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竹刀の剣士、異世界で無双する 37 襲撃の後始末 2

37 襲撃の後始末 その2


「さて、それではシャイトスの身柄をどうするかじゃが・・・。」

村長が問いかける。グリッツさんは、

「あとくされの無いように、始末すればよいのでは?我々には、領都大会が迫っています。試合に集中したいものです。」

と、意見を言った。ちょっと乱暴な意見だが、もっともだ。俺たちは、領都大会で勝ち上がるために来たのだ。

「その通りですが、始末するのには、反対です。ここで有能な執事を殺されてしまったら、領主のベナン様がどんな暴走をするか分かりません。ここは、シャイトスを生かして、利用したほうが良いのではないですか?」

シラックさんが、反対する。この意見も道理だ。俺たちは、大会ルールを変えられ、刺客まで放たれたのだ。この後、どんな邪魔が入るか分からない。

 ダメだな、俺は。剣を取っての戦いになれば、相手の呼吸を読んで狙いを察し、対応することはできる。でも、こういうはかりごとは、本当に苦手だ。やはり、俺は一剣士が似合っている。参謀とか、将軍とかには向かないな。そんなことを考えていると、村長さんが話し始めた。

「そうじゃな。始末するか、生かしておくか。結局はその二択じゃろう。わしとしては、領都大会に全力を注ぎたい。せっかく、ヨウスケ殿に選手に選んでもらったのじゃ。数十年ぶりに、大会で暴れてみたいわい。そのためにも、シャイトスは殺さずに、役に立ってもらいたい。しかし、シャイトスをただ生かして帰しては、この後何をしてくるか分からぬ。そこで、わしの知り合いの、領都警備隊長レックスに頼むのじゃ。レックスはわしと同年代じゃが、気持ちのいい奴での。こういった不正が大嫌いなのじゃ。事情を話せばわかってくれるはずじゃ。そのレックスに話をし、シャイトスに護衛兼見張りをつけて家に帰すのはどうじゃ?その前に、シャイトスと話をする。領都大会出場者を襲うことは、九属縛り首という決まりがある。それを今回罪に問わない代わりに、これ以上の大会への干渉をやめさせるのじゃ。」

なるほど、さすが村長。いい案だと思う。俺たちは素直にうなずいた。

「では、マーローとシャイトスを読んできてもらえんかのう。その間に、グリッツには、警備隊長のレックスを呼んできてほしい。夜中じゃが、お主なら話を聞いてもらえるじゃろう。」


 村長の指示で、俺たちは動き出した。俺がシャイトスを連れに行く。シャイトスはまだ縛って、猿轡のままだ。それを肩に担いで、村長の部屋に戻ると、すでにマーローさんが来ていた。

