ホウガンの決意
イグノー視点の話ですね。
ゼロがこの街を去ってから色々な事が起きた。
組合長が死んでからこの街のトップが私になったのだ。街の皆から頼まれたので断る訳にもいかなかったが正直荷が重い。
まずは組合長が死んだ事を首都に報告しなければならなかった。
首都で政治をしている者はここの者とは全く違い、人間を至上の種族とし他種族は畜生であると考える者が多い。差別をあまりしないホウガンを疎んでいる者も多く、何かと風当たりが強いこの街で組合長が死んだなどと報告したらどのような事になるか… 胃が痛い。
しかも、街の者達は騎士に対する不信感を募らせており、首都の言う事素直に従う者はいない。
この街はどうなってしまうのだろう… 最近は戦闘の出来ない者がそういう不安を抱いている。
それから一月たって嬉しい話が飛び込んできた。
アレナ共和国で民主的な国を目指す者が王になり、その立役者が何とゼロなのだと言う。
少し暗い雰囲気のこの街はこの話で活気づいた。
冒険者の皆もこの街を守ろうという思いを持ってくれた者が現れ、国と敵対するような事はして欲しくないと思う反面頼もしいとも思ってしまった。
そしてそれから間もなく、首都から一通の手紙が届いた。
そこに書いてあったのは信じられない内容だ。
なんとゼロを国の重犯罪者として首都に出頭させろというものだった。勝手にゼロが組合長の殺害を行ったと決めつけ、更にはマークス様を攫ったのはアレナ共和国であるとも決めつけていたのだ。そこから、ゼロがアレナと共謀し、この国を攻めようとしているなどと言いがかりをつける文言が並んでいた。獣人の少女の奴隷についても書かれており、ゼロは人間ではない、などとすら書かれていた。最初頭を抱えた私は読むにつれ怒りが込み上げてくる。
首都の馬鹿共は自分の言う事は全て正しく従うのが当たり前だと思っている。マークス様がいなくなってからその思考が加速しているのが分かった。
まさか、アレナと戦争をするつもりなのか…
そんな不安がよぎる。
私は組合長殺しの現場に騎士の物と思われる剣が使われていた事、ゼロは無実である事を嫌みを籠めて書き、ゼロの行方は分からないと返信した。
まさかホウガンに何か危害を加える事は無いだろう、そう思っていたのだが私の考えは否定された。
更に一月。首都から手紙が来た。
そこに書かれていたのはなんと、私がゼロを隠し、国にクーデターを起こそうとしていると嫌疑をかけ軍を派遣するという内容だった。しかも、アレナ共和国に戦争を仕掛けることが決まったのでこちらからも兵を出せという内容だった。
「この国の為政者は狂ってしまったのか… 本当にアレナ共和国に戦争をしかけるなんて…
国に従って戦争に参加する者がこの街にいる訳ないじゃないか… 確実に問題が起こるぞ。まさかその為に軍を…」
私はこの話を街にするかどうか迷っていた。話せば確実に混乱が起こるが、いきなり軍が来ても混乱が起こってしまう。遅いか速いかの違いなのだ。
数日悩んでいると部下がノックもせずに私の部屋に慌てて入ってきた。
「イ、イグノー様!大変です!ゲイルさんがグリフォンに乗って戻ってきました!!」
「いきなり部屋に飛び込んできて何を言っているのだお前は…」
「これからここにゲイルさんが来るそうです!何でもゼロ君の事で重要な話があると!」
「なんと!アイツはゼロ君と合流したのか!まさか彼は武封国に着いていたのか?」
「詳しい話は聞いていません。急いでお伝えしなければと思って」
「あぁ。その判断は正しい。よく教えてくれた」
約半年ぶりにあったゲイルは更に鍛えられていた。
「おぉ!ゲイル。よく戻った。グリフォンに乗ってきたらしいが、一体お前に何があったんだ?」
