巫女修行 三
道場でごろんと大の字になって休んでいるさくら姫も、考え込んでいた。
「いおりの戦い方は変わっていたのぅ。回ってばかりであった。何か意味があるのじゃろうか……」
──幼い頃、壱ノ宮領で佳乃自ら稽古をつけてくれた。
その時はがむしゃらに打ち込み、佳乃が隙あらば打ち返してくるというものだった。
白邸領に戻ってからは、瀬月がそれではいかぬと型を教えてくれた。前より強くなったと自負している。
だが、今日はまるで通じなかった。
「陰巫女というのは、皆ああなのだろうか」
そこへ、いおりが湯呑みを持って戻ってくる。
「どうだった。初めての稽古は」
「ふん。いおり、ひとつだけ教えてくれ。平助は生きておるのじゃな」
「ええ」
途端、さくら姫は跳ね起きた。
「ということは、平助の居場所を知っているのだな」
「知ってるわよ。とりあえず、何があったか教えてあげる」
いおりが湯呑みを差し出す。それを受け取ったさくら姫は、早く聞きたいとばかりに一気に飲み干した。
「さあ、教えてくれ」
「慌てないの。実はね……」
いおりは、平助が父親に売られた幼女のおたえを女衒から取り返したものの、どうしたらいいか分からず、林太に相談しに来たことを話した。そして、佳乃の采配により、林太とともに壱ノ宮領へ連れてきていることも伝えた。
「そのまま返すと、また売られるかもしれないから、佳乃様が親御さんと話し合いをするつもり。それまで平助たちが相手をしているわ」
「おたえは知っておる。吾平となかの子じゃな。そんなことになっているのか」
口ではそう言いながらも、さくら姫は話が食い違っていることに気づいていた。
──ふぅむ、何故違うのか確かめてみたい。じゃが、何処にいるか分からない。となると、いおりに会わせてもらうしかないの。ならば、この一本を取ることが先決ということか──
さくら姫は俄然やる気を出し、陰巫女修行に励むことになった。
※ ※ ※ ※ ※
とはいえ、相変わらずいおりは強い。
火の位で攻めれば受け流され、水の位で待ち構えれば攻め落とされる。
三日後、さくら姫は我慢の限界に達していた。
「ええい、やめじゃ、やめじゃ。どうしても勝てぬわ」
「情けないわねぇ。もう諦めるの」
「せめて型を教えよ。陰巫女とやらの修行ではないのか」
不貞腐れてぶんむくれのさくら姫に、いおりはやれやれといった様子で答える。
「もう教えているわよ」
「聞いとらん」
「言ったでしょ、下地が大事だって」
「それがなんじゃ」
「まったくもう……ちゃんと見てなさい」
そう言うと、いおりはその場で木刀を持ち、舞い始めた。
不貞腐れながら見ていたさくら姫は、だんだんと何かに似ていることに気づいてきた。
「あ」
さくら姫はようやく気づいたのか、いおりと同じように木刀を持って舞い始めた。その動きはいおりと同じであった。
「ようやく気がついたわね」
舞い終わり、いおりが言う。
「巫女舞か。巫女舞がそのまま型となっていたのじゃな」
「そのとおりよ。壱ノ宮領は水祭祀家からの分社でもあり、水の神を祀っているの。ゆえに、巫女舞は水の位を踏まえた舞いとなっている。静かに飲み込む『静呑の舞い』と、激しく波打つ『激涛の舞い』があるの」
「なるほど。表の巫女修行でやる巫女舞が、すでに陰巫女の修行となっておったか」
「ね。下地が大事でしょ」
そうと分かれば、さくら姫の成長は早い。
多くの巫女舞を覚えるのは面倒だと捉えていたが、意味があると知ると、俄然前向きな姿勢になった。
言われたからやるのと、覚えたいからやるのとの違いを、他の巫女たちはまざまざと見せつけられた。
※ ※ ※ ※ ※
「さくらのやる気が伝染ったか、他の巫女たちもやる気に満ちているようだな」
いつもの晩酌をしながら、佳乃はいおりの報告に満足げに言う。
「ほんに、あの子は周りを巻き込む運命の下に生まれてきたようです」
「たしかに。──それで『試し』の方はどうだ」
「はい。さり気なくやらせてみましたが……」
いおりが言い淀む。
「何かあったのか」
「あったといえばそうなのですが……。大抵は『試し』をすると相性が分かるか、何も起きないのですが、さくらは腹が痛いと言うのです」
「腹が、だと」
「はい。しかも、どうも子袋のあたりだと」
「ふぅむ……たしかに聞いたことがないな。それでどうした」
「とりあえず、やめました。すると痛みが引きまして……」
「つまり、『試し』のせいではないか、というわけだな」
「おそらく」
──『試し』、それは『神通力』という神々の力を使えるかどうかを知るための試験である。
「瀬鳴家も瀬々家も、もとは武士の家系で、水祭祀家から巫女を娶り、その子孫が『神通力』を使えるようになったという。
他にも、いおりたちのように、生まれ持った『才』によって『神通力』を使える者もいる。それらを仕分けるために『試し』を行うのだが……痛むというのは、初めてだな」
佳乃は思い返してみたが、やはりそのような者はいなかったと思い、首をかしげた。
「……診てもらおうかの」
「何をですか」
酌をしながら、いおりが尋ねる。
「水神様に、さくらを会わせてみる。何か分かるかもしれん」




