閑話5;[教皇殺しの犯人][巫女を隷属させた者]
長いですが一話完結ということで大目に見て下さい!
[教皇殺しの犯人][巫女を隷属させた者]
これは俺にとっても思い出深い称号である。
あれはまだボヘミアがプレイヤー達に知られる前の事であった。
そしてこの事件が俺がギルドを持っているという事が広く知られるきっかけになる。
「ゼロさーん。どうしたんですか?そこの掲示板は冒険者ランクC以下の人用ですよ?」
ヘッドホンを付けた俺の耳に聞こえてきたのはQTで唯一と言っていい友好的な関係を築いているSランク冒険者だ。不吉を体現したかの様な見た目をしており、かなりの強者で古参である。
「いや。このクエストなんだが」
「どれです?」
俺は今自分が見ている物を見せる。そこに書かれていたのは公式が大規模に行おうとしているイベントだった。
『魔王に殺される運命にある巫女を救い神級装備を手に入れろ!
大変だ!教皇様が未来視をお使いになったら数ヶ月後に魔王が攻めて来るらしい!街の騎士だけじゃとても対処しきれない。なんとか冒険者の力を借りられないだろうか?
無事に教皇様と巫女様を救ってくれた冒険者には国に古くから伝わる伝説の装備を送らせてもらう!
イグアルムの街の城に魔王が攻めて来る!魔王を撃退し、教皇と巫女を救えば神級装備が手に入るぞ!
受注できるのはCランク以下、かつレベルが500未満の方になります。
イベント中は上記の条件以外のプレイヤーはイグアルムの街に入る事は出来ません。
強い装備を手にしたい方は奮ってご参加を!』
「これさ。魔王が殺す前に教皇と巫女殺したらどうなんのかなって」
「いや。私たち街にすら入れないんですよ?例の見えない壁です。飛行の魔法でも入れないんですから、絶対に無理でしょ?」
「いや。そうでもないっぽいんだよな…」
「え?」
「つーか、お前が地上に出てるなんて珍しいな。何か依頼を受けにきたのか?」
「そうなんです。ギルメンの素材集めを手伝ってあげる約束でして」
「へぇ。ちゃんとギルマスやってるんだ。意外だな」
「そりゃ、そういう立場になればやりますよ。こんな私を慕ってくれてますし」
「物好きだな。俺はこれからリアルで用があるから落ちるわ。またな、TKG」
「はい。また」
俺は一度ログアウトし、再びインして基本のリスポーン地点であるボヘミアに戻る。
そしてさっき見たクエストを”荒らす”為に考え始めた。
俺のようなマナ悪を排除する為の見えない壁。今回は運営も本気で来ていると見た。
しかし、俺の持ち物を見落としてやいませんかね?
「このボヘミアってどう考えても侵入禁止エリアの上飛んでるんだよなー」
QTには侵入禁止エリアは結構ある。というか、決められた場所からしか入れないって事が多いのだ。
魔神の城に2階の窓をぶち破って入れないし、天辺が雲の上にあって見えない山は麓か、良くて中腹まで飛んで進むくらいしかできない。
高く飛ぶ方法、例えば<韋駄天の下駄>を使って飛んでも見えない壁に阻まれる。
しかし、このボヘミアは何故か侵入禁止エリアを素通りでる事に気がついた俺は試しに地上から飛んでも入れない空間までにボヘミアで近づき、ボヘミアから飛び降りてみたのだ。すると何と言う事でしょう、入れてしまったのだ。
まぁ、普通に考えて進入禁止エリアが何処までも上に伸びていて浮遊島が一々それに引っかかって進路変更していたら浮遊島の存在意義というか、魅力?が薄れてしまう。
だから浮遊島には侵入禁止の上を飛べるってのは何となく理解できた。
それが島を制圧したプレイヤーにも適応されるのは仕様なのかバグなのか分からない。
別に制圧していなくても浮遊島にいるプレイヤーなら侵入禁止を受けないのかもしれないしね。
まぁ、ここに他人を呼ぶ事はないだろうけど。
こんな理由で俺は本来なら入れない筈のイグアルムに入れるのではないかと思ったのだ。というか、絶対入れる。
最初は低レベルプレイヤーより先に魔王を殺そうかと思ったのだが、魔王が巫女を殺すという文字を読んでピンと来たのだ。
これ、絶対に教皇と巫女にプレイヤーの攻撃が通るようになってるわ、と。
