竹刀の剣士、異世界で無双する 32 領都への旅
32 領都への旅
6月下旬に、領都に向けて出発することになった。領都へは、徒歩の旅で2か月ほど。8月下旬に始まる領都大会にはぎりぎり間に合う予定である。しかし、世の中は、何が起こるかわからない。なので、旅程を短縮するために、いつもは馬車2台に10人の選手を乗せていくところを、今年は馬車3台にした。また、選手やマネージャー以外にも中級者10人を護衛として連れていくことにした。護衛隊長はシーダさんにお願いした。もちろん馬車のスピードに合わせるため、村から貴重な乗馬を支給されている。その上、普段は徒歩で2か月かかる旅程を、馬車と野宿などを多用することで、1か月ほどに縮める計画だ。これは、単純に速く移動することよりも、速い移動で領都での状況を探る時間を増やすことが目的だ。
6月下旬の夜明け頃、準備ができた選手や随行員が広場に集まる。選手は防具鞄と竹刀袋を持っている。随行員は、記録用紙、筆記道具をもち、護衛は皮鎧に鉄の剣を持っている。そのほかに、見送りの村人も多い。食料や野宿のテントなどは、もう馬車に積み込んである。
「よく集まってくれた、皆の衆よ。いよいよ領都大会じゃ。団体戦は勝ったら村全体の評価が上がる。逆に負けたらそれまでじゃ。博打の要素が強いが、我々はしっかり準備してきた。どうか良い知らせを待っていてほしい。」
村長の演説で、村全員の声が上がる。俺たち選手と随行員は、3台の馬車に分かれて乗る。護衛はそれぞれの馬に乗る。
「では、領都に向けて出発じゃ。」
村長の掛け声で進み始める。後ろから、村人の声援が聞こえた。
旅程を短縮するために、村ごとに宿泊するのではなく、街道沿いの広場で野営をするようにして距離を稼ぐ。当然、魔物や盗賊の襲撃も織り込み済みだ。
しかし、出発してから魔物も出ず、盗賊の襲撃もなかった。
村を出て、1か月近くがたち、もう明日には領都に着くと思われるころ、せまい森の道を通っていた。
「っ!村長!何か来ます!隊を止めてください!」
俺は、村長に叫んだ。森の左右、前方から何やら不穏な気配がしてきたのだ。俺の声で、森の中で隊列が止まる。
「襲撃があるかもしれません。護衛の皆さんは周りをよく見てください。私は、前に出ます。イシャは後ろを頼む!」
俺は指示をして、竹刀をつかむと馬車隊の前に出た。
馬車隊の先頭で気配を探ると、案の定、前からと左右から襲撃者が近づいているようで、それぞれ、4~5人の気配がある。
「前からと、右と左から4~5人ずついるようです。前は、私とミネルバさん、バレスが対応します。右はロッケスさんと、グリーカーさん、ノーラとソーラ、左はシーダさん、ビスナールさん、ヨセフさん、ゼータが対応してください。相手の正体は分かりませんが、こんなところで襲ってくるのですから遠慮は無用です。飛び道具に気を付けて!」
大声で指示を出すと、猟師のヨナスさんが叫んだ。
「弓の相手は、俺に任せろ。」
振り返ると、箱馬車の天井に乗り、弓を構えるヨナスさんが見えた。
「ヨナスさん!頼みます。」
「おう。頼まれた!」
そう言って、ヨナスさんは弓を引き絞った。狙いは左の襲撃者の奥のようだ。俺からは見えないが、ヨナスさんは高い位置にいるので、相手の弓士が見えるのだろう。それを確認して、俺は前の敵に突撃した。俺は面をつける時間がなかったので、小手・胴・垂れ・竹刀の装備だが、ほかの護衛たちは違う。皮鎧に、簡易兜、鉄の剣や槍を装備している。
