竹刀の剣士、異世界で無双する 30 風呂どころじゃない
30 風呂どころじゃない
森から帰りつき、村長宅の庭で荷物をおろす。さて、風呂は無理だが、湯を沸かして体を拭くことはできそうだ。取ってきた薪を乾燥小屋に運び、湯あみ用の大きめのたらいを探すついでに、イシャが採った肉を渡しておこうと台所に向かう。勝手口をノックして、
「ヨウスケです。森から帰りました。」
と、声をかける。中から、赤毛の中年女性が出てきた。確かメイド長のアーリーさんだったか。
「ヨウスケ様。お帰りをお待ちしておりました。村長がお呼びです。すぐに来てください。」
ひどく慌てた声だった。アーリーさんに背中を押されながら、肉の包みを台所のテーブルに置いて、そのまま村長の部屋に向かう。
「村長。ヨウスケ様がお戻りになられました。」
アーリーさんがノックとともに声をかける。
「入ってもらいなさい。」
中から、村長の声がした。ほかにも人がいる気配がする。俺は、アーリーさんの後ろから、イシャとともに部屋に入った。
「どうしました?何か慌てているようですが?」
部屋に入ると、村長は正面の机に向かって座り、机の前の小さなテーブルにグリッツさんとシラックさんが付いていた。何やら深刻そうな雰囲気だ。
「実は、問題が起こってな・・・」
歯切れ悪く、村長が答える。隣のグリッツさんもシラックさんもうつむいたままだ。
「領都から今年の闘技大会について、知らせが来たのじゃ。それによると、領都大会への参加者が、今年は5人で1組のチームになるそうだ。今までは、各村から10人が領都大会に出場し、その中から勝ち残った10名がイーファンド地区大会に出場、その中でさらに勝ち残った10名が王都大会に出る、という仕組みだった。しかし、今年はベナン男爵の領地の村は全て5人1組のチームの参加となるらしい。つまり、村で1チームしか出場できない訳じゃ。もちろん、その1チームが負ければその村はおしまいになる。領都からは特別に2チームが出場するそうじゃ。」
「なんと、それは、不公平もは甚だしい。抗議はしたのですか?」
「抗議はしてみるが、領領大会が2か月後の8月下旬の開催じゃ。今は6月の始め。今から抗議しても、返事が来るのは10月からもっと遅くなる。到底間に合わん。」
「どうして、こんなルール変更が行われたのですか?」
「表向きは。今までの参加者の活躍を考えた、となっている。確かに、ここ10年ほどは、ベナン領からイーファンド地区大会に出場した者は、ほとんどが領都ベナランの選手じゃ。なので人数を絞ったという理由になっている。また、領都ベナランの経済状況がよくなく、大勢の選手を引き受けられないとも書いてある。しかし、本当の理由はこのダヒトの村じゃな。この村がヨウスケ殿の指導で急に強くなったことは、この前の道場破りのことで、あちこちで噂になっている。領都ベナランの首脳部は、今まで弱小だったダヒトの村が勝ち上がることが面白くないんじゃろう。」
村長は苦しそうに語った。俺は、完全に頭に来た。あの道場破りのターミルさんが、この村のことを領都に知らせたのだろう。強さ=豊かさをうたう国で、強さに対して機会を制限するのは明らかな差別だ。この村には、上・中級者となり、領都大会の候補となるものは20人いる。彼ら・彼女らに機会を与えない仕組みは間違っている。
「では不肖、私が領都大会に出ます。」
こうなったら、領都とやらで思い切り暴れてやる、そんな気持ちになった。
「それが、そうもいかんのです。領都大会参加者は、その村や町の出生届が必要です。その村に生まれた者しか参加はできないようになっているのです。」
グリッツさんが申し訳なさそうに言う。
「そうですか。では、上級者に村内大会を2位で勝ち上がった10人を加え20人の中から5人を選びましょう。補欠の制度はあるのですか?」
「うむ。各村に5人の選手と補欠の2名が認められている。」
「補欠も含めたメンバーの入れ替えは、認められていますか?」
「うむ。特に規定はないようじゃ。試合ごとに、メンバーを入れ替えることも可能じゃろう。」
「それなら、まだ、チャンスはあります。20名を鍛えて、最強の団体チームを作りましょう。私が監督になってもよいですか?」
「うむ、監督はこの村生まれでなくてもよいという規定がある。」
俺の湯あみ計画は吹っ飛んで、団体戦強化計画を始めることになった。




