巫女修行 五
湯浴みを終えた三人は、着替えて佳乃の部屋へと移った。
そこであらためて、さくら姫は『試し』について佳乃に尋ねた。
「『神通力』というのは、神々から御力を借りて人が使うものなのだが、そこには相性というものがある。
『試し』というのは、眞金を使い、『才』があるかどうか、つまり神々との相性を試すものなのだ」
「……わらわは、それをした覚えがないのじゃが」
それには、いおりが答えた。
「陰巫女修行のときに、木刀ではなく、刃引きした真剣で試しをしたことがあるでしょ。あれは眞金でできていたの」
「なんと」
「『才』があると眞金が変化して、相性のよい神々がわかるの。そして、その神様と『契』を結ぶのよ」
「いおりも『契』を結んでおるのか」
「ええ。湧き水の女神、ナキサワメ様とね」
「ということは、『神通力』とかいうものが使えるのじゃな」
「さくらには見せたことないけどね」
「なんじゃ、使っているから強いと思っておったのに」
さくら姫は不貞腐れた。
「『才』がなくて不服か」
佳乃がさくら姫に尋ねる。
「いや、別に。……ふむ、あったものがなくなると悔しいが、もともとないものなら悔しゅうないな」
「本心か」
「わらわには仲間がいますから」
あっけらかんと言うさくら姫を見て、いおりは、平助たちのことを言っておるのだろうと思った。
「まあ、気落ちしておらぬなら、それでよい」
佳乃は少し安堵した顔になった。
──……しかし、さくらに『才』がないなど、ありうるだろうか。瀬鳴家は水祭祀家の血筋であるし、母はあの『葵の君』であるのに……いかん、頭が痛くなってきた。考えるのはやめよう……──
佳乃はそうして、またしても考えるのをやめた──。
※ ※ ※ ※ ※
『才』がないとはいえ、修行をしなくてよいわけではない。
さくら姫が巫女修行と陰巫女修行を続けていたある日、ふたりの男女が真清田神社を訪れた。吾平となかであった。
下屋敷の庭先で佳乃はふたりに会うと、いきなり叱責した。
「吾平とやら、賭博に明け暮れて娘を売り飛ばしたというが、本当か」
「へ、へへぇ」
領主からいきなり厳しい言葉を浴びせられ、吾平は土下座して恐縮した。
「ならば、おたえを返すわけにはいかぬな。おたえは儂が引き取る。また売り飛ばされるかもしれぬと、びくびくしながら暮らすよりましであろう」
「そ、そんな」
隣で同じく土下座していたなかが、思わず顔を上げた。
「やっと、やっと娘に会えると思ってここまで来ましたのに、あんまりです」
「なかといったな。ならば、お主もここに住むがよい。博打をするのは吾平であろう。此奴だけで独り暮らしさせればよい」
「領主様、ご慈悲を、ご慈悲をお願いします。たしかに、うちの人はどうしようもないろくでなしです。けど、けど、こんなんでもあたしの亭主で、おたえの父御なんです」
「父御でありながら娘を売るような輩だぞ。しかも、博打のかたとしてな」
「もう、もう、博打はやめさせます。あたしが命にかえてもやめさせますから。どうかご慈悲を」
なかは頭を下げ、地面にこすりつけるようにして佳乃に願い出た。その目からは涙があふれ出ていた。
その様子を見て、吾平もようやく、自分のしでかしたことがどれほど酷いことだったのかと思い知ったようで、同じく地面に頭をこすりつけた。
「わしが、わしが悪うございました。もう二度と博打はしません、きっぱりやめます。だから、おたえを返してくださいまし」
ふたりの様子を見て、佳乃は冷ややかに言った。
「ならぬな。博打は三日もすればやりたくなると言うではないか。娘を売るまでのめり込んだお主を、信用するわけにはいかぬ」
「そ、そんな」
「もう二度と博打をしないと誓うか」
「は、はい」
「ならば、その腕をもらおうか」
「は、えっ」
「人は痛い目にあわなければ変わらぬ。娘を売った罰として、左腕をもらおう。さすれば思い知るだろうからな」
「え、ええ〜」
物陰に隠れていた巫女が数人やってきて、なかを遠ざけると、吾平を取り押さえた。
「儂みずから斬り落としてやろう。刀を持て」
「領主様、ご慈悲を、ご慈悲をぉ」
「あんた、あんたぁ」
泣き叫ぶ夫婦をよそに、佳乃は刀を手にして庭に降りてきた。
「やだやだやだやだ」
「あんた、あんた、あんたぁ」
佳乃が刀を抜きかけたとき、おたえが飛び出してきた。
「とうちゃん、とうちゃ〜ん」
「おたえ、おたえ」
「おたえ、おたえぇ」
おたえは吾平にしがみついた。
「おたえ、離れぬか。これでは斬れぬ」
「やだやだやだやだ、とうちゃんをいじめないでぇ」
「吾平、売られてもこんなに懐いておる。こんな孝行娘を売ったのだぞ、お主は」
「ううぅ、すまねぇ、すまねぇ、おたえ。もう博打はやめる。おまえに誓って、もうやめる」
「吾平、必ずだな。必ずや博打をやめるのだな」
「は、はいぃ」
佳乃は抜きかけた刀を鞘に戻し、巫女に手渡した。
「ならば見逃してやる。だが、また博打に手を出したら、そのときは問答無用で手打ちにしてくれるからな」
「は、ははぁ」
巫女たちは離れていき、吾平、なか、おたえは互いに抱きしめ合いながら、いつまでも泣きじゃくっていた。
※ ※ ※ ※ ※
「──とまあ、そうなったそうよ」
その夜、いおりがさくら姫に事の次第を話した。
「佳乃様もなかなか芝居が上手いの。まあ、これで心を入れ替えてくれればよいか」
収まるところに収まり、さくら姫は安堵した。
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