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竹刀の剣士、異世界で無双する 38 領都大会予選リーグ 1

38 領都大会 予選リーグ その1


 俺たちが領都に着き、シャイトス邸を襲撃してから1週間がたった。その間俺たちは、宿の庭や、近くの体育館を借りて、選手の最後の調整を行った。マーローさんとバルガスさんも、コーチとして互角稽古に参加してもらった。マーローさんは相変わらず、完璧に受けて立ち、相手が動いたところのスキをつくスタイルを貫く。バルガスさんは二刀を縦横無尽に振って、敵の攻撃を封じ込めるスタイルだ。この二人の個性あふれる闘技術に触れて、選手たちはわずか1週間で、攻撃と防御の形を洗練させていった。


 そして、いよいよ、領都大会の予選リーグが始まった。


 例年であれば、個人戦なので、各村や町の代表者がバラバラにリーグ戦を組むらしいが、今年は団体戦になる。領都の2チームを含めて、8チームを4チームずつに分けてのリーグ戦が2つ作られた。2つのリーグから3位までのチームが決勝トーナメントに進む。決勝トーナメントに進んだチームの3位までが、イーファンド地区大会にすすめる。

 ここで、おかしなことが起こっている。王都闘技大会は今年も個人戦のみで、団体戦が無いのだ。当然イーファンド地区大会も、個人戦のみとなっている。団体戦を取り入れたのはベナラン領都大会だけなのだ。なので、地区大会に進むのは、例年の規定通り領都大会から10名のみとなっていた。闘技大会のルールを、ヨナスさんたちマネージャー陣に確認してもらった。すると、団体戦と個人戦の性質を無視して、無茶苦茶なルールが定められていた。イーファンド地区大会に出場できる10人は、領都大会1位のチームから5人、2位のチームから3人、3位のチームから2人という選考だったのだ。補欠を含めた7人のチームから誰を選ぶのかは、そのチームに任されているらしい。まったく、とんでもないルールだ。しかし、ダヒトの村が王都大会で上位に入るためには、領都大会で優勝するしかない。


 まずは、予選リーグだ。4チームが戦うので、6試合になる。去年までは個人戦だったので、試合時間は無制限だったが、今年から団体戦と言うことなので、試合時間が10分という制限が付いた。時間内に勝負がつかなければ引き分けと言うことになる。勝利条件は割とあいまいで、相手が戦闘不能か、戦意喪失と言うことだそうだ。武器を手放してしまった時、体勢を大きく崩して、相手に大きなスキを与えたときも適用されるらしい。ちなみに1本勝負だそうだ。


 リーグ戦最初の相手は、ダヒトの村から少し離れたところにある、ボミデの村だ。村長の話では、今までイーファンド地区大会まで出たことはないという。マーローさんと一緒に試合前の練習を見た範囲でも、それ程の難敵には見えなかった。しかし、油断は禁物だ。試合前のミーティングで、全力を出すこと、特に足を動かして試合を進めることを確認する。メンバーは入れ替えないことを告げた。

 こちらの5人は全員おそろいの稽古着に面、胴、垂れ、小手を身につけ、竹刀を持っている。対して、ボミデの村の5人は、装備もばらばらだった。革鎧を身につけている者や、胸当てとすね当てだけの者もいる。しかし、大将だけは全身金属鎧をつけていた。武器はほとんどが片手木剣だが、大将だけは木槍を持っていた。あの大将は練習の時に見なかった。嫌な予感がして、隣のマーローさんに聞いてみる。

「マーロー殿、相手の大将の全身鎧の選手は、先ほどは見ていませんでしたよね?」

「はい。私も気になっていました。ボミデの村も、鉄は十分ではないはずです。全身鎧を作れるとは思えません。」

「となると、この試合のために雇われたかもしれないと?」

「はい。その可能性が大きいと思います。ボミデの村は領都に近いので、ベナン様やシャイトスの手が回っていたのかもしれません。」

「なるほど。全身金属鎧に竹刀では歯が立ちません。まして、相手は長柄の槍です。うちの大将のグリッツさんは不利ですね。」

「はい。グリッツ殿には、ケガをしないことを優先してもらい、試合には副将のシラックさんまでで決めてほしいものです。」

マーローさんの意見を聞いて、再度緊急ミーティングを行う。ボミデの村の大将には十分な警戒が必要なこと。試合は3勝すればよいので、副将のシラックさんまでで、勝負をつけたいことを話した。