QTのいやらしいゲーム性の一つに、護衛任務中は護衛対象にもプレイヤーの攻撃が通るというモノがある。それ故に護衛クエストは総じて難易度が高く、また報酬が良い。敵に殺されるより自分で殺しちゃう事が多いのだ。
街の中にいるプレイヤーとNPCは基本は攻撃できないのだが、今回のクエスト内容と報酬の良さから言って救わなければいけない対象がこっちの攻撃でダメージを受けることは経験上確定と言っていい。
低ランクプレイヤーのヤル気をかき立てる為に見えない壁で”荒らし”が出ないようにしたのだろう。
もうQTが発売されてから結構経っていて今から始める奴が俺たちの様な高みに登るのは中々難しくなっているからだ。
しかし俺には運営の用意した壁をすり抜ける翼がある…
QTの追放して欲しいプレイヤーで殿堂入りした身としてはやらないわけにはいくまい。
最近大人しくしてたしね。
新たな伝説を立てるべく、そのイベントが開催される日を待った。
それからこのイグアルムクエの掲示板も立ち、結構な賑わいをみせるようになる。
公式がわざわざ神級装備を送るイベントなど初めてだったからだ。しかも、低レベルプレイヤー向けで。
どんな装備が貰えるのか、どんな敵が出るのか、複数人で協力して倒したらどうなるのか、など様々な議論がなされている。
そして、俺に関する情報が集まる専用掲示板でも俺が何かするんじゃないかという書き込みがいくつかあった。
しかし、流石に何も出来ないだろうと言う意見が大半であった。
俺自身は何も発言していない。
そしてイベント当日。実況板などもそこそこ盛り上がる中、俺もログインした。
すでにボヘミアの位置はイグアルムの近くに移動してある。
イグアルムの城にも昔とあるお遣いクエをして入った事がある。
クソ報酬で教皇をぶっ殺してやろうと思ったが、その時は非破壊オブジェクトだったので何も出来なかった。
しかし巫女という存在は見た事が無かった。それは他のプレイヤーも同様のようで、今回のイベントで特別に用意されたキャラクターなのだろうということで纏まった。
ブラフの力を借りて下の様子を見る。
街の外には沢山のプレイヤーがいた。イベント参加者も定時にならないと入れないんだ…
これ、プレイヤー同士の殺し合いがまず起こるな。
そして定時になり一斉にプレイヤーが街に入り王城を目指す。
しかし、街には既に魔族のモンスターがポップし始め、プレイヤーの足を止めている。
「やっぱりこうなったかー。街一つ戦場にした大規模なイベントか。凄いな」
そう言いつつ俺はボヘミアから街に向けて飛び降りる。
侵入禁止エリアはドーム状ではなく円柱型になっているので街の上にボヘミアで入れた時点で俺は絶対に入れるのだ。
そのまま<韋駄天の下駄>と<風纏>を使って一気に城に向かう。
一瞬で城に着き中に入る。そして教皇がいるであろう玉座に向かった。
低レベルプレイヤー向けに設置してあるモンスターがポップするが無視して走る。
後で来る奴らへのプレゼントだ。
そして玉座に入った時、そこには白い服を着たおっさんと、その脇に控える二人の可愛い少女がいた。
「見〜つけた。巫女さん二人いるのか。見た目よく似てるな。双子設定か?」
そんな事を言っていると扉の近くの床に黒い穴が現れ正に魔王!って感じのボスが現れた。
『ふふふ… 教皇よ。貴様の命もこれで終わりよ!』
『なんと!本当に現れてしまうとは!冒険者よ。頼む!この世界を救ってくれ!』
『『お願いします! 冒険者様!』』
プレイヤーが入ってきたら魔王が出てくるようになっているのだろう。
こっちを無視して勝手に会話を始める。
外で何やら大きな声が聞こえる。上手く敵をいなした奴がもう城に入ったのか。
さっさとやらねば。
『ふははは!このような貧弱な存在に何が出来る!尻尾を巻いて逃げ出すのなら命だけは助…』
魔王様に背を向け、教皇に向かって<潰命>を叩き付ける。
教皇はもの凄い速さで吹っ飛び壁にぶつかって光の粒子となり消えた。
壁は非破壊オブジェクトなのか。入り口を魔王が塞いで周りの壁を壊せないとなると結構きつい戦いになるな。
そしてすかさず<隷属の指輪>を装備して巫女さん二人にテイムを試してみた。
『巫女A、Bのテイムに成功しました』
出来ちゃったよ!しかも名前無いんだ!
