壱ノ宮領へ 六
「何があったか林太、どうしたというのだ」
クラが必死にとめる。
「どうしたもこうしたもあるかー」
頭に血がのぼった林太に代わり、いおりが話す。
「あちゃあ、それはすまなかった。儂にも咎がある、気のすむまで殴ってくれ」
クラが土下座をしたあと殴られる姿勢となり、平助も横に並んだ。
いおりの取りなしもあり、殴ってもどうにもならぬと、林太は深く呼吸をして気を落ち着かせた。
「もういいよ。平助たちが来たときから、遅かれ早かれ巻き込まれると思ってたから」
林太の背中をさすりながら、いおりが静かに言う。
「佳乃様にお任せしましょう。大丈夫、悪いようにはならないわよ」
いおりの言葉に、「そう願いたいものだ」と言うと、部屋の隅へ行き不貞寝をきめこむ。
「あちゃあ、こうなるとは思わなかったなぁ」
平助が頭をかきながら肩を落とす。
「致し方ない。悪気はないんだ、林太にはいつかお返ししよう」
クラはそう慰めるしかなかった。
※ ※ ※ ※ ※
──その夜、城から戻ってきた佳乃にいおりが何があったかを話す。
「よいよい、男子とはそういうものだ。まあ何とかしてやるつもりだ」
佳乃の言葉に、我が事のように胸をなでおろすいおりであった。
そして平助とクラから聞いた、なにがあったか事の仔細を話す。
「ふむ、弐ノ宮に怪しげなことが起きているやもしれぬと」
佳乃は思案する。
──五祭祀家の血筋である樹ならば境内の草木を動かすくらいやれるだろう。儂も似たようなことができるくらいだからな。ただ幼い娘を集めているのは解せぬな。たしかに何か起きているやもしれぬ──
「さて、どうしたものやら……いおり、クラという者は“最後の大いくさ”に参じたと申したな。そして“眞金”を打つことができると」
「はい」
「ふむ、ならば三人から話を訊こうか」
佳乃はいおりとともに下屋敷へと向かう。
※ ※ ※ ※ ※
おたえとともにくつろいでいた平助たちのもとに佳乃がやってくる。
「これは佳乃様」
林太がまず居住まいを正し平伏すると、続いて平助が並び、慌ててクラもする。
きょとんとするおたえに佳乃は優しく呼びかけ、抱きしめて頭を撫でる。
「おたえや、案ずるでない。もうすぐ母御と父御に会えるからな」
そう耳元で囁くと、袂から御札を出しておたえの背に貼る。
すると、おたえはすやすやと寝息をたてはじめた。
「これでよい。御札を剥がすまでは寝たままだ。いおり、寝屋に連れて行くがよい」
いおりがおたえを運んでいき戻ってくると、佳乃は三人に話しかけた。
すでにいおりから弐ノ宮のことを聞かされているから、隠すことなくすべてを話すようにと。
※ ※ ※ ※ ※
「ふむ……。クラ殿」
「は、ははっ」
「我ら巫女や宮司というのは、人にあらざる御業を使えるのは知っておるか」
「はは。知っております」
「先ほどのおたえに使った御札などもそうだが、お仕えする神々の御業をその身を通して使える。
その名を”神通力“という。
つまり弐ノ宮の樹宮司も、境内の木々を操るくらいはできる、ということだ」
「はい」
「それゆえ、そこに関しては気にすることはないが、幼子の娘を集めているというのは、些か見過ごすことができぬな」
「はい」
「近々儂は壱ノ宮領へ戻る。その際、藩主様に願い出て白邸領をまわっていくことにする。理由はさくらの顔が見たいことにしてな。
そして、弾正と瀬月家老頭にそれとなく話しておく。あの御仁なら御主等の処遇も良い方に考えてくれるだろう」
平助たち、とくに林太の顔が明るくなる。
「というわけで、しばらく三人とも我が壱ノ宮領に身を寄せよ。いおり、あとは頼む」
それだけ言うと、佳乃はいおりとともに本屋敷へと戻っていった。
※ ※ ※ ※ ※
そして翌日、巫女のおひらとあやとともに平助達四人は壱ノ宮領へと旅立ち、佳乃は藩主、護廷義明に姪御に会う許可を求める。
「姪というと、さくらか。瀬々最高宮司が目に入れても痛くないほど可愛がってるという──そうそう、縁談相手を剣術試合で負かした姫御であったな」
藩主義明が笑うと、同席していた他の領主も失笑してしまう。瀬鳴弾正だけが苦笑いしていた。
かまわぬという許可をいただき、佳乃は翌日出立すると伝えた。
評定のあと、佳乃は弾正に事の次第を伝える。
「なんと、樹宮司めが怪しい動きを」
「そなたの領地ゆえ関わるのはよそうと思っていたが、五祭祀家の宮司がとなると、我ら宮司に関わることやもしれぬ」
「う、まさに」
「直接乗り込むと騒ぎが大きくなるやもしれぬから、あえて通り過ぎる。そなたは調べるように」
「あいわかり申した。……気を遣わせてすまぬな姉上」
「なに、互いに“最後の大いくさ”を生き抜いた戦友でもあるではないか。気にするな」
佳乃はそう言うと、城から戻り出立の用意をする。
翌日、駕籠に乗り白邸領に続く街道を進んだ。
※ ※ ※ ※ ※
「あれが弐ノ宮か。──たしかに様子がおかしいが……」
街道から東に離れたところにある、鬱蒼とした森を物見から覗く。
妙な気配がする──だが何が妙なのかは分からない──そんな感じだった。
「まあいい、瀬月殿に伝えれば何とかしてくれるであろう」
佳乃は伝えて終わり──のつもりだった。
だが、白邸城に着くとさくら姫が暗殺されかけて地下牢に入っていると知り、助け出さなくてはと感情的になり行動に出る。
その結果、瀬月家老頭に伝えるのを忘れてしまい、それに気がついたのは壱ノ宮領に入ってからだった──。
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