴキン!」と音がする。ランスは相手の右側を抜けて正面に立ち、上段を取って残心を取る。
「そりゃー!」
ランスが渾身の気合を発した時、相手は膝をついた。
「面あり。赤の勝ち!」
あまりにあっけない勝ち方だった。
「兜の防御力を過信しましたね。思ったよりも衝撃が大きかったのでしょう。」
バルガスさんが解説する。
相手はチームの仲間に兜を外されていたが、白目をむいていた。ランスのパワー、おそるべし。
「見事なパワーだ。よくやったランス。」
「ありがとうございます。鎧兜はすごいけど、中の人は大したことがなかったようです。」
ランスの感想にマーローさんは苦笑いしながら答えた。
「あの選手は、ターミルさんのところの弟子です。結構強かったはずでしたよ。」
「ターミルさんって、あの・・・。」
メリサさんが聞くと、
「そうそう、ヨウスケ先生に道場破りで負けた人。」
と、ティングが答えた。
「ランスは、本当に強くなったなあ。」
と、シラックさん。
「いや、僕はまだまだです。」
「そうだな。これからもがんばれ!」
とグリッツさんに背中をたたかれていた。
うん、いいチームになってきた。
次は、メリサさんの中堅戦だ。メリサさんが面小手をつけ、木の棒を持って試合場に入る。相手は全身金属鎧に木槍を持っている。
「始め!」
の合図で、メリサさんは右前上段に構える。相手は右手前、左手後ろに槍を中段に構え、じりじりと間合いを詰めてくる。槍の間合いはつかみにくいが、メリサさんなら十分に稽古している。メリサさんからもじりじりと間合いを詰めていく。相手の間合いに入ったかと思った瞬間、メリサさんは1歩下がり、間合いを外す。そして、2,3歩右側に回り込み、再び間合いを詰める。そんな攻防が繰り返され、メリサさんが試合場を半周回ったところで、相手はしびれを切らしたようだ。メリサさんが下がると同時に大きく一歩詰め、槍をしごいてきた。当然メリサさんはこの動きを待っていた。1歩右にずれて、槍の狙いを外したかと思うと、上段から槍を打った。「ガン!」という衝撃に相手は慌てて槍を手繰りこむ。その動きに合わせてメリサさんは大きく踏み込み、相手の槍を持つ右手に棒を打ち込んだ。全身鎧と言っても、指先までは覆われていない。むき出しの手を槍事強く打ち込んだ。相手は指を打たれた痛みに、槍を取り落とす。そこですかさずもう1歩踏み込み、メリサさんは相手の右面を打つと、相手の右側を抜け、上段を取って残心を示した。
「小手あり。勝負あり。」
赤旗が上がった。
「メリサ殿の間合いの取り方は本当にうまい。それがしも学ばなければ。」
バルガスさんが感心したようにつぶやいた。
会心の笑みで戻ってきたメリサさんを仲間が拍手と握手で迎える。
「こんなに順調なら、優勝は大丈夫ではないですか?」
バルガスさんはニコニコと話す。
「いえ、ベナランチームの恐ろしいのはAチームの方です。あちらには、私の知らない選手がいます。」
マーローさんは警戒しながら声を潜める。やはりそうか、Bチームとの試合を見て、対策を考えてくる手だな。
「それに、Aチームの監督も私は知りません。」
なるほど、作戦の傾向もわからない訳だ。
「大丈夫ですよ。次の試合を見れば、だいたいわかります。」
俺は、あえて気楽そうに言った。
副将戦のシラックさん、大将戦のグリッツさんもあぶなげなく勝利して、全勝で決勝戦に向かうことになった。特に、グリッツさんは上段からの突きと言う珍しい技を出して、相手を吹き飛ばしていた。