さて、魔王はどうなったのか。
本来なら依頼を受注しないと街にすら入れないのに依頼を受注していない奴が教皇を殺し、かつ保護対象をテイムしたのだ。
これで普通に攻撃してくるのか?
そう思って後ろを見る。
すると魔王は武器を下ろして棒立ちになっていた。
「ハハハ! マジかよ!カカシになってる!」
その場から動かない魔王を見て爆笑してしまった。
すると丁度その時、他のプレイヤーが入ってきた。
「おっと、マズい! さらばだ!」
そう叫んでブラフの能力で作ったギルドに移動するアイテムを発動する。
当然テイムした巫女さんも一緒にね。
「え?! もう誰かいるの? っていうか、あれゼロじゃない?!」
そんな声を聞きながら俺はギルドに戻った。
俺はボヘミアに戻って新しくテイムした二人を自分のお付きにする事にした。
理由は凄く可愛いから。
公式が本気で力を入れているのがよく分かる。魂入ってるね。
[最上位テイマー]を使い見た目とステータスを変える。
ステータスは俺の秘密兵器12体と遜色無いくらいの強さにした。
一人は攻撃、一人は防御だ。
見た目は今は西洋の修道女みたいだ。二人ともそれだとつまらないので一人を和風の巫女に変えてみた。可愛い。そのコスチュームも装備に変え、とても強いものにする。
そしてそれを戦闘時の装備に変え、普段はメイド服にする事にした。欲望丸出しである。
細かい設定を施し、ようやく納得のいくモノにするのに丸一日かかってしまった。
すっきりとした気持ちでログアウトし、今回の事にどんな反応があるかをネットで調べる。
荒れに荒れていた。
俺に関する掲示板が炎上している。
最初は「こいつ、やりやがったwww」「期待を裏切らないわぁ」
みたいな書き込みが多かったが、俺が街に入れない事は皆知っているので、途中から俺がチートを使って荒らした、という話に変わっていた。
公式に苦情を言った者も結構いるらしい。
公式HPを見ると流石お客様に親切なQTスタッフ。
俺が何をしたのかをちゃんと説明していた。
『このたびのイグアルムイベントに関しまして、イベントに参加できない方がクエストに参加し、クエストの攻略が不可能になる状態になったというお話をお客様より伺いました。
今回、そのイレギュラーな訪問者(仮にZ様と呼ばせて頂きます)は不正な方法を一切用いておりません。
こちらから話すのはどうかと思いますが、今回の騒動を収めるためZ様のご許可を得ずにお話させて頂きます。Z様は浮遊島という雲の上に浮かぶダンジョンを攻略し、そこにギルドを作っています。浮遊島とはその特性ゆえ侵入禁止エリアの影響を受ける事がありません。それゆえにZ様はイグアルムの上空に浮遊島を移動させ中に入ったと考えられます。
今回この様な事が起こりましたが、我々は浮遊島に進入禁止エリアの侵入禁止という変更を加えるつもりはございません。
浮遊島はQT内でも5つしか存在しない大変希少なダンジョンです。
浮遊島という希少なダンジョンを制圧したボーナスの一つとして捉えております。
しかし、今回の一件で心を痛められたお客様が多く存在する事も承知しております。
Z様に置かれましてはゲーム内の平和を乱す行為は慎んで頂くようにお願いします。
今回、Z様には二つの称号を贈らせて頂く事になりました。特にペナルティなどはございませんのでご安心下さい。