 先鋒戦。リーファの相手は、長身の若い男だった。革鎧を身につけ、やや短い片手木剣を右手に持っている。身長とリーチでは、圧倒的に相手が有利だが、リーファは素早い。マーローさんは、リーファに相手の頭を狙わず、スピードで翻弄して、手首やひじ、足首やひざと言った関節を狙うように指示した。

「始め。」

の合図で、リーファはすぐに動き出す。素早く間合いを詰めると、相手が片手剣を振り上げようとしたところの右手首を軽くたたく。リーファの十八番、牽制の出ばな小手だ。相手は、小さい女の子に先手を取られて、ムキになったようだ。打たれた小手を強引に振り上げ、体ごとぶつけるようにリーファに振り下ろす。しかし、リーファはもうそこにはいなかった。開き足で相手の左側に移動し、左袈裟の要領で相手のひざ裏を強く打った。いわゆる「ひざカックン」になって、体勢を崩したところを、リーファは容赦なく、左脇の下に突きを打ち込んだ。体の小さいリーファでも、十分な踏み込みと、しっかりと手の内を締めての突きはかなり威力がある。相手はそのまま崩れ落ち、リーファの勝ちが決まった。


 次鋒戦。相手は、がっしりとした体に、胸当てとひざ当てをつけ、片手木剣を右手に構えている。先鋒戦のスピードを見たからか、相手はやや守りに入っているようだ。メリサさんは強引に攻めることはせず、竹刀を中段に構えたまま慎重に間合いを計る。間合いを計りながら相手の呼吸を読むのは、メリサさんの得意技だ。小刻みに動きながら間合いを計っているメリサさんに、相手がじれてきた。ぴょんと大きく跳びこんで、メリサさんの左面を斬ろうとする。メリサさんは、相手が跳ぼうとひざに力を入れた瞬間に、自分から大きく踏み込んで、のどの下、鎖骨の中心に突きを打ち込んだ。相手の跳びこみに合わせてカウンターのように突きが刺さり、そのまま相手は後ろに倒れてしまった。これで2勝。


 中堅戦。コサロ村長は、嬉しそうにニコニコしながら面をつける。

「村長、何がそんなにうれしいのですか?」

村長の緊張感の無さに、思わず聞いてしまった。

「ふむ、こうして何十年か振りに領都大会に来られたのもうれしいが、前の2人の戦いぶりも見事でな、わしも、年甲斐もなくたぎっておったようじゃ。」

うれしいんじゃなかった。いや、戦いが好物の人にはうれしい状況なのかもしれない。俺は、内心ため息をついた。でも、余計な緊張をしていないなら、大丈夫だろう。

 村長の相手は、大柄のムキマッチョだった。この世界の人は、だいたいがムキマッチョだが、それに輪をかけて筋肉がすごい。2mほどの身長で、革鎧を身につけ、鉢金をまき、大きな木剣を右手に持っている。圧倒的なリーチとパワーで、相手をねじ伏せるタイプの様だ。

 村長は静かに立ち上がると、試合場に進み、立礼をした。まるで何十年も剣道を学んでいる人のような、美しい姿勢だった。審判の合図で、村長は竹刀を中段に構えると、そのまま左足を前に出して、竹刀を頭上に振りかぶった。左前上段だ。もっとも攻撃的と言われる構えだ。俺はこの構えを、稽古の中で見せたことはあったが、本格的に指導したことはなかった。しかし、村長の構えは、俺から見てもかなり熟練している。

「グリッツさん。村長の上段の構えは、素晴らしいですね。きちんと教えていないはずですが?」

俺は、隣のグリッツさんに問いかけた。

「ああ、あの構えは上段の構えと言うのだな。心配するな。確かに普段の稽古ではあまり使っていないが、村長は若いころからあの構えを使っていたんだ。お主の指導で、足さばきが上手くなったので、昔の構えを進化させたといっていた。」

そうなんだ。村長はもともと上段使いだったのか。それにしてもいい構えだ。俺にもあんな上段はできないだろう。

 村長は上段に構えたまま、相手をひたと見つめ、少しずつ間合いを詰めていく。相手の大男は、始めこそ村長の上段に戸惑ってい居たようだが、隙だらけに見える胴や、足を狙おうと、少し腰を低くして下段半身の構えになっている。あくまで迎え撃つつもりなのか、両足ともべったりと床につけたままだ。

