竹刀の剣士、異世界で無双する 35 シャイトス邸襲撃
お盆休みで、投稿を忘れていました。申し訳ありません。
35 シャイトス邸襲撃
夕食後、仮眠をとった俺たちは、夜中に起こされ、身支度を整えた。剣道の防具や竹刀を使えば、ダヒトの村の関係者とばれてしまう。なので、今夜は俺も革鎧を身につけた。敵・味方の識別用として、白いタスキを腕に巻いた。鉄の剣を持てと言われたが、俺はどうしても戦いで相手の命を奪うことに抵抗がある。剣術は人殺しの術だが、剣道は、剣の理法の修練による人間形成の道なのだ。それを唱えている俺が人殺しをしては、何が人間形成だ、と言うことになる。しかし、今夜の作戦は早さが求められる。敵と対峙して、隙を探って勝負する、というような悠長なことでは、作戦そのものが崩れてしまう。求められるのは、一撃で敵を行動不能にすることだ。なので、みんなが鉄の剣を持つことには反対しない。しかし、俺のこだわりとして、命を奪う剣は持てない。妥協案として、鍬に使う木の棒を持つことにした。竹刀よりは重いが、長さやバランス、硬さが丁度よい。これなら一撃で敵を行動不能にできるだろう。
俺と子ども隊、ミネルバ隊、グリーガー隊はシャイトス邸の崩れた壁の前にいた。壁の崩れたところの左右に分かれ、息をひそめて待つ。ほどなくして、正門の方から叫び声が聞こえた。その後、裏門の方からも鬨の声が上がった。突入のタイミングだ。俺は周りに見えるように、大きく手を振り、先頭をきって壁を越える。情報通り、兵士はいない。ミネルバ隊が裏門、グリーガー隊が正門に向かうことを確認して、俺は子ども隊を率いて屋敷に向かう。まっすぐに屋敷に走ると、勝手口が空いていた。屋敷の使用人がごみを捨てるために開けていたのだろう。シャイトス邸があまり警戒していない様子に胸をなでおろしつつ、子ども隊を率いて勝手口から侵入する。
台所には、メイドらしき人が椅子に座って居眠りをしていた。俺は、バレスとゼータに勝手口を締めて警戒させ、ノーラとソーラに台所の入り口を警戒させた。その上で、居眠りをしていたメイドさんの肩をたたいて起こす。びっくりしたメイドさんが声を上げるところを、口を押えて静かに話す。
「驚かせてすみません。俺たちは、マーローさんの家族を助けに来たものです。あなたに危害を加えるつもりはありません。マーローさんの家族の居場所を知っていますか?」
メイドさんは、俺に口をふさがれたまま、目を見開いてこくこくと頷いた。
「では、マーローさんの家族のところへ、案内してください。大丈夫です。あなたに危害は加えません。今、屋敷は門からの襲撃に対応していますから、兵士も少ないでしょう。向かってくる者には、我々が対応します。あなたを傷つけることはしません。」
メイドさんは、再びこくこくと頷いた。
「ご協力、ありがとうございます。ですが、一時的にあなたの腕と口を縛ります。ご容赦ください。」
メイドさんのあきらめた表情を見ながら、俺は素早くメイドさんを後ろ手に縛り、猿轡を噛ませた。
俺は、バレスとゼータに勝手口の閂を締めさせ、メイドさんを連れて台所から出る。前方はノーラとソーラが警戒し、後方はバレスとゼータが警戒している。俺も、メイドさんを連れながらも気配を探っている。どうやら、館の兵士は、正門と裏門に集中しているようだ。この隙にマーローさんの家族を救い出そう。そう思って、メイドさんに問いかけた。
「マーローさんの家族は、地下牢にいるそうですが、間違いありませんか?」
メイドさんは頷いてくる。
「地下牢への鍵はどこですか?」
メイドさんは、屋敷の奥に向けてあごをしゃくり上げる。
「なるほど、鍵は、シャイトスさんの部屋ですね。」
確認すると、メイドは頷く。
俺たちは、メイドを中心としながら、隊列を組んでシャイトスの部屋に向かう。部屋の前の曲がり角で、いったん止まり、連携を確認する。ここまでは敵は後ろから来ていない。部屋の前には2人の護衛がいる。
「ノーラとソーラは、右側。バレスとゼータは左側の兵士を戦闘不能にしてくれ。」
おれが頼むと、こっくりとうなずいた子どもたちは先行した。それこそ、あっという間に制圧したようで、兵士を縛り付けながら、ノーラとバレスが得意顔をする。
「ありがとう。これから、執事との対面だが、恐れる必要はない。こちらの要求が通らなければ、拘束しよう。」
と声をかけると、子ども組は、にっこりとうなずいた。
執事室のドアを開けようとしたところで、マーローさんが追い付いてきた。どうやら、正門・裏門の襲撃もうまくいっているようだ。
「遅れてすまない。シャイトスにはどうしても一言いってやりたいので、先頭を任せてもらってもよいか?」
と、マーローさん。家族を人質に捕らえられているので、思うところがあるのだろう。頷いて許可を出す。
マーローさんを中心に、子どもたちが両脇について扉を開ける。マーローさんは覆面を取って先頭に立つ。、子ども隊、俺とメイドさんが順に部屋に入る。
部屋の奥には大きな机をはさんで、白髪・肥満の男が立っていた。扉を破られたことよりも、マーローがいることのほうが驚きだったようだ。
「マーロー!貴様、死んだと聞いたのに!」
「そうさ、マーローは一度死んだ。ここにいるのは、マーローの残りかすだ。しかし、お前に、マーローの家族を殺させるわけにはいかない。家族は、我々が助け出す。地下牢の鍵をよこせ。」