「このグリフォンはゼロの贈り物だ。これでこの街を守れってな…」
「この街を守れ…」
不穏な言葉で彼の言いたい事が何となく理解出来てしまった。
「あぁ。これがアイツからの手紙だ。端的に言うが、アイツは皇国と武封国の国持ちデルニオーラの同盟から戦争を仕掛けられた」
「な!ゼロ君が!?」
「あぁ。アイツは武封国でダンジョンを攻略して国持ちになってな。前から国を持っていたなんて言っていたが… 皇国はアレナに戦争を仕掛けただろ?ゼロはアレナの側に着いたんだ。で、デルニオーラは前から皇国と繋がりがあったらしくてな。今回の戦争に参加するらしい。そんな状況なのにアイツはこの街を心配して俺にこの街を守ってくれなんて依頼をしてきやがってな。俺もこの街には情があるんで自分から行くつもりだったんだが…」
「な、なんて事だ… そんなに大きな話になっていたのか…」
「この国の首都の連中はどうなっちまったんだ?」
「もう、正常な判断が出来ていない。私にもゼロ君を匿っている嫌疑をかけられた。今騎士がこちらに向かってきている」
「おいおい!この街の連中が騎士なんかに従うかよ!!組合長の件もあったっていうのに!」
とりあえず私はゼロ君からの手紙を読む。
予想に反してそこには今までの彼の旅が面白おかしく書かれていた。
アレナでの出来事、武封国での出来事。こんな状況でなかったら大笑いしている。
しかし今は笑えない。
この手紙の最後にはこんなことが書かれていた。
『ホウガンは皇国の街です。僕はホウガンを攻める事は絶対にしませんが、ホウガンの街が皇国の一員として僕に敵対するのは仕方の無いことだと思っています。しかしホウガンの方々は権力に縛られることは無いでしょうからもしかしたら首都の決定に異を唱えるかも知れません。その時の為にゲイルさんにお願いして街を守ってもらうよう頼みました。一応僕の仲間もホウガンに向かわせます。その時に貴方がどちらにつくのかを聞かせてもらいたいです。皇国に付くのなら部下は下がらせます。街の人達の為には素直に皇国の決定に従った方が良いのではないかと思います。仮に貴方達が仕方なく僕の敵に回ってもホウガンは僕の大切な街なので傷つけたりしないと約束します』
手紙を握る手に力が入る。私は一体どうしたらいいのだろう。
ゼロの言っている事は正しい。ゼロに付くのは国への反逆だ。これを街の皆に強要する事は出来ない。しかしゼロと敵対したい者がこの街にいるのか…
どちらかは選ばなければならない。
「ゲイル… 私はどうすればいい?」
「したいようにしろ。と言いたい所だが、お前の決定は多くの者の命を左右しちまうからなぁ。
もう、街の奴らに直接問うしかねぇだろ」
「そう…だな。しかし、これでこの街が二つに分かれてしまうのが何より恐ろしい」
「それも仕方ないだろ」
「はぁ… なんでこんなことに…」
結局私は街の者に話す為演説の場を設けた。
位置は門にした。実は門の上には乗れるようになっていて有事の際は見張りが付くのだ。
街の人が見守る中私は話を始めた。
「皆… 集まってくれてありがとう。今回はある決定を皆に問う為に集まってもらった。皇国がアレナ共和国に戦争を仕掛けた」
ざわっ!!と下が騒がしくなった。
「今ので気付いた者もいるかも知れないが、ゼロ君は共和国の方に付くそうだ」
これで更にざわめきは大きくなり涙を浮かべる者もいる。
「実は、以前から首都の連中はゼロ君を敵視していてな… 前にゼロ君を首都に出頭させろと言う手紙が来たのだ。手紙が来たときは彼は既にホウガンを出ていたのでその事を書いたら私が彼を匿っているという嫌疑をかけられた。今この街に軍が向かっているそうだ…」
最早ざわめきは怒号になっている。