今回の説明文でもう一つのイレギュラーに気付いた方がいらっしゃるかと思いますが、その事についてはゲーム内のシステムに関係する事ですので質問にはお答えできません。ご了承下さい。
以上 The quest for truth Project 責任者』
この文面はコピペされ2chやまとめサイトに広くバラまかれた。
公式が俺の味方をしたのだ。
俺を擁護するコメントを出したため、中級以下のプレイヤーはさらに荒れた。
しかし、ここで大きく驚いたのは古参のQTプレイヤーだった。
その理由はQT公式がゲームのシステムに関する事を教えたからだ。
このゲームの制作者共は”真理の探究”の"探求"に重きを置いており、何か質問をしたとしてもそれに回答する事が無いのだ。
何か不具合のようなモノがあれば公式に訴えるのだが、バグで無い限り一切の返信を寄越さない。
自分で探し、自分で見つけろというスタンスを強固に、それはもう強固に取り続けているのだ。
しかし、今回は俺以外のプレイヤーはカラクリに気付く事が出来ないから教えたのだろう。
予想以上に荒れたしね。
この後、浮遊島探しがブームになる。
魔法で空を飛び、地面に落ちて死ぬ魔法使いが大量に湧いた。
<韋駄天の下駄>を取ろうとするプレイヤーがメチャクチャ増え、ドロップ率が下方修正されたとの噂もある。
しかし、結局浮遊島が見つかる事は無かった。
QTの広大なマップに5つしか存在せず、かつ雲の上にあって通常は見えない。そんな物が見つかり、かつ制圧した者がいるというのがそもそもおかしいのである。
またしても他プレイヤーからヘイトが上がった俺はSランクの掲示板を見ている。
そこでまた同じ奴から声をかけられた。
「ゼロさーん。やらかしましたねー。まさかギルド持ってるなんて。どうやって作ったんです?」
「それについては答えられないって公式メッセで最後に書いてあっただろ?」
「いやー。空の上のギルドですかー。地の底にある私のギルドとは正反対ですねー」
「何かと縁があるよな」
「今度私のギルドに遊びにきて下さいよー」
「ヤダよ。絶対殺されるからな」
「<呪い完全無効>なんてチート持ってるんですから、私の十八番完全に潰されてるんで大丈夫ですよー」
「はははー。いつかなー」
「約束ですからね!」
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死体になった教皇を見て、ボヘミアに戻った時に再会したナーサとダスラを見て俺はあの時の出来事を鮮明に思い出した。
今は神国の前にニーナの実家に行く途中である。
「どうしました?」
そう隣に座る女子高生くらいの奇麗な女性が声をかけてきた。
「いや。この世界の前の世界であった事を思い出してね」
「やはり、元の世界が恋しいですか?」
「ん?ちがうちがう。前の世界でやってたQTの事を思い出してたんだよ」
「はぁ。そうですか」
その時扉が叩かれてナーサの声が聞こえた。
「ゼロ様。間もなくモーガンの屋敷に到着します」
「おう。準備する。貴女は付いてくる?」
「私は待っていますよ」
「そう。じゃあ行ってきますか。暫く休んだことだし。新しい章の始まりってとこか」
そう言って俺は扉を開け、次の依頼をこなしにいく。




