再会 二
「あとで話す。そこで、心中話はでたらめだとわかった。じゃが、黒……爺の配下に追いつかれてな、そのまま城の地下牢に放り込まれたのじゃ」
「なんと。地下牢とは厳しい沙汰を……」
「それも爺のたくらみの内よ。わらわは暗殺されかけていたのじゃ」
「そうですか……って、えっ、暗殺ですと」
さすがに林太も驚いた。
「いおりも佳乃様も知っているから話すが、後の曲輪殿がな、わらわが婿を迎えて瀬鳴家の跡を継ぐと勘違いしおったのじゃ」
驚く平助と林太に、さくら姫はそうなった経緯を話した。
「ははぁ、噂がもとでそのようなことに……なんとも女は……」
途中で林太は口を閉じた。が、すでに遅し。いおりとさくら姫に睨まれてしまった。
「んん、それで何故、地下牢へと」
「爺め、わらわを囮にして暗殺の確証を掴もうとたくらんだのじゃ。その目論見は当たったのじゃが、少し外れた」
「何があったのです」
「放り込まれた初日から毒を盛られたのじゃ」
「なんと」
「助かったのは林太の手柄じゃな」
そう言うと、さくら姫は簪を手にした。くるりと捻ると、小さな棒が出てきた。
「さくら、それはなに」
いおりがしげしげと眺める。
「林太が細工してくれた簪でな、銀の棒が出てくる。これで毒見をしたら黒ずんだ」
「なんとまぁ……よく無事でいたわね」
「助かるまでの三日は生きた心地がしなかったぞ。終いには牢番が食べ終わるまで見張っておったからな」
「どうやって助かったのです」
林太が尋ねる。
「爺が来てくれたのじゃ。そこでようやく事の次第がわかっての。きさらぎとおたかが握り飯を持ってきてくれて、ようやく助かったというわけじゃ」
いおりがその後を話す。
「佳乃様が白邸領に着いたのは、そのときでね。まあ、怒るわ怒るわ……私も呆れたわよ。まったく、変わってないんだから」
いおりは、さくら姫のおでこを突いた。
「ふん、じゃ」
※ ※ ※ ※ ※
それから、壱ノ宮領へ連れてこられてずっと巫女修行をしていたことを話すと、今度は平助たちが何をしていたかを話した。
「まあ、何も大したことはしていません。平助は使いっ走りで、俺は書き物を。クラ殿は鍛冶仕事をしていました」
「そのクラはまだ帰ってこぬか」
「いつもは日暮れまで働いていますから。当分、来ないでしょう」
「そうか……」
さくら姫はしゅんとした。どうやら、クラに会いたがっているようである。
「そんなに会いたいの」
いおりが尋ねる。
「爺が絡んでいるとはいえ、逃げるようにいなくなってしまったでの。文句の一つも言ってやりたいではないか」
「おっさんは悪くないよ。瀬月様の話に乗っただけだよ」
不貞腐れているさくら姫に、平助がクラを庇うように言った。
「どういうことじゃ」
平助は、小屋をなくしたのは瀬月家老頭の考えだとクラから聞いたことを話した。
「おのれ爺め、それもそうじゃったか。許せん、爺の仲間ならクラも同罪じゃ。とっちめてやる」
憤るさくら姫を見て、林太が平助の頭をこつんと叩いた。
「みろ、余計なことを言うからクラの旦那に飛び火したじゃないか」
「ええ〜」
さくら姫が、クラに会うまで帰らぬと言いはじめたので、いおりは仕方なく佳乃に許しをもらいに神社へ戻ることにした。
「さくら、出かけては駄目よ。必ずここにいてよ。一歩も出ないでよ。下屋敷から出たら修行を増やすからね。わかった?」
くどくどと、それはそれはくどくどと言ってから、いおりは下屋敷を出ていった。
※ ※ ※ ※ ※
いおりを見送ったあと、さくら姫はため息をついた。
「あんなに言わなくてもよいではないか」
「日頃の行いでしょうねぇ」
いつもの三人になったので、林太が軽口を叩く。
「やかましい。……それで、どうなのじゃ。本当は何があった」
「と、言いますと」
「隠すな。事の始まりは弐ノ宮であろう。平助、おたえとはどうやって会ったのじゃ」
「どうって……」
平助は林太の顔色をうかがった。もうその様子だけで、隠し事があると言っているようなものなのだ。
どだい、さくら姫に敵うはずもないことは分かっていた。幼い頃からの付き合いである。
林太は諦めて、ため息をついた。
「仕方ありませんから全部話しますが、事はもう済んでいます。頼みますから、首を突っ込まないでくださいよ」
そう前置きしたあと、林太は弐ノ宮であったことを残らず話した。
「──ふぅむ、弐ノ宮の樹とかいったか、あの宮司。会うたことはあるが、あまり良い思い出はないな」
「会ったことがあるのですか」
「まあ、行事のついでにな。軽く挨拶した程度で、話らしい話はしておらぬが」
さくら姫はなんとか思い出そうとしたが、できなかった。それほど曖昧な相手である。
「武士と女子が嫌いというのは本当のようで、津入江などは半泣きでしたよ」
平助がそう言うと、さくら姫は顔をしかめた。
「あ奴、まだ生きておったか」
津入江のことは覚えているようで、不快そうに愛用の扇子をぺしぺしと叩く。
「ともかく、姫様」
林太が真面目な顔で迫る。
「事は神社の領域、すでに瀬々様と大殿の耳に入っております。近いうちに寺社奉行が動くでしょうから、余計なことをなさらぬように。いいですか」
あまりの気迫に、さくら姫は「わかった」と言うしかなかった。
──まあ、寺社奉行が動くなら、あ奴にも眞金にも耳に入ろう。あとで何があったか訊くとするか──
さくら姫はそう思って、諦めることにした。