「マーロー殿、シャイトス様。夜中にご足労をかけますのう。」

村長は、まったくへりくだっていない調子で声をかけた。

「ほひゃへふぁ、はひぃふぉひへひふふぁ、ふぁはっへひふふぉふぁ!」

シャイトスが、何やら叫んでいる。一方、マーローさんは、

「いえ、妻も子どもたちも落ち着いたところです。本当にありがとうございました。」

と頭を下げた。隣のシャイトスのことは全く無視だ。

「ここでは、シャイトス様をどうするかを決めたいと思う。じゃが、猿轡を外すと声が面倒そうじゃのう。そのままにしておこうかのう。」

俺は、無言でうなずき、肯定する。

「では、もうすぐ、領都警備隊のレックスがやって来る。その前に、確認だけでもしておこうかのう。

 さて、シャイトス様、あなたはこちらのマーロー殿の家族を人質に取り、マーロー殿にダヒトの村の稀人を殺すように命令した、と言われておるが、まことかな?」

「ふぉんはふぉふぉは、ひぃふぁん。」

シャイトスは言いながら、首を振った。

「なるほど、お認めにはならぬか。しかし、マーロー殿の家族があなたの屋敷の地下牢から発見されておる。これでは、言い逃れはできまい?」

なおも追求する、村長。しかし、シャイトスは完全に開き直った表情で、

「はひゃふぁ、ひふぁん。」

と首を振っている。これは意地でも認めないだろう。そこで、村長はシラックさんに、シャイトス邸のメイドさんと、二刀のバルガスを連れてくるように言った。

 二人が部屋に来ると、村長は再びシャイトスへの詰問を始めた。

「この二人は、お主に雇われていた者じゃ。お主がマーロー殿の家族を拉致したことを知っておる。」

「はい、私は、シャイトス様に言われて、マーロー様のご家族の食事を運びました。ご家族様の話では、突然兵士たちが家に来て、自分たちを牢屋に連れて来たそうです。」

「わたしも、マーロー殿のご家族の襲撃には参加していました。傷つけても、死なないように捕まえてこい、という命令でした。」

メイドさんとバルガスさんが証言する。シャイトスは、怒った顔を見せたが状況が悪いと悟ったのか、おとなしくなる。最後にマーローさんが、

「ダヒトの村の稀人を殺すように命じられました。人を雇えと、金まで渡されました。証文や領収書はありませんが、金の入っていた袋はあります。ここに、シャイトス様の紋章が焼き付けてあります。」

そういって、革袋を出した。村長が確認する。

「ふむ、確かに、シャイトス家の紋章の様じゃ。

 さて、ここまで証言や証拠がそろって居る。言い逃れはできんのう。」

村長は冷たく言い放つ。シャイトスは悔しそうに、赤い顔をしてこちらを見ていた。

「なるほど、これだけの証拠や証言であっても、もみ消せるという自信があるようじゃ。ならば、これはどうじゃな?グリッツよ、入るがよい。」

いつの間にかグリッツさんは、警備隊長のレックスさんを連れて入り口の前に立っていた。

「レックスよ、久しいな。」

「ああ、コサロよ。40年ぶりだ。相変わらず、元気そうだな。それで、今日はどうした。俺はもう、寝ていたんだぞ。」

「それは、申し訳ない。緊急事態じゃったのじゃ。」

と、村長はこれまでの経緯を説明する。メイドさん、バルガスさん、マーローさんも証言を繰り返す。

「なるほど、大会出場者を狙うものは、九属縛り首だ。だが、俺に話したということは、コサロたちは縛り首を望んではいないということか。」

さすが領都の警備隊長。頭の回転が速い。

「そうじゃ、シャイトスを生きたまま屋敷に帰したい。しかし、今後悪さをせんようにしたい。どうするとよいかのう?」

しれっと村長さんが、レックスさんに振る。

「確かに、シャイトスを殺すことは悪手になるだろうな。領主のベナン様にとっては、シャイトスは頼れる知恵袋だ。ならば、利用するのがよいか・・・。」

レックスさんは、ふむふむと考えている。

「レックスよ。警備隊は領主とは独立の、王室直轄の組織だったはずじゃ。お主も、領主に従う立場ではないだろう?」

と、村長が話す。そうなんだ、警備隊は、領主に協力はしても、命令に従わなくてもいい立場なんだ。

「うむ、その通りだ。我ら警備隊は治安維持だけでなく、領主の監視も任務のうちだ。今年の領都大会の急なルール変更についてや、去年の優勝者のマーロー殿が今年は出場しないことについては、警備隊でも話題になっていた。それが、このような陰謀に結びついていたとは・・・。また、領都で出生届を売られていることについても、噂は聞いていた。ここで、メイドさん、バルガス殿、マーロー殿の証言が得られたことは大きな収穫になるだろう。

 さて、シャイトス殿。私は警備隊長として、この件を王室に報告しなければならない立場だが、それでよいか?」

レックスさんが、シャイトスに顔を向ける。シャイトスはレックスの視線を外すようにうつむいて、震えていた。そこで、村長が話しかける。

「さて、シャイトスよ。取引と行こうか。わしらの要求は、四つじゃ。まず、今後、マーロー殿とその家族には手を出さんと誓うこと。二つ目は、お主の屋敷のメイドさんとバルガス殿とその家族にも手を出さんと誓うこと。三つ目に、今日以降、領都大会には一切かかわらず、すべてを領都大会運営委員会に任せること。最後に、この三つの約束を領主のベナン様にも守らせることじゃ。最後の一つはお主の一存では決められん、というじゃろう。じゃが、ベナン様の知恵袋のお主が説得すれば、ベナン様も首を縦に振るじゃろう。

 この四つの要求がかなえられるなら、お主とベナン様のこれまでの陰謀については王室に報告しないでおこう。あくまで、これまでの陰謀についてじゃ。この先何か陰謀をたくらむことがあれば、これまでのことも含めて、王室に報告することになる。無論、お主たちの行動を見張るための監視をつけることになる。報酬は、お主とベナン様の地位の安泰じゃ。

