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巫女姫剣士浪漫譚 さくら姫 舞う  作者: 藤井ことなり
第二章 それぞれのひと月
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再会

 ──陰巫女修行も十日ほど過ぎた頃、さくら姫はついにいおりから一本を取った。


「やった、一本取ったぞ」


「お見事」


「さあ、約束じゃ。平助に会わせてもらおうか」


「そんな約束しましたっけ」


「とぼけるな」


 さくら姫がむきになって言うので、いおりはけらけらと笑う。


「嘘よ。ちゃんと覚えてます。では、着替えて行きましょうか」


 稽古用の巫女装束を脱いで湯浴みをしたあと、着物に着替える。


「総髪だから、どこかの若内儀みたいね」


「いおりもじゃな」


※ ※ ※ ※ ※


 神社を出て、少し離れたところにある下屋敷に着いた。


「平助ー、いるー」


 いおりの呼びかけに、奥から出てきたのは──林太だった。


「林太ではないか。どうしてここに」


「姫様、そちらこそどうしてここに。それに、そちらは……」


 ふたりはそろって、いおりを見た。


「佳乃様に口止めされてたのよ。さくらの気を散らさないようにって」


 その声で、林太は誰だか分かった。


「え、いおり様ですか」


「そうよ。どうしたの」


「だって……ずいぶんと細くなったというか、痩せたというか……」


 そう、ここひと月近くさくら姫の稽古につきあったおかげで、いおりは別人のように痩せ、見違えるほど美しくなっていたのだ。


「そんなに痩せたかしら」


 そう言いながら、しなをつくる。


「ええ。というか、分かってたでしょう」


「ふふーん。そりゃ、着物がぶかぶかになってたしね。さくらのおかげかしら」


 その言葉の裏の意味に気づいて、林太は思わず手で口を押さえ、うつむいた。


 さくら姫も気づいてしまい、口をとがらせる。


「ふん、じゃ。──で、平助は」


「平助なら裏で薪割りしてますよ。呼んできます」


 林太が行こうとすると、いおりが呼び止めた。


「いいわ、私が行ってくる」


 足取り軽く裏へと回るいおり。おそらく平助も驚かせようとしているのだろうと、ふたりは思った。


「で、林太は何ゆえここにおるのじゃ」


「平助とクラの旦那のせいですよ」


「なに、クラもいるのか」


「ええ。今は知り合いの鍛冶屋に手伝いに行っていて、留守ですが」


「なんと、なんと」


 行方知れずとなっていたクラまでいたとは、さくら姫も驚きを隠しきれなかった。


「……姫様、御親戚とはいえ他の領です。要らぬことは話していないでしょうね」


 心配性の林太が、小声で問いかける。


 要らぬことがどれを指すのか分からないさくら姫は、しばらく考えてから、たぶん話していないと答えた。


「林太の方はどうじゃ」


「俺も気をつけていましたが……平助が漏らしてしまいました。それと、クラの旦那にも何か隠し事があるようです」


「それはたぶん『黄昏の森』のことじゃろう」


「どうします」


「ふむ……とりあえず、余計なことは話さないように。そうなったら、わらわが話すことにする」


「わかりました」


 ふたりで軽く打ち合わせを終えると、裏から庭先へと駆け足の音が聞こえてきた。


「姫様ぁ〜」


 屈託のない、いつもの笑顔の平助が駆け寄ってくる。無事を確認して、ようやくさくら姫は安堵した。


「やはり生きておったか、平助。心配したぞ」


 さくら姫の言葉に、平助は足を止めた。


「え、俺いら死んだことになってるの」


「表向きはな。いおりには話してあるから、何があったか聞かせてやろう」


 そうして四人は、額を突き合わせて話し合うことになった。


※ ※ ※ ※ ※


 下屋敷の奥の部屋に移り、襖や障子を閉め切ろうとしたが、残暑厳しい季節である。結局、開け放したまま、互いに近寄って小声で話すことにした。


 まずは林太が、「平助は話すのが苦手だから」と代わりに説明する。


 その内容は、いおりから聞いた話と同じだった。


──ふぅむ、平助に何かあったが、いおりには話していない。もしくは、わらわに話せないことがあるようだな──


「……そこで、おたえの処遇に困ったふたりは、俺のところに来たというわけです」


 林太がちらりと平助を見て、平助はこくこくと頷いた。


「なるほど。で、林太は」


「三冬家老様の配下である朝月様の下で働いていたのですが、佳乃様とたまたま会いまして、壱ノ宮領との縁ができました。いおり様とはそこで会いまして──」


 そのあとを、いおりが引き継いだ。


「おたえちゃんの処遇に困っているというので、佳乃様に相談したら、壱ノ宮領で匿ってやるという話になったの。で、平助が仕事を放り出しているから一緒に匿って、ついでに林太も連れてきたの」


「……端折られましたが、概ねそのとおりです」


 林太は出世の道を塞がれたことを思い出し、平助を睨みつける。


 それを感じて、いおりは話をそらそうと、さくら姫に何があったのかと尋ねた。


「わらわか。そうさのう……ふたりと別れてから、きさらぎによる稽古漬けの毎日じゃったが、瀬月家老頭(爺)から平助が死んだと聞かされてな」


「え、そうなの」


「うむ。それも、弐ノ宮の巫女と入水心中したとな」


「ええ〜、俺いら、心中なんかしないよ。だいたい弐ノ宮に巫女なんかいないじゃん」


 林太が平助の頭を叩いた。


「話の腰を折るな。黙って聞いてろ」


「うん……」


「姫様、続きをどうぞ」


 そう言いながら、林太はさりげなく平助のそばに寄る。


「うむ。それを聞いて、矢も楯もたまらなくなって城を抜け出し、弐ノ宮へ向かった」


「またやったんですか」


「仕方なかろう。それに、これは瀬月家老頭(爺)のたくらみじゃったしな」


「どういうことです」

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