その頃現実では2
私、QT制作責任者の越田進は一人のプレイヤーがゲームから消失したという報告を受け、まず誰がいなくなったのかを調べた。
ログアウトしたのではなく、いなくなってしまったのだと言う。
私は500人の参加キャラクターから今存在が確認できないキャラを特定させた。
そのキャラクターは『ゼロ』というLv.999のキャラクターらしい。
嫌な予感がわき上がる。
なぜならばそのキャラクターはゲームの内情をあまり知らない私でも知っているあまりにも有名な名前だったからだ。
しかし、『ゼロ』なんて名前を付ける人は他にもいるだろう、どうか杞憂で終わってくれと思い更なる細かい情報を持ってこさせた。
キャラクター名;ゼロ
Lv;999
ジョブ;武神
スキル;強奪、詐称、盗聴、獲得経験値増加………
ここまで呼んで嫌な予感は確信に変わる。
自分が知っている『ゼロ』だ。
我々が[通り魔王]という称号をおもしろ半分で新たに送り、通常モンスターの種類8割以上、ボスモンスター100種以上、プレイヤー1万人以上を屠った者に送る冗談で作った[世界の敵]という称号をマジで獲得した伝説のプレイヤー。
(そして、こいつが前田の復讐対象だ… 前田、一体何をしたんだ?
そもそも消えるとはどういう事だ?このゲームは今プレイヤーからNPCに至るまで動きがある程度わかる。 なにか異物が紛れれば分かるはずだ…)
とりあえず、『ゼロ』の捜索をスタッフにさせながら私は『ゼロ』が強制ログアウトになるのを待った。
このゲームは意識をゲーム内に飛ばすのでそのまま制限なしにプレイさせたらコアなゲーマー共は死ぬまでやる可能性がある。
死人なんて出す訳にはいかないのでQTでは8時間ログインし続けた場合、強制的にログアウトしその後12時間は再びログインできなくするというシステムをとっている。
ゲーム内の24時間は現実の4時間である。つまり、2ヶ月でゲームの1年が経過するのだ。
上にはまだ報告はしない。
何とか最長でもあと8時間で解決してみせる。
そう考えた。
結果として私の願いは叶えられなかった。
8時間経っても『ゼロ』こと碓氷境彌はログアウトせず、どこに行ってしまったのかさえ分からなかった。
上に報告はしたが,した所でこのVRMMO媒体を一番良く分かっているのは自分のスタッフであり彼らが解決できないのだから他に頼る者はいない。
『ゼロ』の登録情報から個人情報を出し、警察にも相談して彼の家に行った。
同時に今回の事件を起こした可能性の高い前田芳郎の家にも別の者に行ってもらった。
かなりの豪邸に住んでいる境彌青年はゲームをする為のヘッドギアを身につけ意識が無い状態だった。
ここで電源を落とすと何が起こるか分からない為、警察に事情を説明し救急車を呼んで病院に搬送してもらった。
数日後、この事件は大きく報道された。
ついに実現されたVRMMORPGで制作サイドの故意の不正で一人の青年の意識が行方不明になってしまったこと、しかもその青年が有名な政治家の一人息子であったこと、など十分な話題だった。
さらに悪い事に容疑者であった前田は自宅で死亡していた。
死因は違法薬物の大量摂取による不整脈。自殺の可能性は低いという事で事故死扱いだった。
メモには「常識のない糞ガキに正義の鉄槌を下した。俺は英雄になる」と書いてあったらしく、肝心の境彌青年に行った事についてはパソコンも処分されていて何も分からなかった。
QT掲示板ではあの『ゼロ』の正体が現実世界では完璧人間として周囲の人間から尊敬されるような人物であった事に驚きの声が挙がっていたが、政治家の子どもなら歪むんじゃね?という偏見で一応の落ち着きを取り戻したらしい。
我々は外と中から境彌青年を探し続けた。彼も戻りたがっているだろう。
当初我々は彼程のステータスと装備を持つ者なら目立たない方が珍しいだろうと考えかけたが、前田がステータス調整の一翼を担っていた事に気づき焦った。
ステータスも種族も名前も装備も何もかも異なるモノにされている可能性にすぐに気付き絶望した。
彼以外のプレイヤーは問題なくプレイできているのであくまで個人を狙って起きた事件であると認定され、ゲーム自体の危険性は否定された。
我々は彼を捜し続けている。
事件から1年、まだ彼は目を覚まさない。
彼はゲーム内で6年の歳月を過ごしている事になる。
病室の彼も痩せてしまった。
父親の碓氷辰夫氏はVRゲームの安全に関する法律を作ろうとしている。妻の真紀子さんは鬱になってしまった。
俺もこの前解雇通知を受けた。彼を捜させて欲しいと訴えたが、責任を取らなければならないだろうと言われ何も言えなくなってしまった。
俺は一人で暗い部屋に膝を抱えて座っている。妻とは半年前に離婚した。
俺が何をしたというのだ。あのコミュ障のオタク野郎のせいで人生台無しだ。
「……こんな世界嫌だ」
そう呟いたとき、不謹慎だがゲームの世界に閉じ込められた彼を羨ましいと思った。
こんな息苦しい世界ではなく魔法と剣の世界で彼は楽しんでいるのだろうか。
彼の現実とゲームの振る舞いの違い、ゲーム内の彼が本来の彼なのではないか。
俺はこれからどうすればいいのだろう。少なくとも彼が目を覚ますまでは生きていようと心に決めている。
どうか無事でいて欲しい、そう思い俺は酒瓶に手を伸ばした。




