ホウガンの戦い
こっちは圧倒的な力による抑止的な勝利です。
「イシャーナ、ここでやるな。フェリスはデルニオーラと遊んでろ。ギルド武器は破壊して良い。物自体の耐久はほとんど無いから簡単に壊せるんだ。まぁ、デルニオーラは殺さないでおいてやれ。エストリーは雑兵の処理だ。俺は教皇を殺る」
「はい!」「御意…」「オッケー!」
皆元気よく返事をしてくれた。
相手が身構える隙さえ与える事無くイシャーナが一瞬でお姉さんの前に現れ手をかざす。するといきなりお姉さんの姿が消えた。
空間魔法で自分の空間に飛ばしたのだ。
「な、何が?!」
そう驚きの声を上げるデルニオーラの前にこれまた一瞬で距離を詰めるフェリス。
「いやー。どれだけやれる方なのか存じませんが、修行の成果が出せるでしょう!大丈夫です。殺しませんから!」
そう言って手を前に出した。 「闇よ 覆え!」
フェリスの手から黒い霧が出る。最近のアイツの魔法は俺もよく分からない。全て霧を出すのだ。食らってから効果が分かるような厄介な闇魔法を使うようになった。
デルニオーラは抵抗する間もなく黒い霧に全身を包まれる。
「御主人様。私も別の場所で戦います!」
「おう。無理すんなよ」
「大丈夫です!」
そうガッツポーズを決めて自分もデルニオーラを包む霧の中に入っていった。
「さぁ、教皇様よ。俺たちも始めよう」
見た目からして魔法を撃つタイプのギルド武器なので俺は<閃光>を装備する。
「くそ!力を分散させない為に直接ここを攻めたか… アレナを見捨て勝ちを得ようとは…」
「はぁ?何言ってんだ?アレナにもホウガンにもこれ以上ない、今ここにいる戦力よりも強力な集団を向かわせてるっつーの」
「馬鹿な!そんなのデタラメだ!!」
「うるさいな。すぐに分かるさ。エストリーは部屋を出てこっちに向かってくる敵の処理を頼む。巻き込まれちゃうぞ」
「ういっす〜!」
俺は相手の動きを待ち閃光に手をかけ、教皇がギルド武器を振り上げた。
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ゼロが首都につく数日前。
ゲイルは一人街の外に立ち皇国の騎士達を待っていた。グリフォンは俺の横にいる。ゼロの元に戻れと言ったのだが動こうとしなかったのだ。
自分一人では抑えきれないだろうが街の中で戦うより外で出来るだけ数を減らしたいと思ったのだ。少し前から沢山の馬が走る音が聞こえてくる。何百もの敵が攻めて来るのが分かった。
「さぁ… 来やがれ。言い出しっぺだからな。護ってみせるぜ…」
別にゼロの援軍が来るから今回のホウガンの守りを引き受けたわけじゃない。
そんな話がなくても自分はこの街を守りに駆けつけたはずだ。
自分が唯一腰を落ち着けられる場所だ。護りたいと思うのは当然である。
向こうから土煙が見え始めた。ゲイルは自分の愛刀を抜き構える。
すると背後から複数の気配がした。
「おい。お前らが出てきてどうすんだ。街で守りを固めろよ」
「街にいてくれてる奴はいっぱいいますよ。一人で迎え撃つなんて流石のゲイルさんでも死んじゃいますって」
そう言ったのはホウガンに定住して冒険者をやっている古株の奴だ。
他にも50人くらいが来ている。
「おいおい… 50人来たからってそこまで変わんねぇよ。お前らこそ無駄に死ぬ事ねぇって」
「ゲイルさんからそんな優しい言葉が出るなんて驚きですねー。ゼロ君に会ってホント変わりましたね」
「はっ!俺は元々優しいんだよ。お前ら!ヤバくなったら逃げろよ!別に死ぬこたぁねぇ!」
自らを鼓舞していると敵が迫ってきた。数はおよそ300ほど。
全員が甲冑に身を包み半数は馬に乗っている。100m程の距離で騎士達が止まり騎士団長のパウエルが叫んだ。
「これよりホウガンをインペラ皇国の反逆の罪で滅ぼす!街の者の総意と言う事だが間違いないな!」
「おう!俺たちはゼロに味方する!お前らの言う事なんか聞けるか!!」
「では、これより粛正を開始する。魔法隊、前へ!邪魔な冒険者共を一掃しろ!!我々と剣を交える事すらさせるな!グリフォン用の武器も用意!」
特殊な甲冑に身を包んだ50人程が前に出て杖を構える。
あの甲冑は普通の甲冑じゃない。なにか魔法の力が宿っているのが分かる。
