再会
──陰巫女修行も十日ほど過ぎた頃、さくら姫はついにいおりから一本を取った。
「やった、一本取ったぞ」
「お見事」
「さあ、約束じゃ。平助に会わせてもらおうか」
「そんな約束しましたっけ」
「とぼけるな」
さくら姫がむきになって言うので、いおりはけらけらと笑う。
「嘘よ。ちゃんと覚えてます。では、着替えて行きましょうか」
稽古用の巫女装束を脱いで湯浴みをしたあと、着物に着替える。
「総髪だから、どこかの若内儀みたいね」
「いおりもじゃな」
※ ※ ※ ※ ※
神社を出て、少し離れたところにある下屋敷に着いた。
「平助ー、いるー」
いおりの呼びかけに、奥から出てきたのは──林太だった。
「林太ではないか。どうしてここに」
「姫様、そちらこそどうしてここに。それに、そちらは……」
ふたりはそろって、いおりを見た。
「佳乃様に口止めされてたのよ。さくらの気を散らさないようにって」
その声で、林太は誰だか分かった。
「え、いおり様ですか」
「そうよ。どうしたの」
「だって……ずいぶんと細くなったというか、痩せたというか……」
そう、ここひと月近くさくら姫の稽古につきあったおかげで、いおりは別人のように痩せ、見違えるほど美しくなっていたのだ。
「そんなに痩せたかしら」
そう言いながら、しなをつくる。
「ええ。というか、分かってたでしょう」
「ふふーん。そりゃ、着物がぶかぶかになってたしね。さくらのおかげかしら」
その言葉の裏の意味に気づいて、林太は思わず手で口を押さえ、うつむいた。
さくら姫も気づいてしまい、口をとがらせる。
「ふん、じゃ。──で、平助は」
「平助なら裏で薪割りしてますよ。呼んできます」
林太が行こうとすると、いおりが呼び止めた。
「いいわ、私が行ってくる」
足取り軽く裏へと回るいおり。おそらく平助も驚かせようとしているのだろうと、ふたりは思った。
「で、林太は何ゆえここにおるのじゃ」
「平助とクラの旦那のせいですよ」
「なに、クラもいるのか」
「ええ。今は知り合いの鍛冶屋に手伝いに行っていて、留守ですが」
「なんと、なんと」
行方知れずとなっていたクラまでいたとは、さくら姫も驚きを隠しきれなかった。
「……姫様、御親戚とはいえ他の領です。要らぬことは話していないでしょうね」
心配性の林太が、小声で問いかける。
要らぬことがどれを指すのか分からないさくら姫は、しばらく考えてから、たぶん話していないと答えた。
「林太の方はどうじゃ」
「俺も気をつけていましたが……平助が漏らしてしまいました。それと、クラの旦那にも何か隠し事があるようです」
「それはたぶん『黄昏の森』のことじゃろう」
「どうします」
「ふむ……とりあえず、余計なことは話さないように。そうなったら、わらわが話すことにする」
「わかりました」
ふたりで軽く打ち合わせを終えると、裏から庭先へと駆け足の音が聞こえてきた。
「姫様ぁ〜」
屈託のない、いつもの笑顔の平助が駆け寄ってくる。無事を確認して、ようやくさくら姫は安堵した。
「やはり生きておったか、平助。心配したぞ」
さくら姫の言葉に、平助は足を止めた。
「え、俺いら死んだことになってるの」
「表向きはな。いおりには話してあるから、何があったか聞かせてやろう」
そうして四人は、額を突き合わせて話し合うことになった。
※ ※ ※ ※ ※
下屋敷の奥の部屋に移り、襖や障子を閉め切ろうとしたが、残暑厳しい季節である。結局、開け放したまま、互いに近寄って小声で話すことにした。
まずは林太が、「平助は話すのが苦手だから」と代わりに説明する。
その内容は、いおりから聞いた話と同じだった。
──ふぅむ、平助に何かあったが、いおりには話していない。もしくは、わらわに話せないことがあるようだな──
「……そこで、おたえの処遇に困ったふたりは、俺のところに来たというわけです」
林太がちらりと平助を見て、平助はこくこくと頷いた。
「なるほど。で、林太は」
「三冬家老様の配下である朝月様の下で働いていたのですが、佳乃様とたまたま会いまして、壱ノ宮領との縁ができました。いおり様とはそこで会いまして──」
そのあとを、いおりが引き継いだ。
「おたえちゃんの処遇に困っているというので、佳乃様に相談したら、壱ノ宮領で匿ってやるという話になったの。で、平助が仕事を放り出しているから一緒に匿って、ついでに林太も連れてきたの」
「……端折られましたが、概ねそのとおりです」
林太は出世の道を塞がれたことを思い出し、平助を睨みつける。
それを感じて、いおりは話をそらそうと、さくら姫に何があったのかと尋ねた。
「わらわか。そうさのう……ふたりと別れてから、きさらぎによる稽古漬けの毎日じゃったが、瀬月家老頭から平助が死んだと聞かされてな」
「え、そうなの」
「うむ。それも、弐ノ宮の巫女と入水心中したとな」
「ええ〜、俺いら、心中なんかしないよ。だいたい弐ノ宮に巫女なんかいないじゃん」
林太が平助の頭を叩いた。
「話の腰を折るな。黙って聞いてろ」
「うん……」
「姫様、続きをどうぞ」
そう言いながら、林太はさりげなく平助のそばに寄る。
「うむ。それを聞いて、矢も楯もたまらなくなって城を抜け出し、弐ノ宮へ向かった」
「またやったんですか」
「仕方なかろう。それに、これは瀬月家老頭のたくらみじゃったしな」
「どういうことです」