まずは、一番先頭にいた男が相手だ。皮鎧に丸盾・片手剣を持っている。走っていく俺に向けて、盾を構えながら走って来る。普通に盾に打ち込んでも、竹刀では相手にならない。そこで走りながら、丸盾の上部に突きを打ち込んだ。盾は、持ち手を中心に上部が傾いでいく。その隙をついて、さらに一歩踏み込み、相手の口と鼻の間に突きを打ち込んだ。人中と呼ばれる急所の一つだ。俺の走ってきた勢いと、相手の走ってきた勢いが合わさってかなりの衝撃になったらしく、相手は2mほど吹っ飛んだ。
先頭の男を倒した後、周りを見る。俺の右にはミネルバさん、左にはバレスがいて敵と戦っていた。ミネルバさんは一人を相手にして、うまく立ち回っているが、バレスは子どもなので侮られたのか、二人がかりで攻められている。俺はすぐにバレスの応援に入ることにした。鍔迫り合いでバレスを押し込んでいる男の横から、ひざ裏を強く打つ。男が姿勢を崩したところを、すかさず首に突きを放つ。十分な手ごたえとともに、男が崩れ落ちた。バレスはそれを見て、
「あとは、任せて。」
と、アイコンタクトを送ってきた。そこで、俺は残りをバレスに任せてミネルバさんを見ると、ミネルバさんも危なげなく立ち回っている。さすが元兵士だ。実践の勘がいい。前方のめどがついたので、後ろを振り返る。馬車の上のヨナスさんは左右の敵を数人倒したようだ。さすが狩人、弓の腕は一級品だ。右では、ノーラとソーラの姉妹が活躍していた。ノーラが敵に打ちかかって注意を引くと、横からソーラが足を狙う。この連携がうまくいって、敵はひざを斬られて倒れていった。左のほうでも、ゼータが動き回っていた。おとな組が相手の動きを止めている間に、ゼータが小さい体を生かして敵の足を斬っていく。敵は次々と倒れていった。
何とかなったか、と安心して馬車の方に戻ろうとした時、
「常在戦場。」
と、剣持先生の声が聞こえた。すかさず、竹刀を帯刀し、辺りの気配を探る。後ろだ。再び振り返ると、馬車の前方から強い気配がした。
「何者だ!出てこい!」
と叫ぶと、前方の木陰から一人の男が現れた。黒いフード付きのマントを深くかぶり、顔を隠している。体格は細身だが、鍛えた鋼のような鋭さを感じる。右手に片手剣をだらりと下げ、ゆっくりとこちらに向かってくる。スキだらけのような姿勢だが、自然体でどんな攻撃にも対応できる構えだ。間違いない、こいつがボスだ。
「もう一度問う。我らは、ダヒトの村の闘技大会出場者だ。お前は何者だ!」
しかし男は何も答えず、ゆっくりと歩いてくる。こいつは強い!歩き方でわかる。一見無造作に歩いているようで、まったく油断していない。不用意に切りかかれば、返り討ちに合うだろう。俺は、気を引き締めて前に出た。互いに9歩の間合いの辺りで動きを止めた。相手はフードの奥から俺の構えを見ている。俺も相手の全身を見て、狙いを探る。右手の剣に注意が向きそうだが、こいつはただの剣術使いではない。全身脱力し、剣は右の小指にひっかけているように持っている。また、左ひじもわずかに曲げ、右足を半歩前に出し両足のかかとを浮かしている。これは剣も使うが、手も足も使う拳闘士の構えだ。
「みなさん!下がってください!」
と叫ぶと、馬車の方からグリッツさんが、
「ヨウスケ殿、そいつは危険だ。去年の領都大会の優勝者『蛇のマーロー』だ。」
と声がかかった。なるほど、領都大会チャンピオンのお出ましか。領都のおえら様はよほど俺たちが目障りと見える。それに「蛇」という二つ名も納得だ。この一見無防備な構えから、変幻自在の技を出してくるのだろう。
「グリッツさん、情報ありがとうございます。」
俺は答えて、改めてマーローを観察した。なるほど、蛇だ。自然体で、どこから技が出てくるのかわからない。こちらの攻撃に対しても、すぐさま対応して返し技を放ってきそうだ。
