新たな事件
確かにあの時のおっさんだ。飯でも食おうと言って別れてそのまま忘れていた。
結構な大金を得て新しい商売でも始めると言っていたのにどうして浮浪者にジョブチェンジしているのか。
理由を聞いてやろうと思い近づいていく。
俺たちを見るとおっさんはすぐに気がついて言った。
「あ!アンタら!やっと会えたぜ!頼む!助けてくれ!!」
絶対俺たちのことを探してないおっさんが言う。頭を下げてきたおっさんを冷たい目で見下ろす3人。
「新しい商売始めるって言ってたよな? なんで路上で物乞いやってんだ?傷だらけの汚ねぇ格好で。俺、結構な大金上げたよな?」
「聞いてくれ!騙されちまったんだ!俺は被害者なんだよぉ…」
「あ?何だ、それ」
「聞いてくれ!」
なんか面倒事になりそうな気配を感じながらも聞いてやる事にした。
「まずな。俺はアンタらに言った通りアレナで新しい商売を始めようと思ったんだ。
数日かけてここにある色んなモノを物色してたんだけどよ。そしたらある露店で疲れを吹っ飛ばす秘薬ってのが売られてたんだ。ほんの少しの量で疲れをとっちまうってんだから驚きだったさ!俺はそれを商売にしようと思ったわけ。今アレナは国を建て直す為に皆忙しいだろうから売れると思ったんだよ。で、それを大量に仕入れられないか露店の兄ちゃんに聞いたらいくら払えるのか聞いてきたんだ。闘技大会でアンタにかけて手に入れた金とアンタからの報酬、合わせて大金貨7枚を見せたら仕入れ先を紹介してやるって言われてよ。で、その店に行ったんだ。そしたら…」
「怖いおじちゃんに囲まれて有り金全部持ってかれた?」
「…うん」
「馬鹿じゃないの?疲労がポンと飛ぶお薬なんてソレに決まってんじゃん」
「このおっさん救いようが無いですよ」
「ここまでパーだとは思わなかった。エストリー。血吸っていいぞ?」
「ヤダよ!マズそう。っていうか臭そう」
「それもそうだな。でも、この武封国に麻薬が出回っているってのはちょっと意外だ。公認されてんのか?後でカリムにでも聞いてみよう。で?おっさんは何をして欲しいわけ?」
「奪われちまった金を取り戻してくれ!」
「寝言は寝て言え! 麻薬を他国に流そうとしたら元締めのヤーさんに邪魔されたって、タマ取られなかっただけ大分マシじゃねぇか!カリムに聞いてその組織が潰すべきってんなら手伝うかもしれないが、お前の金を取り戻すとかあり得ないわ!」
「そうだよ。おっさん。馬鹿なの?その時に死んだ方が良かったんじゃないの?」
「ひでぇ!一緒に旅した仲じゃねぇか!」
「そこまで良くする理由は無いんだよなぁ… 反省しろよ。アレナに帰りなさいよ。一応それまでの金はあげるからさ」
「お!マジかよ? サンキュー!」
俺はおっさんの手に大銅貨1枚をくれてやる。
「え?これだけ?」
「図に乗るなよ、たこ。カリム経由のカリノフ宛にお前が麻薬をアレナで売ろうとしてた事言うぞ?」
「調子乗った事言って申し訳ありませんでした! ありがたく頂戴します!」
「もうちょっと考えて生きよう。あと、これからお前の生活で俺の名前出して何かしたら殺すから。そのつもりで」
<潜蛇>でおっさんの首をマフラーのように蒔いて言う。
おっさんは微かに首を立てに動かした。
「あと何かおごってやるからさ。こんな別れはちょっと寂しいが、流石に無いわ。あ、その店の位置と店員の見た目、あと例の秘薬ってヤツの入れ物も教えてくれ」
露店からいくつかの食事をおっさんにあげて別れる。
「どうします?早速その店に行ってみますか?」
「いや。まずは拠点の確保だ。予定通りデルニオーラ屋敷に向かう」