 間合いが詰まった。相手がリーチを生かして、村長の足を払おうと右手を振り上げた瞬間、村長が、

「キエー!」

との気合声とともに、大きく右足を踏み出し、竹刀をまっすぐに振り下ろした。竹刀は大男の脳天に打ち込まれたが、それに構わず、大男は大木剣を村長の右足の太ももに打ち込む。相打ちだ。しかし、竹刀と木剣では武器の性能が違うため、村長はややふらつく。そこをスキと見たのか、大男は次に木剣を振りかぶり、再び右から村長の肘を狙おうとする。竹刀で頭を打たれたことはあまり意に介していないようだ。しかし、村長も、面を打った後再び竹刀を振り上げ、大男の右首筋に袈裟切りを叩き込む。今後は村長が一瞬速かった。大男は木剣を振りかぶったまま、ひざをついた。しかし、戦意は衰えていない。そこで、村長はとどめとばかり、大男の眉間に突きを放った。これで3勝目だ。

「村長、足は大丈夫ですか?」

戻ってきた村長をみんなが心配する。

「なに、それほど大したことはない。」

と言いながらも、村長は脂汗を流していた。

「サリーさん。手当をお願いします。」

と声をかけると、

「はい。」

という返事とともに、サリーさんが現れる。村長はマネージャーのヨナスさんたちに肩を支えられながら、救護室に向かった。


「ヨウスケ殿。まずいかもしれません。」

マーローさんが、話しかけてきた。何か気が付いたことがあったのだろうか?

「今の試合、相手は勝つことよりも、村長にケガをさせることを優先してきたかもしれません。」

「ええっと、相手は、勝負を捨ててきたということ?」

「はい。試合に勝つことは捨てて、うちの選手にケガをさせ、次の試合に出られないようにしてきた、と思うのです。」

「そんなことをする意味が無いと思うんだけど・・・。あっ、そうか。領都との取引があったかも?」

「その通りです。相手の大将は、明らかにボミデの村の出身ではありません。そういう選手を大将に置いたということは、自分達は試合には勝てなくても、うちの選手にケガをさせることで戦力を削り、領都のチームに有利になるようにしたのではないかと思います。今の試合では、村長の面打ちをあえて受けて、村長の足を狙ってきたと思います。竹刀の軽さを逆手に取られたようです。この後のシラック殿や、グリッツ殿の試合でも、同じようにされるかもしれません。そうなると試合には勝てても、うちの戦力は削られます。この後の試合では、厳しくなるかもしれません。」

なるほど。そこまでは考えなかった。

「マーロー殿、何か良い考えはありますか?」

「考えと言うほどのことはありません。幸い、この試合はうちが勝ちました。あとは、まともに勝負しなければいいのではないでしょうか?特に相手の大将は、長槍を使います。まともに戦っては、グリッツ殿がケガをするかもしれません。」

 なるほど、当然の作戦だ。しかし、俺は納得できなかった。この試合は、ダヒトの村チームにとっての初戦だ。そこで消極的な作戦を取れば、これからの試合に影響するような気がした。特に、領都のチームを勢いづかせるのはまずい。戦いは技術や力が重要だが、気合いや気迫も大切なのだ。こちらが消極的な姿勢を見せることで、相手が勢いづき、手に負えなくなることは、元の世界の試合でも経験していた。

「確かに、まともに戦えばケガをする可能性が高まります。でも、消極的な姿勢を見せることで、相手を勢いづかせる危険のほうが大きいと思います。ここは、足さばきを存分に使っての一撃離脱戦法を取りましょう。」

と、俺が提案する。マーローさんも、バルガスさんも納得してくれた。その時、救護室からサリーさんが戻ってきた。

「村長様は、骨折はしていませんでした。でも、太ももがひどく腫れていました。お医者様の話では、全治1週間だそうです。」

「サリーさん、ありがとうございます。」

と言ったが、気持ちは沈む。中堅の村長さんが離脱したのだ。この領都大会では、村長さんを試合に出すことはできない。しかし、監督の俺が動揺する姿を見せるわけにはいかない。あえて、立ち上がり、自分とみんなを励ます。

