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巫女姫剣士浪漫譚 さくら姫 舞う  作者: 藤井ことなり
第二章 それぞれのひと月
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巫女修行 三

 道場でごろんと大の字になって休んでいるさくら姫も、考え込んでいた。


「いおりの戦い方は変わっていたのぅ。回ってばかりであった。何か意味があるのじゃろうか……」


 ──幼い頃、壱ノ宮領で佳乃自ら稽古をつけてくれた。


 その時はがむしゃらに打ち込み、佳乃が隙あらば打ち返してくるというものだった。


 白邸領に戻ってからは、瀬月がそれではいかぬと型を教えてくれた。前より強くなったと自負している。


 だが、今日はまるで通じなかった。


「陰巫女というのは、皆ああなのだろうか」


 そこへ、いおりが湯呑みを持って戻ってくる。


「どうだった。初めての稽古は」


「ふん。いおり、ひとつだけ教えてくれ。平助は生きておるのじゃな」


「ええ」


 途端、さくら姫は跳ね起きた。


「ということは、平助の居場所を知っているのだな」


「知ってるわよ。とりあえず、何があったか教えてあげる」


 いおりが湯呑みを差し出す。それを受け取ったさくら姫は、早く聞きたいとばかりに一気に飲み干した。


「さあ、教えてくれ」


「慌てないの。実はね……」


 いおりは、平助が父親に売られた幼女のおたえを女衒から取り返したものの、どうしたらいいか分からず、林太に相談しに来たことを話した。そして、佳乃の采配により、林太とともに壱ノ宮領へ連れてきていることも伝えた。


「そのまま返すと、また売られるかもしれないから、佳乃様が親御さんと話し合いをするつもり。それまで平助たちが相手をしているわ」


「おたえは知っておる。吾平となかの子じゃな。そんなことになっているのか」


 口ではそう言いながらも、さくら姫は話が食い違っていることに気づいていた。


──ふぅむ、何故違うのか確かめてみたい。じゃが、何処にいるか分からない。となると、いおりに会わせてもらうしかないの。ならば、この一本を取ることが先決ということか──


 さくら姫は俄然やる気を出し、陰巫女修行に励むことになった。


※ ※ ※ ※ ※


 とはいえ、相変わらずいおりは強い。


 火の位で攻めれば受け流され、水の位で待ち構えれば攻め落とされる。


 三日後、さくら姫は我慢の限界に達していた。


「ええい、やめじゃ、やめじゃ。どうしても勝てぬわ」


「情けないわねぇ。もう諦めるの」


「せめて型を教えよ。陰巫女とやらの修行ではないのか」


 不貞腐れてぶんむくれのさくら姫に、いおりはやれやれといった様子で答える。


「もう教えているわよ」


「聞いとらん」


「言ったでしょ、下地が大事だって」


「それがなんじゃ」


「まったくもう……ちゃんと見てなさい」


 そう言うと、いおりはその場で木刀を持ち、舞い始めた。


 不貞腐れながら見ていたさくら姫は、だんだんと何かに似ていることに気づいてきた。


「あ」


 さくら姫はようやく気づいたのか、いおりと同じように木刀を持って舞い始めた。その動きはいおりと同じであった。


「ようやく気がついたわね」


 舞い終わり、いおりが言う。


「巫女舞か。巫女舞がそのまま型となっていたのじゃな」


「そのとおりよ。壱ノ宮領は水祭祀家からの分社でもあり、水の神を祀っているの。ゆえに、巫女舞は水の位を踏まえた舞いとなっている。静かに飲み込む『静呑の舞い』と、激しく波打つ『激涛の舞い』があるの」


「なるほど。表の巫女修行でやる巫女舞が、すでに陰巫女の修行となっておったか」


「ね。下地が大事でしょ」


 そうと分かれば、さくら姫の成長は早い。


 多くの巫女舞を覚えるのは面倒だと捉えていたが、意味があると知ると、俄然前向きな姿勢になった。


 言われたからやるのと、覚えたいからやるのとの違いを、他の巫女たちはまざまざと見せつけられた。


※ ※ ※ ※ ※


「さくらのやる気が伝染ったか、他の巫女たちもやる気に満ちているようだな」


 いつもの晩酌をしながら、佳乃はいおりの報告に満足げに言う。


「ほんに、あの子は周りを巻き込む運命(さだめ)の下に生まれてきたようです」


「たしかに。──それで『試し』の方はどうだ」


「はい。さり気なくやらせてみましたが……」


 いおりが言い淀む。


「何かあったのか」


「あったといえばそうなのですが……。大抵は『試し』をすると相性が分かるか、何も起きないのですが、さくらは腹が痛いと言うのです」


「腹が、だと」


「はい。しかも、どうも子袋のあたりだと」


「ふぅむ……たしかに聞いたことがないな。それでどうした」


「とりあえず、やめました。すると痛みが引きまして……」


「つまり、『試し』のせいではないか、というわけだな」


「おそらく」


 ──『試し』、それは『神通力』という神々の力を使えるかどうかを知るための試験である。


「瀬鳴家も瀬々家も、もとは武士の家系で、水祭祀家から巫女を娶り、その子孫が『神通力』を使えるようになったという。


 他にも、いおりたちのように、生まれ持った『才』によって『神通力』を使える者もいる。それらを仕分けるために『試し』を行うのだが……痛むというのは、初めてだな」


 佳乃は思い返してみたが、やはりそのような者はいなかったと思い、首をかしげた。


「……診てもらおうかの」


「何をですか」


 酌をしながら、いおりが尋ねる。


「水神様(みずかみさま)に、さくらを会わせてみる。何か分かるかもしれん」

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