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巫女姫剣士浪漫譚 さくら姫 舞う  作者: 藤井ことなり
第二章 それぞれのひと月
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壱ノ宮領へ 二

「ここだよ、おっさん」


「すごいな平助、どこにも迷わず来れたぞ」


 半刻後、三人は瀬々屋敷の前に立っていた。


 正直、道に迷って人に尋ねるだろうと思ってたクラは、素直に感心する。


「へへー、俺(お)いらは考えるのは下手だけど、覚えるのは得意なんだ」


 自慢する平助に、クラはなるほどと思う。


 ──この義兄弟はうまく互いの良いところを補い合ってるんだな──


 そんなことを思ってると視線を感じた。あたりを見回すと、いつの間にか囲まれているのに気がつく。


 クラと平助は、クラが背負ったおたえを挟んで背中合わせとなる。


「怪しい奴、何者か」


 囲んでいるのは皆巫女ばかり。壱ノ宮領の者どもと一目で分かった。


「平助、挨拶せんか」


「えぇ、俺いらがぁ」


「儂はただの鍛冶屋だ。おぬしは白邸領の与力だろうが」


 それもそうかと平助は挨拶をする。


「怪しい者じゃないよ、リン兄の紹介でいおり姉ちゃんに会いに来たんだ」


 一瞬、間があったが、すぐさま言い返される。


「嘘をつけ。そのような身分の知り合いなど、いおり様にいるわけがない」

「口からでまかせを言うな」

「おおかたその娘を拐かして追われているのだろう、そして進退窮まってここに逃げ込もうとしたな」


「違う違う、本当なんだってば」


「聞く耳持たぬ。なんだその風体は。どうみても職人と乞食であろうが。さあ、その娘を放して大人しく縄につけ」


「ええぇ」


 巫女の言葉にお互いの格好を見るふたり。


「だからおっさん、身なりを気にしろと。姫様にも何度も言われたじゃないか」


「鍛冶屋が格好気にしてられるか。すぐ焦げ穴だらけになるわ。それより平助だろう、もっと武士らしい格好にしていないからだろ」


「しょうがないだろ、髷の鬘(かつら)は無くしたし、ここまで着替えてないしさ」


 「おっさんが」「平助が」「おっさんが」「平助が」と互いに責め合う。


「ええい、何をごちゃごちゃと。さっさとその娘を離さんか」


 どうしようと困っている平助にクラは言う。


「平助、前に儂に正体を教えたやり方だ。作法に則って挨拶するんだ」


「あ、そうか」


 平助は懐から紹介状を取り出し、作法に則って差し出す。


「恐れ入ります、手前は白邸領の与力、高見平蔵と申します。これは同僚の高見林太郎よりの紹介状となります。どうぞお改めを」


 風体はともかく、作法は武士のそれに則ったもの。巫女たちは戸惑った。


 その時だった。


「何を騒いでおる。領主様の登城なるぞ、道を空けぬか」


 通用門から出てきたのは恰幅の良い巫女、いおりだった。


「いおり様」


 巫女達は大門から離れて列となり控える。


「いおり姉ちゃん……」


 平助が、ばぁっと明るくなってそっちを見る。が。


「……どこに」


 目の前にいるいおりを無視して、きょろきょろとあたりを探す。


「平助、ここだ。私だ私」


 いおりが自分を指さす。


「……違うよ。俺いらが知ってるいおり姉ちゃんはもっと痩せてるもん、そんなに肥ってないもん」


 平助の無垢な言葉に、いおりはこめかみをぴくぴくさせ、それを見た巫女たちは顔面蒼白となる。


「……そうか、平助、よっくわかった。皆のもの、この不埒者を懲らしめてやれ」


 怒り心頭のいおりを見て、平助はようやく子供の頃よく怒られたいおりと重なった。


「え、え、え、本当にいおり姉ちゃんなの」


「知るか。お前なんぞ知らん、知らんと言ったら知らん」


 何となく事情を飲み込めたクラが、平助の頭を掴んで下げさせる。


「いおり殿ともうしましたか。儂は鍛冶屋のクラと申します。平助の無礼は謝りますので、どうか御容赦を」


 クラも頭を下げる。だがいおりはそっぽを向いたままである。


「まいったな、怒らせてしまったぞ。どうしてくれる平助」


「えぇ〜、だってこんなに変わってるなんて思わなかったもん〜」


 どうしたものかと思っていると、屋敷の大門が静かに開く。そしてそこから巫女が数人で担いだ朱色の駕籠が出てくる。


「止まれ」


 駕籠が止まり、物見が開く。


「近ごろ珍しいな。平助、元気にしていたか」


 その声に平助はぎくりとする。恐る恐るそちらを見て、すぐさま土下座した。


「ご、ご、御無沙汰をしております、佳乃様」


 震える声で挨拶をする平助に、ぽかんとするクラだが、領主の名前だと分かると同じく土下座した。いおりも控える。


「聞こえていたぞ。平助、ちゃんと謝るように。いおりも許してやれ」


 愉快そうに佳乃が言うので、いおりは少し頬をふくらませながらも、はいと返事をした。


「いおり、今日はよい。平助達の面倒を見てやれ。誰か他の者に代わるがよい」


「はい。あや、おひら、代わりに世話を頼む」


 そう言うと、先ほどの巫女達からふたりが立ち上り、駕籠の後ろに並ぶ。


「では、あとでな」


 そう言って物見を閉めると、駕籠は城へと進んでいく。角を曲がったところで、巫女達は解散しそれぞれの部所へと向かった。


 いおりは大きくため息をついたあと、つかつかと土下座している平助の前に立つと、拳骨で平助の頭を叩いた。


「いっ痛てぇ……、あ〜間違いなく、いおり姉ちゃんだぁ」


「やっと分かったか。まったく。ほら、立って。そちらも」


 いおりにうながされて三人とも立った。


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