マーローが淡々と告げる。シャイトスはちらりと扉横の鍵箱を見た。なるほど、ここに鍵はあるんだな。そう思った俺は、
「マーロー殿、鍵はあそこの箱の中のようです。探してください。」
と言って、前に出る。そのまま、両足跳びで大きな執務机に乗り、シャイトスの首筋に木の棒を打ち込んだ。シャイトスはなすすべもなく倒れた。
「皆さん、シャイトスを拘束してください。」
と指示を出した。ひと昔は武人と鳴らしたマーローも、年齢と肥満には勝てず、子ども隊に縛られ、猿轡を噛まされている。その間にマーローは地下室の鍵を見つけたようだ。
シャイトスを縛り上げた後、俺は、シャイトスを連れながら、地下牢に向かう。メイドさんは猿轡を外し、マーローに任せている。先頭はメイドさんを連れたマーローさん。左右にノーラとソーラを連れ、地下牢に向かう。俺はその後ろでシャイトスを担ぎ、バレスとゼータを連れて歩いて行った。
「ここを曲がれば、地下室の入り口です。」
メイドさんの声が聞こえたとたん、前方から殺気が膨れ上がった。流石、マーローはメイドさんを抱え、一瞬で後ろに跳びのいたが、ノーラとソーラが置いてけぼりになった。俺は、シャイトスをバレスに任せ、一足飛びに前にでる。
ノーラとソーラに対峙しているのは、金属の軽鎧をつけ、大剣を持った相手だった。右手で重い大剣を振り下ろして、体の小さいノーラを押しつぶそうとしている。ソーラが敵の足元を狙おうとしているが、敵は左手に持った短剣でソーラの攻撃を受け止めている。これは強い!俺はマーローさんをちらっと見た。マーローさんは頷くと、
「こいつは、去年の領都大会準優勝者、『二刀のバルガス』だ。かなり強い。」
と情報をくれた。おれは、前に出ると、ノーラとソーラを引かせた。
「ひひひっ!ふぁんふぁひゅひふぁふぇふふぉふぉふぁ!」
シャイトスは、猿轡を噛まされているため、言葉にならない声を出す。うるさいが俺は無視して、中段に構えて前にでる。バルガスも、子どもたちの相手をやめ、俺に向き直る。その構えは、右手の大剣を上段に構え、左手の短剣を中段に構えている。左の短剣で俺の攻撃を牽制し、右手の大剣で頭上から切ってしまうという、逆二刀の構えだ。
俺は木の棒を相手の右小手に向け、逆平晴眼の構えを取る。短剣は無視して、大剣の小手を狙う構えだ。小刻みに前後して間合いを計っていると、相手がしびれを切らしたのか、大きく踏み込んできた。短剣の狙いを外すため、俺は大きく相手の右側に跳んで、振り下ろそうとした大剣の持ち手を上から打つ。竹刀と違って太い木の棒なので、衝撃は大きい。バルガスは大剣を取り落とした。その隙を狙って、バルガスの顎を下から強く打つ。これで脳震盪を起こしたのか、バルガスがどうと倒れた。
子ども隊に頼んで、地下室への入り口を開けてもらう。その間に俺は、バルガスの手足を縛り、動けなくした。
「すまんが、しばしの我慢だ。用が済んだら出ていく故、ほかの仲間に助けてもらうがよい。」
と声をかけると、
「お主が、ダヒトの村の稀人か。ターミル殿が強いと言っていたのも納得だ。わしは、もう、ここにはおられん。一緒に連れて行ってもらえないか?」
と頼んでくる。
「最終的には、村長が決めることだが、この後我らに協力するならよい待遇が得られると思うぞ。」
と話した。
「分かった、お主らが逃げるときには、ご助力つかまつろう。」
と言うので、
「それでは、地下牢から、マーロー殿の家族を助けてくる。それまではここにいてほしい。」
と話すと、
「了解した。皆の帰りを待つ。」
と言って、おとなしく縛られていた。
扉を開け、地下牢に入ったが、敵は一人もいなかった。先ほどのバルカスが最後の砦だったようだ。メイドさんの案内で、マーローさんの家族を見つけた。奥さんと子ども二人は、それぞれ別の牢に入れられていた。暴行を受けた様子はないが、食べ物が十分でなかったようで、青い顔をして憔悴している。マーローさんの顔を見ると、目を見張って驚いていた。
「静かに。この人たちが協力してくれたので、お前たちを助けに来られた。これから逃げる。ついてこれるか?」
マーローさんが静かに聞く。
「ありがとうございます。でも、走ることはできません。」
奥さんが応えた。ほっとした気持ちがこもっている。俺たちは手分けをして三人の拘束を切り、牢から出す。奥さんはマーローが背負い、子ども二人は、比較的体の大きいバレスとゼータが背負って脱出することにした。
帰り道、メイドさんの拘束を解いたが、このままでは行くところがない、と訴えたので、そのまま連れていくことにした。また、バルガスも同行したいといったので、縄を解いて連れていくことにした。もちろん、シャイトスは縄をつけたまま、俺が担いだ。
屋敷から出ると。正門、裏門の方でまだ騒ぎが聞こえる。俺たちは、その騒ぎに紛れて、もう一つの壁の崩れているところから外に出た。そのあと、ノーラを正門への、ソーラを裏門への使者として「作戦成功」を伝えるようお願いして、俺たちは貧民街へ向かった。幸い、追手がかかった様子はなく、俺たちは貧民街を一回りしてから、宿に戻った。
村長の部屋で待っていると、正門組、裏門組が次々と戻ってきた。幸い、被害は切り傷程度で、誰も死ぬことはなかった。