「あれ?ヤバくね?」
「「炎よ 敵を焼き尽くせ!」」
全員が同じ炎の魔法を一斉に唱え、目の前から大量の炎の玉が迫ってきた。
「おいおい… いきなりそれか… 散らばれ!何としても回避しろ!」
ゲイルはそう大声をあげ敵に突っ込む。
「ゲイルさん!!」
そう後ろから声が聞こえるが無視して隊長の首を取ろうと走る。
炎の玉や着弾した爆風を避けながらただひたすらに走る。
「弓、用意。突っ込んでくる馬鹿に数名、他は後ろで踊ってる冒険者に浴びせろ…
あの馬鹿は矢が当たって動きが鈍ったらもう一度魔法を叩き込め。骨も残すなよ」
そうパウエルは命令を出し弓兵が弓を絞る。
後ろでは死者はいないものの、傷を負った冒険者は少なからずいた。
空にいるグリフォンも雨のように降り注ぐ攻撃を避けるのに精一杯という感じだ。
10名近い弓兵がすぐ近くにいるゲイルに向かって弓を射、他の100名程が後ろの冒険者に向けて弓なりに矢を放った。
ゲイルは飛んできた弓を出来る限り落とすが数本足に刺さる。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
それでも歩みを止めず剣を振りかぶってパウエルを斬ろうと進む。
「まったく… 見苦しいな。なぜ死ににくるのか理解出来ん。おい、お前、さっさと燃やせ」
「はっ!」
近くにいた魔法兵に指示を出し、詠唱を始める魔法兵。先ほどの魔法を放つようだ。
「ゼロ!!絶対に勝てよぉ!!」
そう叫んで剣を思い切り振りかぶって油断しているパウエルに投げつける。
こんな状況で戦ったってどうやっても死ぬのだ。ならば相手に出来るだけ近づき、それでも相手が余裕を見せる状況にした上で決死の一撃を敵の大将にぶち込む。それがゲイルの考えた作戦だった。乾坤一擲と言ってしまえばその通りだが、学の無い自分に出来るのは己の命を賭けた博打しか無いのだ。
しかし、剣をまさに放すその時、弓兵が正確にゲイルの腕を撃ち抜いた。
「ぐっ!」
痛みはそれほどでもないが狙いが少し狂い、威力も殺されてしまう。
そしてゲイルの視界は魔法兵の放った魔法で見えなくなり死を悟った。
(あーあ… 本当にガラにも無ぇ事しちまった。殺されるなら伝説級のモンスターとかが良かったんだが… まぁ、しょうがねぇよな)
口元に笑みを浮かべ死を受けいれる。
しかし、突如自分の目の前に一人の男が現れた。
「ウラァッ!!」男はそう叫んで腕を振るう。魔法が男の腕に直撃し爆発した。
「は…?」
突然自分と魔法の間に割って入り自分の腕を吹き飛ばしに来た男を呆然と見る。
しかし煙の向こうから男は何も無かったかのように声をかけてきた。
「よう。兄ちゃん。一人で突っ込むとか何考えてんだ? 覚悟は認めるけどよぉ。流石に無理があるんじゃねぇか?」
煙が晴れて姿が見えた。ソイツは戦場に相応しくない軽装で髪をオールバックにし威圧感を振りまいている。そして彼を見た瞬間ゲイルは理解した。この人は神だと。
これはゲイル達も気付いていない事なのだが、QTにおいて神とは一つの種族として捉えられている。そして誰がどの種族かは<詐称>などで偽装しない限りは見ただけで何となく分かるのだ。
でもゲイル達は神に出会った事は無いので神に出会ったら分かるかなんて議論にもならないが。
ちなみにインペラ皇国の上層部では心麗を唯一神としていて、他は神を騙るモンスターなんて考えている。
「あ、貴方がゼロが寄越してくれた助け…ですか?」
「おう。もちろん俺だけじゃないけどな」
戦場という事も忘れ呆然としていると叫び声が聞こえてきた。
「くそぉぉぉぉ!!あの馬鹿冒険者が!私に傷をつけるだとぉ?!おい、お前!ちゃんと焼き尽くしたんだろうな?!」
魔法兵はゲイルの前に盾のように立った男を呆然と見ていて返事を返さない。
代わりに一人の兵が怯えたように言った。
「パ、パウエル隊長… う、上に…」
「あぁ?! ……な、何だ…? アレは…」
怒鳴ろうとしたパウエルの言葉が尻窄みに小さくなっていく。
空にいたのは化け物の群れ。邪悪な見た目をした悪魔の軍勢という言葉が相応しい集団だ。
「ふぅ… 間に合いましたかー」
後ろで矢の雨を浴びるはずだった冒険者の前にはラバナが防御魔法を発動し護っていた。