「今回イグノーが戻って来たのはゼロ君の頼みだそうだ。もし我々が国の意見に従わず、国から攻撃を受けた際に守ってもらうためだと。ゼロ君は手紙で皇国側に従った方が街の者が傷つく可能性が下がるから従っておけと書いてあった。しかし、皇国に従えば我々は安全なのだろうか?私はそうは思わない。実はずいぶん前からマーカス様が行方不明になっていてな… それにより上層部は完全におかしくなってしまったようだ」
突然この国が壊れかけていることを聞かされ混乱に包まれる民衆。
その時ゲイルが吠えた。
「お前ら!イグノーの話ちゃんと聞いてんのか!混乱するのも分かるがそんな時間はねぇんだよ!どちらを敵に回すにしろもう動き出してんだ!難しく考える必要はねぇ!ようはどっちに付けば勝てるかだ!死にたくねぇだろ?!俺だってそうさ!だから俺はゼロに付いた!お前らはどうしたい!?」
「ゲイルはゼロ君に付いたのか…」
「あぁ。グリフォンに乗ってきた時点で分かるだろ。いいか?俺が乗ってきたグリフォン。あれはゼロが召還したんだ。召還だぞ?あいつこの街で召還魔法なんて使った事無いよな?それを見た時俺は理解したよ。こいつはまだまだとんでもない物隠し持ってるってな。戦争を仕掛けられたのにアイツはいつも通り飄々としてやがるんだ。武封国じゃ誰も攻略出来なかったダンジョンを次々に攻略するしよぉ… 再会は俺が死にそうになってる所を助けに入るって状況だった。前にこの街で飯食ってる時にアイツは僕は神だって殺せますからねーなんて言ってたが、今なら分かる。アレはマジだ。今回の戦争は絶対にゼロが勝つ。それも圧倒的な勝利だろう。この街に援軍を送ると言っていたがどんなのが来るのか俺は恐ろしいよ。なんか、この世界の常識を壊しちまう物がくるんじゃねぇかってな… まぁ、俺は今までのゼロを見てきたからこう言えるんだが、この中には俺の言葉が信じられない奴もいるだろう。選ぶのは自分自身だ。でも腹くくれよ。誰もが命をかける状況に否が応でもなっちまうんだからな」
ゲイルがそこまで言うと街の皆は静まり返っていた。ゲイルがそこまで言うのか…と。
「さぁ、皆。決定の時だ。それぞれに思いがあるかもしれないが街としての決定を出さなければいけないんだ。皇国に従うか、ゼロ君に付くか… 私はゼロ君に付きたいと思う。あのゲイルがここまで言っているんだ。それに彼の力は本当に計り知れない物があるのを私も感じていたしね」
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皇国騎士団長のパウエルは今回のホウガン行きが大変不満であった。
なぜこれから戦争が起こると言うのにこんな田舎に行かなければならないのだ。
「まったく。反逆者なぞその場で叩き斬ればいいのだ」
「抵抗されたと言う事で斬ってしまえばよろしいのでは?あの下品な街は栄えある皇国には必要ありません」
そう隣の部下が言う。
「ふはは。それもありだな。大人しく言う事を聞かなければ街の者も含めて斬ってよいぞ」
後ろで歓声が上がる。
さぁ、相手はどんな反応をするのだろう。出来れば抵抗してもらいたい。人を斬る機会は戦争で得られるだろうがその前に試し斬りがしたいからな…
実際は皇国の上層部の方が真実が見えていますよね。
マークスも組合長もゼロが殺しているわけですし。
真実を言っている権力に目がくらんだ連中と嘘をついているけど自分たちに味方をしてくれる冒険者、ホウガンの人の幸せはどちらがもたらしてくれるのかと考えると真実が必ずしも人を救ってくれるわけじゃないのかなとも思いますねー。
ようは力があって利益をもたらしてくれれば嘘だろうが真実であろうがどっちでもいいんですよね。
残酷な現実より優しい嘘。