ならば、こちらは竹刀のリーチを生かして、最速の一撃を放つのが上策。それで決まらなくても、相手を動かせれば攻撃を読める。そう考えて、俺はトンボの構えを取った。これは薩摩示現流の二の太刀要らず、と言われた最速の袈裟切りを放つ構えだ。俺は高校生のころ、竹刀の速さを求めて、示現流の立木打ち《たちぎうち》を稽古したものだ。竹刀を八相の構えより高く持ち上げ、左足を前に出す。
「キエー!!」
猿叫と言われる独特の気合を発し、小さな足運びで素早く相手との間合いをつぶす。相手が、ピクッと動いた瞬間、大きく足を踏み込んで、最速の左袈裟切りを放つ。しかし、マーローも太刀筋を読んでいたのか、俺の右側によける。すぐさま、俺は右足を軸にして向きを変え、竹刀を切り返して右袈裟を放つ。これはマーローの剣にさえぎられる。その反動を利用して、再び踏み込みながら左袈裟を放つ。今度はマーローは俺の左側によけた。俺の三連撃で若干重心がぶれたようだ。ここがチャンス。俺は竹刀をマーローの腹に向けて思い切り突き込んだ。マーローもさすがは元チャンピオン。この突きに対しても剣のしのぎで受け止めながら下がっていく。しかし、重心はぶれたままだ。さらに畳みかけようと、大きく踏み込んだ。その時、マーローの姿が消えた。
(まずい!)
俺はとっさに踏み込んだ右足をばねにして後ろへ跳んだ。その瞬間、ひざ下に横風が走った。袴を切り裂かれたが、ケガはしていない。間一髪だった。そのまま後ろに大きく下がる。マーローはゆっくりと立ち上がろうとしている。どうやら、重心を崩したマーローは、倒れこみざま俺の足を片手剣で切ったようだ。やはり、「蛇」と言われるだけのことはある。さっきの踏み込みは、油断したわけではないが、勝ちを焦ったのだろう。とっさに避けたが、危ないところだった。
マーローは立ち上がった後、首や肩、足の関節を回している。そうしながら、フードの奥からじっと俺を見つめている。俺の次の動きを探っているのだろう。まずい状況になった。先ほどは4連撃でマーローの重心を崩したが、倒れながらの一撃で挽回された。奇襲のトンボの構えは、もう通用しないだろう。関節をほぐし終わったマーローは、またさっきと同じように自然体で立っている。俺のどんな攻撃にも対応する自信があるのだろう。一方俺は、マーローの動きが読めていない。このままでは打つ手がない。竹刀を中段に構えたまま、俺も動くことができなくなっていた。
その時、マーローの右後ろの草むらが動いた。ガサリと踏み倒された草むらから現れたのは、イシャだった。
(ヨウスケよ、どうした。苦戦しているではないか。)
俺は、マーローから視線を動かさず答えた。
(ああ、さすが領都チャンピオンだ。このままでは打つ手がない。)
(ほう、それほどの使い手か。では、少し手伝ってやろう。)
(恩に着る。)
イシャは、俺の苦戦を見てわざと音を立てて現れてくれたのだ。イシャの気配を感じたマーローは、明らかに動揺していた。後ろから大きな狼が現れたのだ。しかも、マーローに向かって殺気を放っている。マーローは右足を引いて左半身になり、俺とイシャの両方に対応しようと構えを変えた。すかさず、イシャは前足を折り、とびかかる姿勢を見せる。マーローはイシャに注意をひかれた。ここだ!俺は素早く近寄り、一足一刀の間合いに入る。マーローは左半身のまま、右足に重心をかけた。左足の蹴りが来る。しかし、俺のほうが速い。
「ツキー!」
俺は、マーローの左わき腹に渾身の突きを放った。マーローは、蹴りの体勢に入っていたため、避けることはできなかった。俺の突きをもろに受けて、その場に崩れ落ちた。
(ありがとう、イシャ。本当に助かったよ。)
(ここでお主が負けては、我の苦労も台無しだからな。)
なんだよ、その、「別に、あんたのためじゃないからね!」って言いぐさは、ツンデレさんか?
(なんじゃ、また我を変な名前で呼んだな。)
(別に~。)