突然降り注ぐ矢が消えた事に驚く冒険者はラバナに声をかける。
「あの… すみません。貴方は一体…」
「ん?僕はゼロ様の忠実な僕だよ。このホウガンを護るように命を受けて来たんだ。あの脳筋達は止め時を分かって戦ってくれるのかなー。不安だよ…」
攻撃を防いでもらったグリフォンがラバナの横で頭を下げ、それを撫でながら誰に言うでも無く呟いた。
「おうおう!!お前らが俺たちの頭、ゼロ様の敵で間違いねぇな?!俺はラクシャって言う者だ!このホウガンを護るよう命を受けてな!どうする?今大将の首を差し出して降参するなら雑兵は殺さないでおいてやる!やるってんなら掛かってこい!俺たちの全戦力で潰してやっからよぉ!!」
そう辺り一面にドスの利いた声を響かせるラクシャ。
上空の軍勢を見ても何が起こっているのか全く把握出来ていない騎士達はラクシャの言葉にも反応出来ずにいる。
その中で言葉に返したのは突然の神の出現で錯乱状態に陥ったパウエルだった。
「き、貴様は何者だ!わ、私の首を出せだと?!何を無礼な事を言っているのだ!神を騙る悪魔が!!」
「は?確かに俺の仲間には悪魔の神もいるが、俺のベースはお前らと同じだぜ?で、大将さんよ。アンタ、俺たちと戦って勝てると思っているか?思ってないんなら部下の命を救うために己の命を差し出せ。漢を見せな」
「相手は悪魔に身を売った世界の敵だ!我々には女神様がついていて下さる!総員、あの悪魔の軍勢を殲滅するぞ!!」
そうパウエルは叫ぶが、その声に呼応したのは皇国の教えにどっぷり嵌っている者だけだ。
殆どの騎士は目の前の化け物に恐れを抱き今にも逃げ出しそうだ。
「おいおい!てめぇ、黙って聞いてりゃ俺たちが神を騙る悪魔だぁ?兄貴を馬鹿にすんのも大概にしろや!」
上空から体に炎を纏ったアグニがラクシャの隣に下りてくる。丁度風が騎士側に吹いている為熱気がそのまま騎士達に伝わった。
20m近く距離があっても結構な熱が伝わってくる。
更なる神の出現に大半の騎士の心は完全に折れた。
「兄貴、もうさっさとアイツの首取っちまいましょうよ」
「出来れば降伏を宣言させてからが良いんだよ。なるべく犠牲を出すなって頭がおしゃったろ」
「へぇ… でも、アイツの目イっちゃって無いっすか?変な事言い出す前に殺した方が良くないっすか?」
「まぁ、最後通告くらいしてやろう。
最後にもう一度言うぞ!俺たちと戦わない奴は剣を捨てろ!大将は降伏を宣言して首を差し出せ!それで終わりだ!」
「ふ、ふざけるなよぉ!いきなり現れて何をほざくのだ!総員、武器を取れ!この世界の敵を我らが誅するのだぁ!!」
「はぁ… アグニ。やっぱお前、ちょっと殺ってこい」
「うっす!!」
アグニは自らの体を炎に変え、パウエルに近づく。そして上半身を出現させパウエルの胸ぐらを掴み上空に上がった。
皆が見上げる中アグニは大声を上げる。
「俺たちと戦うってのはこういう事だ!見とけ!!」
突然パウエル足下が炎に包まれる。パウエルは絶叫を上げもがくが、アグニの体は炎なのでただの物理では掴めない。もがきながら足が燃えて炭になっていくパウエル。
戦場に血を吐くようなパウエルの絶叫が暫く響いた後、パウエルの首から下が一気に炎に包まれ燃え尽きた。
残っているのは頭だけ。
そしてアグニは頭上に巨大な火の玉を出現させた。それはまるで太陽だ。高温の熱が感じられる事からアレが幻惑でないことは皆が理解している。まさに神の力と呼ぶに相応しい物を見せられて戦いたいなどと思う者がいるはずが無い。
皆が剣を捨て、死を待つ罪人のように頭を垂れる。
その光景を見たラクシャはゲイルを見て言った。
「よし、これでここの戦いは終わりだ。俺たちはコイツらつれて首都ってとこに行かなきゃならねぇ。お前、案内しな。頭にコイツらを届けなきゃいけねぇんだ。あとイグノーって奴も動向させるから呼んでこい」
「は、はい。分かりました」
そう気の無い返事をするのが精一杯のゲイル。
結局ホウガンの戦いは死者一人という結果に終わった。
結果的にいくつかに分かれた戦場で一番暴れん坊の連中が一番死者を出さずに戦いを終わらせる事になる。
そしてそれはこれからずっとネタにされるのであった。