「皆さん、村長の貴重な戦いを見ましたね。相手は、どんな手でも使ってきます。私たちは、堂々と受けて立ちましょう!大丈夫!剣道は負けません!」

姿勢を正していたみんなの背筋が、さらに伸びる。俺はシラックさんに、

「相手は勝敗よりも、私たちの負傷を狙っているようです。こちらは遠間で相手の動きを観察し、一撃離脱を繰り返して、相手の消耗を狙いましょう。特に、間合いには十分に気を付けてください。」

と、作戦を伝えた。シラックさんはゆっくりと立ち上がり、試合場に向かう。その背中に、怒りのオーラが見えるような気がした。

 シラックさんの背中を見届け、俺は、グリッツさんのところに行く。正座をして観戦しているグリッツさんの横にしゃがみ、話しかける。

「グリッツさん。相手の大将ですが。」

すると、グリッツさんが、ニヤリとしながら答える。

「分かっている。あの全身金属鎧には、竹刀では歯が立たないのだろう。大丈夫だ。作戦はある。」

さすが、グリッツさん。俺と同じことを考えていたようだ。俺はニッコリとほほ笑んで、グリッツさんの背中をたたき、席に戻った。


 さあ、副将戦だ。相手はシラックさんと同じくらいの背丈だが、筋肉の量が倍ぐらいある。革鎧に、革のひじ当て、すね当て、首当てを身につけ、金属の兜をかぶって、全身を守っている。軽い竹刀ではダメージは入らないぞ、と主張しているようだ。得物は木の大剣。先ほどの中堅戦の相手より一回り大きな大剣だ。昔、映画で見たことがある。シュ〇ルツ〇ッガーさんが振り回していた大剣のようだ。本来なら、両手で持つであろう大剣を片手で持っている。恐るべき膂力りょりょくだ。相手は、その大木剣を右手に持ち、中段半身に構えている。しかし、両足は横に並んでおり、ひざも伸びている。この構えでは、素早い動きは難しいだろう。

 シラックさんは、そんな相手に下段の構えを取った。現代剣道では、あまり使われることのない構えだ。この構えは、上半身がスキだらけに見える。逆に言えば、相手の狙いをこちらの上半身に絞らせるものだ。相手が攻撃するには、剣を振り上げて振り下ろすという2動作が必要になるが、こちらは竹刀を振り上げるという1動作で、相手の剣を摺り上げることができる。いわば、守りに特化した構えだ。この構えは、消極的な印象を与えるものだが、シラックさんの背中からは、守ろうという意識は読めない。むしろ、何が何でも一撃を与えようという、必死の姿勢が見えた。

 シラックさんが、少しずつ間合いを詰める。シラックさんは燃えていても、とても冷静だ。相手も、どっしりと構えているようで、動かない。一足一刀の間合いに入る直前、シラックさんは足を止め、わずかに竹刀の剣先を上げた。相手は、その動きに反応して大木剣を振り上げようとして、止めた。大木剣の長い間合いでも、届かないと感じたのだ。しかし、動こうとして止めた相手の右手は、一瞬硬直した。その瞬間、シラックさんは大きく踏み込み、持ち上げた剣先を相手のあごに定め、突きを打ち込んだ。まさに、捨て身の一突き。突いた瞬間、竹刀が大きくたわんだように見えた。シラックさんはそのまま、体ごとぶつかるように相手に突っ込んだ。相手は顎を突かれ、そのまま後ろに倒れた。

 シラックさんは、中段に構え残心を取る。相手は、倒れたまま動かなかった。これで4勝目。担架が呼ばれて、相手は運ばれていった。

「シラックさん。お見事です。素晴らしい捨て身技でしたね。」

俺が声をかけると、

「ありがとうございます。村長にケガをさせた相手に何としても、一矢報いようと思ったのです。」

と、シラックさんは答えた。試合時間は1分もたっていないが、相当消耗したようで、肩で息をしている。

「素晴らしい踏み込みでした。足を痛めてはいませんか?」

シラックさんのいつもの踏み込みより、15㎝ほど遠くに踏み込んだのだ。足をケガしていても不思議はない。

「はい。大丈夫です。」

「念のため、救護室に行ってください。

 サリーさん、シラックさんを救護室にお願いします。」

サリーさんを呼んで、連れて行ってもらった。


「すさまじい技でしたね。剣道とは、こういう闘技術なのですね。」

マーローさんが話しかけてきた。バルガスさんも驚いている。

「あんな遠間からの突きは、私も初めて見ました。普段の稽古では教えていません。でも剣道では、思わぬ技が試合で出ることもあります。普段の稽古をしっかり行い、基礎となる力をつけているからこそできることなのです。」