 シャイトスよ、どうするかの?」

穏やかに話しかけているが、内容は有無を言わせないものだった。さすが村長。シャイトスは、難しい顔をしていたが、結局頷くしかなかった。

「では、この誓約書にサインしてもらおうかの。」

いつの間にか村長は誓約書を用意していた。すでに自分のサインもしてあるようだ。村長は目線でレックスさんを促す。レックスさんは、一つ頷くと誓約書を手に取って読む。

「うむ、こういう取引は本意ではないが、領都大会を目前にして、いたずらに事を荒立てるのも問題があるか。それに監視を警備隊から出すというのなら、我々の面目もたつと言うものだ。監視役には、口の堅いものを選ぶとしようか。」

と言って、レックスさんもサインした。そして、誓約書をシャイトスに見せる。

「さて、シャイトス殿、サインをされますかな?」

と、レックスさんが問いかける。シャイトスはやはり難しい顔をしていたが、観念したかのように頷いた。

「では、シャイトス殿の手縄を外してください。」

レックスさんの声を聴いて、俺は、シャイトスの手縄を切った。シャイトスは、指を開いたり閉じたりして感触を確かめると、レックスさんの持っていたペンを取り、誓約書にサインした。

「これで、取引は成立じゃ。今後とも、良い関係を作っていきましょうぞ。」

村長の白々しいセリフには、シャイトスはそっぽを向いた。

「レックスよ、休んでいたところを申し訳ないが、もうひと働きお願いするかの。口の堅い、気の利いたものを使って、シャイトスを警備隊が保護したということにして、屋敷に戻させてほしいんじゃ。そのものには今後もシャイトスの監視を頼みたい。また、別に領主のベナン邸にも監視の人員を入れたい。なに、シャイトスの別邸が物取りに襲われたということであれば、領主邸に警備隊が入ることも了承されるじゃろう。」

村長が話すと、

「うむ、そうだな。これは領都の中枢に監視を置く絶好の機会だ。うまく利用したいものだ。では、監視員として、この二人を送り込みたいので、ここに呼び出してくれんか。」

と、レックスさんは二名の名前を書いた紙を渡してくる。村長は、シラックさんに名簿を渡して、この部屋に呼んでくるようにお願いした。

 レックスさんの部下がここに来る間に、俺は気になっていたことを尋ねる。

「シャイトス殿、マーロー殿の話では、今年の領都大会では、外部から手練れの者を雇ったはず、と聞いておるが、本当ですか。」

シャイトスは、あきらめたのか、素直に頷く。

「それは、どんな武人ですか?」

と聞くが、返答は首をひねるばかり。

「ひょっとして、シャイトス殿も、選手の詳しいことはご存じない?」

と聞くと、頷きが返ってきた。なるほど、領都大会は厳しいものになりそうだ。しかし、ダヒトの村も、様々な相手は想定して稽古している。あとは、本番で気おされないこと、普段の稽古通りの力を出すことだ。幸い領都大会まではまだ、一週間ある。マーロ-さんと一週間稽古するだけでも、大きな収穫があるはずだ。

 マーローさんがダヒトの村のコーチを引き受けたと聞いて、バルガスさんもコーチに立候補してきた。なんでも、シャイトスに雇われた時点で、今年の大会は出場できなくなったらしい。そこで、マーローさんと同様にコーチになりたいと言ってきた。正直、強さはマーローさんほどではないが、色々な攻撃のパターンに対応することで、選手の気持ちにゆとりを持たせることは、この時期には正しい対処法だ。なので、第二コーチとして雇うことになった。

 また、選手の身の回りの世話をする人も必要だ。今まではメイドのメリサさんが、選手の世話をしていたが、これからは選手として試合に集中してもらいたい。なので、もう一人世話役のメイドさんが必要だった。そこで、シャイトス邸から逃げてきたメイドさんも雇うことになった。メイドさんは、サリーさんと言うらしい。ブロンドの髪の十九歳だ。バルガスさん、サリーさんともに天涯孤独の身の上なので、ダヒトの村に移住することには抵抗はなかった。

 そうこうしているうちに、シラックさんが警備隊の二人を連れて戻ってきた。レックスさんは二人に経緯を話し、今後の注意点を与えた後、シャイトスを連れて別邸に帰した。夏の短い夜は明け始めていた。


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