麻薬の件はひとまず置いといて、屋敷に向かう。
屋敷の前には門番がいつも通りいた。
「止まれ。デルニオーラ様が戻られるまでこの屋敷に人を入れるなと命令を受けたのでな」
「これ、デルニオーラから預かった手紙だ。これを読んで使用人を一カ所に集めてもらいたい」
そう言ってデルニオーラに書かせた手紙を渡す。
内容は、デルニオーラが俺に戦争で負けたという事。殺させる事は無くこれからは自分の望みだった皇国の政治に関わるという事。そしてこの屋敷を俺に譲り渡すという事。そして使用人は俺の言う事を聞くようにという内容であった。
手紙を読んだ門番は血相を変え俺を屋敷の応接室に通し、使用人の中で一番偉いあの執事の元に向かった。
そして暫く待った後で俺が呼ばれた。
「デルニオーラ様からのお手紙を読ませて頂きました。これからはこの屋敷の主はゼロ様であり、我々の主もゼロ様になる、という事ですね?」
「そう書いてあるのか… でもデルニオーラに特別に忠誠を尽くしているヤツはアイツの元に行って構わないぜ?働けるなら何処でもいいなら残って欲しいけど。給料も以前より上げるつもりだ」
そんな感じで話をして、2割の使用人がデルニオーラの所、皇国へ行きたいと言ったので許可し、残りの奴らには引き続きここの管理を任せる事にした。
ちなみにこの屋敷は俺たちがいなくなった後はライデスにあげるつもりだ。
後は俺の知り合いを泊める宿代わりにしようかな。金をとろう。
思ったよりスムーズに話が進んだので例の麻薬売りの露店に行く事にした。
様々な店が並ぶ市場の一角にひっそりと店を構えている。
俺たちはそこそこ顔が売れているので注目されちゃうからこっそり見るのは難しい。
別の店の奴と話す振りをして店の様子を探る。何やら怪しげな連中がたむろしていて何を売ってんのかよく見えないな。
「エストリー」
「ん?」
「アホの子の振りをしてあの店に突撃しろ」
「あーい!」
言うや否や店に突撃するエストリー。
「ここは何を売ってるの?おにーさん?!」
「!! あ? なんだこいつ? ここはガキに売る物はねぇよ!」
高圧的に絡んでいる兄ちゃん。
しかし、取り巻きの一人が気付いた。
「こ、こいつ! もしかして幻想の魔女じゃないか?!」
「嘘だろ?! なんで俺たちに絡むんだ!」
「別に色んなお店を見ているだけだよー」
よし、俺も行こうかな
「いやー! うちの連れが申し訳ない!何にでも興味を持っちまうんだ!迷惑だったか?」
「!! 通り魔王!」
俺とフェリスの登場にますます迷惑そうな顔をする兄ちゃん。取り巻き共はもう逃げている。
「迷惑かけたから何か買わせてくれよ。お!これなんか奇麗だな!」
そう言って御者のおっさんが言っていた特徴と同じ小瓶にを手に取る。
「これ、いくらだい?」
「そ、それは!! 悪いが売りもんじゃねぇんだ…」
「はぁ?売り物じゃないのに幾つも並べてんのか?あり得ねぇだろ?それとも、俺には何も売れねぇってか?」
「そ、そうは言ってねぇよ!」
「あ〜。あれか、あえて金額を言わずに俺が自分で価格を決めて誠意を見せろってことか?仕方ねぇな… ほら。これでいいか?」
そう言って大金貨を一枚放る。
「これより高いことは無いだろ。じゃあ、また寄らせてもらうよ」
そう言ってカリムの屋敷に向かうべく歩き出す。
兄ちゃんは何も言ってこないが、相当焦った顔をしているな。
「はぁ。なんか厄介な事になりそうだな…」
「この忙しい時に自分から首を突っ込むなんてホント物好きですねー」
「うるさいな」
夕日を見ながら少しナーバスな気持ちになるゼロだった。