と、俺は話した。

「なるほど。剣道とは奥が深いものですね。」

とは、バルガスさん。

「はい。シラックさんのこの1年の稽古が結集した技でしょう。私でも、あの技は出せません。」

マーローさんとバルガスさんは、剣道に対する見方を変えてくれたようだ。


 戻ってきたサリーさんの話では、シラックさんには特にケガはなかったらしい。シラックさんは少し休んでから、村長とともに試合場に戻ってくるということだった。

「村長は、もう歩けるのですか?」

と、マーローさん。

「はい。大将戦は見届けたい、とおっしゃっていました。」

と、サリーさんが答えた。

「では、グリッツさん。頼みますよ。」

と、俺が声をかけると、

「シラックの気迫を見せてもらいました。わしも負けるわけにはいきません。」

と、グリッツさんが自信満々に答えた。

 グリッツさんが手ぬぐいをまき、面をつけている間に、シラックさんと村長さんが戻ってきた。村長さんは、右足を引きずっているようだが、元気そうだ。

「村長さん、大丈夫ですか?」

と問いかけると、

「ヨウスケ殿。皆さん。すみませんです。私の油断で、ケガをしました。残念です。」

と、村長さんが悔し気に話した。

「大丈夫です。先ほど、シラックさんが村長の仇を取ってくれました。今度は、グリッツさんが、村長さんの分も戦ってくれます。」

俺は、村長に定位置に座ってもらった。正座は難しいので、楽な姿勢でよいと話した。


 さあ、大将戦だ。相手は全身金属鎧に、長槍装備だ。この世界の長槍は6mほどあり、先端はとがってはいないが、細く削ってある。試合用の槍とは言え、十分な殺傷力を持っている。その長槍を、右手前、左手後に構えている。長柄の武器には、懐に飛び込むことが定石だが、グリッツさんはどう戦うのだろうか。

 グリッツさんは、中段に構え、じりじりと間合いを詰めている。相手も、少しづつ間合いを詰めてきている。槍の間合いに入った。竹刀はまだ届かない。そこで相手は槍をしごき、グリッツさんの左肩を突こうとしてきた。グリッツさんは、冷静に体を開きながら竹刀の裏で槍をさばく。と、そのまま、小さく踏み込んで相手の右ひじに竹刀を叩き込んだ。相手は、全身鎧なので、ひじやひざの関節の外側には金属の守りがついているが、関節の内側は動きを妨げないために革で覆っているだけだ。グリッツさんの一撃は、その関節の皮の部分に当たった。あれは、右手がしびれただろう。相手は槍を引き込んで、体の向きを変えながらもう一度槍を突きこんでくる。グリッツさんは相手に合わせて右前に開き足を使い、再び相手の右ひじに竹刀を打ち込んだ。軽い竹刀とは言え、同じところに打ち込まれればダメージも出る。相手は右手に力が入らなくなったようで、槍を持つ手が緩んだ。そこで、すかさずグリッツさんは槍先を竹刀ではね上げた。その上で、竹刀を立てて相手に体当たりをし、ひるんだところを、相手の左足をひっかけて転ばせてしまった。体当たりからの、足柄めだ。仰向けになった相手ののど元に、竹刀の剣先を当てた。これで5勝目だ。


 俺たちは、大きな拍手でグリッツさんを迎えた。全身金属鎧の長槍持ち。普通に考えれば、剣道で戦うには大きなハンデがある。それを、ここまで見事に倒したのだ。確かに、稽古の中で長槍に対する対処法も指導した。また、体当たりや足柄めなどの体術も指導した。しかし、ここまで試合に生かしてくれたのは、グリッツさんの努力と才能だ。本当に素晴らしい。

「ありがとうございます。剣道を修行していなかったら、こんな戦いはできませんでした。」

グリッツさんは、謙虚に話しているが、俺にはわかる。この戦いの技はグリッツ流と言ってよいものだと。マーローさんや、バルガスさんも、驚いたように大きな拍手をしていた。

 これで、リーグ戦の初戦は5-0で勝った。


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